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194. 今まで通り

「ははは、なんて顔しているんだい。冗談……でもないけど、本気で勧誘するならセプテトたちへのお仕置きはあとにしたよ。その方が説得しやすいだろ?」

「まあ、それは……そうですね」


 勧誘するつもりがあるなら、お仕置き風景(悪い面)を見せたのは失策だ。相手は神だから、その辺りの感覚が違うのかとも思ったが、そういうわけではないらしい。


「気づいてはいないかもしれないが、君の精神はかなりタフだ。だけど、それは今の境遇が君に合っているからなのだと私は思う。御使いとして縛ってしまえば、その得がたい才能は失われてしまうかもしれない。それは惜しい」

「はぁ、そうですか」


 何とも言えず曖昧に頷くと、女神はニッコリと頷いたあと、ため息をついた。


「それに御使いにするのも善し悪しでね。長く生きると変なこだわりに目覚める場合がある。突然妄想の機能を実装してみたり、同僚に過度な親愛の情を抱いたり、特定種族を極端にひいきしたり、ね。だから、私としても部下を増やすのは少し抵抗があるんだ」


 やれやれと首を振る女神。セプテトたちは居心地が悪そうだ。どうやら自覚はあるらしい。


「というわけで、現実的な方針としては、能力にリミッターをつけて精神を保護するのが良いだろうね。セプテトに任せると時間がかかりそうなので、私が直々に対処しようじゃないか」


 その申し出はありがたい。が、神という存在が、いち探索者である俺にそこまでしてくれる理由は何だろうか。神の慈悲なんてものがあるとしても、それは個人個人に注がれる物ではないはずだ。


「ふふ。そう構えなくてもいいよ。君に特別な負担を強いるつもりはない。今まで通りでいてくれればそれでいいんだ」


 警戒が顔に出ていたのか、女神がふっと笑う。


「というと?」

「このまま、セプテトに協力してトロイスの企みに対抗してくれればいい。それが私の助けにもなる」


 女神が言うには、俺は対トロイスという意味で得がたい駒であるらしい。その駒を精神崩壊で失うのは惜しい。だから、多少の骨を折っても、助けになってくれるわけだ。


 しかし、それは必要なのだろうか。俺から見れば、女神はセプテトたち御使いとは比べものにならないほどの圧倒的な存在に思える。俺の協力を得るより、直接トロイスを倒す方が手っ取り早いのではないだろうか。


「何故、直接トロイスを裁かないのでしょうか?」

「私はここから動けないんだ。もし動けば、それこそトロイスの思うつぼだよ」

「……トロイスが何を企んでいるか、知っているんですか?」

「おそらくね。彼は、世界に混沌を(もたら)そうとしている」


 混沌ね。まるでゲームの中の魔王が企みそうな内容だ。具体的にどういうことなのかはわからないが。


「その、混沌というのはどういった物なのでしょうか?」

「創造エネルギーが無尽蔵に溢れ、暴走した状態さ。その結果、何が起こるのかは、実のところ、私にもわからない。ただ、その影響はエルネマインだけに留まらず、全世界に波及するはずだ。急激な変化が全ての世界に襲いかかる。それによって何が起きるか、君ならわかるんじゃないかな?」


 わかるかと言われても、スケールが大きすぎて全く想像がつかない。だが、急激な変化が大きな負荷になることは間違いないだろう。あまりに早いステータス成長が俺の精神を崩壊させかけたように。


「ろくなことにならないでしょうね」

「私もそう思うよ。だからこそ、私は動けないんだ。ここには、巨大な噴出口があってね。私は私自身を蓋にすることで、創造エネルギーが溢れ出すことを防いでいる。だから、トロイスと直接対峙することはできないんだ」


 創造エネルギーが何なのか、よくわからなくなってきたな。俺たち探索者は、炭鉱夫のごとく、創造エネルギーを産出するためにエルネマインに連れてこられたと聞いた。だが、女神はそれを抑え込んでいる。矛盾しているようにも聞こえるが……まあ、過剰摂取は体に悪いのと同じか?


 なんにせよ、女神には直接動けない理由があるわけだ。御使いだけでは手が足りないので、俺の協力を得ようということだろう。提案を拒否する理由がないな。俺にとって損はないどころか、得しかないのだから。


 そもそも、これは取引ではなく、単なる方針説明だ。選択の余地はない。俺は精神崩壊で死ぬ気はないし、生きながらえればトロイスと敵対するのは間違いない。ヤツは探索者たちに害をなす存在だし、すでに敵対状態のようなものだ。


「事情はわかりました。よろしくお願いします」

「ああ、物わかりがよくて助かるよ」


 というわけで、俺は女神の協力者ということになった。と言っても、トロイスに協力関係が悟られないように、今までと同じくセプテトからの依頼で動くという形は変わらない。バグ職については正式に認められたが、なるべく他の探索者には知られないようにと注意を受けた。まあ、一人だけ特別職に就いているとなれば、うるさく騒ぐヤツもいるだろうからな。不自由はあるが、仕方がない。


 女神から呼び出されるというハプニングはあったものの、今までと特に変わらないってところだな。

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