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198. あまりに暑い

 暑い。とにかく暑い。いや、暑いという言葉では足りない。まるでオーブンの中で焼かれている気分だ。


 俺たちが居るのはライラブラの迷宮のひとつで『火の河』という名前のダンジョンだ。壁や床は赤みを帯びた岩でできている。内部は広く、ところどころに河が流れていた。まあ、河は河でも溶岩流なのだが。うっかり落ちればカリカリに焦がされて死んでしまうだろう。


 いや、下手をすれば、この場にいるだけでも死んでしまうかもしれない。凄まじい熱気がじわじわと体力を奪っていく。これでレベル30台の狩り場だというから驚きだ。


「ますた……ルゥ、ここ無理……」

「やっぱり無理か。なら、宿環に戻っていろ、フェリルもな」

「あい」

「……」


 ドライアドとフラウルは高温環境には向かないらしい。ルゥルリィは苦しげな表情を浮かべ、フェリルに至っては吠える気力もないようだ。すぐに宿環に戻すが――……


「どうだ? 耐えられそうか?」

『ルゥ、宿環でお留守番する……』

『わ……ぅ』


 どうやら、それでもこの熱気は堪えるらしい。返事は芳しくなかった。


 一応、二人ともネーフェから環境による悪影響を緩和する加護をもらっているはずなのだが、それでもこの有様だ。予測はしていたが、地形との相性がかなり悪い。


 かくいう、俺も相性が良いとは言えないが。当然だが、ヒュムの体は溶岩地帯で活動するのに適していない。それでもある程度耐えられるのは、レベルとステータスの恩恵だ。


「ペルフェは大丈夫か?」

『あ、うん。僕は平気』

「いつの間に武器の中に。ちゃっかりしてるな」


 ヒュム姿でダンジョンに入ったはずのペルフェは、いつの間にか剣に宿って熱さをやり過ごしていたようだ。武器状態のアーマニアは環境による悪影響をほとんど受けないらしい。


『ちゃっかりじゃなくて、しっかりって言ってくれないかな。この状態で無理しても意味ないでしょ』

「まあ、そりゃ確かに」


 全員が暑さに参ってしまうよりは、一人は万全の状態で動けた方がいい。言っていることはもっともなんだが、それでも羨ましく思えてしまうな。


『それでどうするの? 僕はともかく、ルゥルリィとフェリルにこの環境は無理だよ。ジンヤだって、厳しいんじゃない? このダンジョンを探索するなら、何か対策しないと』

「その対策のために、探索したかったんだがなぁ……」


 最初にこのダンジョンに挑んだのは、スキルドレインで熱に関する耐性スキルを獲得できると考えたからだ。過酷な環境に身を置く魔物は、それに対する耐性スキルを持っていることが多い。ここならきっと高温耐性とか熱耐性とか、そんなスキルが手に入ると思ったのだ。


 環境耐性スキルは持っているだけで効果を発揮するから腐りにくい。確保できるときに確保しておこうと安易に考えたのだが甘かったか。


「だけど、腑に落ちないな。ここはレベル30前後の探索者が活動するダンジョンって聞いたんだが」


 迷宮の情報は探索者ギルドである程度公開されている。上級探索者が挑むような高難度ダンジョンなんかは情報が少ないが、この『火の河』はライラブラではぎりぎり下級に分類されるダンジョンだ。それなりに情報は開示されている。それはつまり、活動する探索者もそれなりにいるということ。そう思ったからこそ挑んでみたわけだが、その結果が今の状況である。おそらく何かが足りていない。


 俺とペルフェだけなら、無理矢理進むこともできるだろうが……できればやりたくないな。他に手がないなら別だが、効率的な対策があるなら是非試したい。それくらいには、過酷な環境だ。


『うーん、僕もここまでとは思ってなかったよ。以前は、自分たちの種族適性に合わないダンジョンに挑戦しようとは思わなかったし』

「ああ、なるほど……」


 かつてライラブラで活動していたペルフェも『火の河』での活動経験はないらしい。言われてみれば当たり前か。ここには幾つもの迷宮が存在しているのだ。わざわざ不向きな迷宮に潜る必要はない。


 裏を返せば、ここに潜るのは熱さに強い種族で構成されるパーティーということだな。そういった連中にとっては、きっと悪くないダンジョンなのだろう。過酷な環境である分、ライバルが少ない。


「一部の種族向けの迷宮ってことか」

『あとはまあ装備かスキルで対策した探索者向け、だね。この街は宝箱からいろんな装備やスキルが手に入るから』


 装備はわかるが……スキル?


「宝箱からスキルが入手できるって、ちょっと想像がつかないな」

『そう? ジンヤだって、いつも魔物から奪い取ってるじゃん』

「スキル結晶体のことか?」

『そうそう。あんな感じの石が手に入るんだよ』


 驚いたことに、ダンジョンでは結晶体のような形でスキルが手に入るらしい。そちらは技能石と呼ばれているようだ。見た目も結晶体とは違って、もっと宝石っぽいのだとか。まあ、使ったときの効果はあまり変わらないようだが。


「なるほどな。宝箱から拾うとなると、欲しいスキルを狙って入手できないのが難点だな」

『それはジンヤのスキルが便利すぎるだけだと思うけどね。まあスキル屋を利用すれば、ある程度欲しいスキルは見つかるよ』

「ほぅ?」


 なんでもライラブラにはスキル屋と呼ばれる店が複数存在しているらしい。そこでは技能石の売買が可能だ。


 技能石を売却するヤツなんているのかと思うが、意外にいるようだ。入手したスキルが偶然被ったり、相性の問題で使いづらかったりする場合もあるからな。


 ってことは、熱さ対策のスキルも、スキル屋で入手できるんじゃないだろうか。スキルドレインを使えば無料で手に入るので何となくもったいない気もするが、時間効率を考えれば悪くない選択肢だ。


 これからの方針について考えを巡らせていると、ふいに苦しげな声が頭に響いた。


『ますた……ルゥ、限界、かも……』


 やばい、忘れてた!


 宿環に戻っても、暑さや寒さの影響は完全には排除できない。劣悪な環境にルゥルリィは耐えられなくなったようだ。そういえば、フェリルはさっきから全く反応がない。


「すまん! よし、一旦戻ろう。ペルフェは念のためヒュムに戻ってくれ」

『そ、そうだね。急ごう!』


 といった感じで、最初の迷宮探索は成果もなく入り口付近で引き返すことになった。いつかリベンジするとして……まずはスキル屋を覗いてみるとするかな。

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