197. 迷宮都市ライラブラ
俺たちが次に目指すのはライラブラ。エルネマインにただひとつ存在する大陸の中央付近にある都市だ。またの名を迷宮都市。といっても、別に都市が迷宮化しているわけではない。都市周辺に迷宮が数多く存在するため、そんな異名がついているらしい。
迷宮とは、ダンジョンである。エルネマインの狩り場は全てダンジョンなのだから当然だけどな。ならば何故、他と区別するように名前がつけられているのか。それはもちろん、共通の特徴があるからだ。
簡単に言えば、迷宮とはかなりダンジョンっぽいダンジョンである。コークスローやアルブリアの周辺にもそれらしき狩り場はあったが、それらとも違う。最大の特徴はやはり複数階層から構成されているという点だろうか。内部を探索し、次の階層へと至る階段を探し、最奥を目指すタイプのダンジョンだ。
命がけで狭い穴蔵を彷徨うと考えれば、あまり人気が出る要素はなさそうだが……実際には真逆らしい。ライラブラに近づくにつれ、すれ違う探索者の数は増えていく。まあ、エルネマインに転生してくるのは資質がありそうな魂って話だから、みんなハクスラ好きなのだろうな、きっと。
ぱっと見た限り、駆け出しらしき探索者も多い。駆け出しといっても、借金を返済して最初の街を出ているので、レベル20くらいの実力はあるはずだが。
ライラブラが見えてきたのはアルブリアを出発して四日目の昼頃となった。仲間たちは全員、武器や宿環に帰してから、フルステータスで駆け抜けたので、かなりのスピードだ。俺たちの出立に気がついたルーペンが後を追ったとしても、行方を掴むのは難しいだろうな。
人目がないことを確認して、ペルフェに出てきてもらう。コンビ探索者として活動している体で街に入るためだ。
とはいえ、あまり必要はなかったかもしれない。ライラブラには都市を守る防壁がなかった。出るも入るのも自由だ。守衛のような存在もいないので、ソロで移動していてもあまり気にされることはなかっただろう。
「壁がないんだな」
「あるんだけどね。正確にはここらは街の中じゃないんだよ」
ペルフェが言うには、俺たちが入った辺りは外街と呼ばれる区画らしい。もともとあった街ではなく、あとから拡張されたエリアなんだとか。どうやら御使いの想定を超えて探索者が集まったので、街の中に収容できなくなったらしい。御使いたちも探索者のダンジョン好きを見誤っていたようだ。
ということで、防壁は街の中にある。その内側が本来のライラブラというわけだ。
都市の守りは大丈夫なのかという疑問もあるが……まあ、大丈夫なのだろうな。周辺の狩り場のレベル帯はあまり高くない。それこそ、駆け出しの探索者が行き来できるくらいだからな。高レベルの探索者も大勢いる迷宮都市ならば、迎撃戦力には事欠かないはずだ。
それにしても。
「詳しいな、ペルフェ。もしかして、ライラブラに来たことがあるのか?」
「まあね。僕が最後に活動してたの、ここだし」
「……ああ、そうなのか」
アーマニアとして生まれ変わる前、ペルフェはヒュムの探索者として活動していた。ライラブラが最後の活動場所ということは、おそらく迷宮のどこかで命を落としたのだろう。
自分が死んだ場所に戻ってくるというのは、どんな気持ちなのか。愉快であるはずもないが……ペルフェの様子に変わったところはない。少なくとも表面上は。
「大丈夫なのか? もし、気になるなら別の狩り場に移動するが」
目的地をライラブラとしたことに深い意味はない。多様な迷宮が存在するためスキル集めやレベルアップには都合が良いが、逆に言えばその程度だ。適正レベル帯の狩り場ならば同じことはできるので、必ずしもライラブラである必要はなかった。迷宮に興味はあるが、仲間に不快な想いをさせてまでこだわるほどではない。
そんな俺の気遣いに対して、ペルフェは不審そうな顔で首を傾げる。
「……どうしたの、ジンヤ? もしかして、悪いものでも食べた?」
「お前な。純然たる気遣いだろ。捻くれ者め」
「ひどい! 悪いのは僕じゃないよ。ジンヤの日頃の行いだって」
馬鹿な。言うほど悪事を働いてはいないはずだ。もちろん悪人からスキルを奪うのはノーカウントである。あれはどちらかと言えば善行に分類されるはずだからな。異論は認めない。
「まあいいか。別に気にならないってことでいいんだな?」
「うん。前にも言ったけど、今の僕はアーマニアだからね! 記憶は引き継いでいるけど、ヒュムだった頃に未練があるわけじゃないんだ」
確かに、今は普段通りに見える。当人がそう主張するならば、俺としても無理に否定するつもりはない。予定通りライラブラで迷宮探索をやるとしようか。
トロイスの動向が掴めていない現状、俺たちにとっては自由時間のようなものだ。せっかくの機会をみすみす見逃す手はない。迷宮型ダンジョンでは宝箱が出やすいというし、そういう意味でも楽しみだ。
「ま、ペルフェが気にしないって言うなら構わないさ」
「そうそう。変な気遣いはいらないよ」
とはいえ、アルブリアでスペイラと遭遇したとき、ペルフェはかなり動揺していた。未練とは違うかもしれないが、かつての人生に何の思い入れもないということはないはず。一応は気にかけておこうと考えながら、多様な種族が入り乱れる街を進んだ。




