189. 尋問前に無力化が必要
アイゼンピードを仕留めたあと、フラウル護送部隊はその場で解散することになった。あとは俺たちだけで連れて行くと主張して、他の面々には帰ってもらった形だ。
そもそも、複数パーティで護送することになったのは、イェードが俺を信用できないと主張したからだ。そのイェードこそが、誘拐犯の一味であると判明した時点で継続する必要性はなくなったと言える。
ルーペンあたりはみなで完遂すべきだと主張していたが、あれは俺を逃がすまいとしての行動だろう。説得が面倒だったので、セプテトにもう一度登場してもらった。
「これから先は世界の運営にも関わることだから、キミたちには遠慮してほしい」
例の眩しい光を纏ったセプテトがそう言うと、ルーペンすらも大人しく聞き分けて帰っていった。御使いパワーは偉大だ。
他メンバーを帰してから、改めてセプテトと向き合う。
「ネーフェから聞いてはいたが、無事だったんだな」
「あはは。これでも僕は御使いだからね! ……と言いたいところだけど、ちょっと危なかったよ」
セプテトが言うには、本来、魔物や探索者が御使いを害することはできないらしい。まあ、それは納得できる話だ。スキルなんかを設定しているのは彼らなのだから、対策くらいはしているだろう。それ自体は不思議な話ではない。
「あの魔物の攻撃は僕に届いた。間違いなくトロイスの仕業だ」
普段はへらへらとしているセプテトも、強く憤っている。今回の一件は一線を越えた暴挙だ。それが、セプテトを含めた御使い一同の認識らしい。
コークスローでの事件は、探索者にとっては許容できない邪悪な企みだった。トロイスの目的は不明ながら、何人もの探索者が亡くなっている。到底許容することはできない。だが、御使いにとっては、せいぜい自分たちの管轄にも影響がある迷惑行為程度の認識だったらしい。まあ、彼らからすれば、探索者の死など、その程度のものだろう。それに関してはどうこう言っても仕方がない。
しかし、今回の件は違う。本来ならば負傷するはずのない御使いが、傷を負った。これはセプテトだけでなく、御使い全体への敵対行為だ。いや、御使い同士で直接的な争いをしないというのは創造神クレアドルサの定めたルールだった。ヤツはそれを破ったのだ。これは明確な反逆行為と言える。
「トロイスは神に成り代わろうとしているのか?」
「わからないけど……その可能性は否定できないかな。あの力は僕ら御使いだけじゃなく、クレアドルサ様にも届きうる」
「それほどか?」
「うん。たまたま、スキルのテストをしていたから助かったけど、そうでなければ僕は消滅していただろうね……」
なんと、セプテトが無事だったのは、本当に偶然だったらしい。
御使いを害することはできないというのはクレアドルサが定めた絶対のルール。御使い同士でも、相手を直接的に傷つけることはできない。なので、身を守る手段を持つ必要がなかったわけだ。
では、何故セプテトが無事だったのか。こうなることを予見して……なんてことはなく、たまたまスキルの実験中だったから、という理由らしい。
新しく作ったスキルにはバグが潜んでいる。なので、一応、実装前にテストをするようだ。ならば、何故【変化:ペンシルヴァ】のようなバグスキルが生まれたのかと問いたいところだが……まあ、今は置いておこう。
テスト方法は開発段階によって幾つかあるようだが、まずは自分で使って確かめるのだとか。とはいえ、バグによっては致命的なリスクがあるし、そうでなくてもマイナス効果のあるスキルだってある。なので、自分の分身のようなものを作って、それを操ってテストするそうだ。
「ちょうど【後光】のチェック中だったんだ。ネーフェに無理矢理呼び出されたときは迷惑だなと思ったけど、おかげで助かったよ」
登場したときやたら眩しかったあの光こそ、新規スキル【後光】だったようだ。その効果はスキル使用者に対する畏怖の感情を増幅するらしい。俺に影響がなかったのは……まあ、ゼロにいくら数字をかけても意味がないということだな。
ともかく、スキルテスト中だったので、本体ではなく分身の方が呼び出されたらしい。アイゼンピードの攻撃で分身の操作ができなくなったが、本体には何の影響もなかったというわけだ。
「――というのが、僕の事情だね」
「そうか。まあ、無事ならいい。正直、肝が冷えた」
「あはは、心配かけたね」
最初は迷惑なヤツだと思ったが、セプテトはどうも憎めないところがある。俺がこの世界を楽しめているのは、コイツのおかげでもあるしな。その分、苦労もさせられているが……それはお互い様だ。本当に無事で良かった。
「トロイスがどんな思惑なのかはわからないけど、ここでアイツの反逆行為がはっきりしたのは大きいよ。あとは、どうにか情報を引き出したいところだけど」
セプテトの目が、イェードに向く。再び、ルゥルリィに拘束された状態だ。
「どうも捨て駒っぽいぞ。あの虫の魔物に殺されかけていたし」
「だよねぇ。でも、何か手がかりがあるかもしれないし……僕の方で引き取っていいかな?」
セプテトの目には冷たい光がある。どんな手段で情報を聞き出すつもりかは知らないが……まあ、俺には関係ないことだ。イェードの場合、自業自得だろう。
ただ、その前にやるべきことをやらないとな。
「尋問するのにヤツのスキルは必要ないよな? もらっておくぞ」
俺が申し出ると、セプテトもニヤリと笑った。
「ああ、うん。構わないよ。ついでにレベルも下げといてよ。また、変な仕込みがされてると困るし」
「了解だ」
働いたからには報酬が欲しいからな。アイゼンピードからスキルは奪えなかったが、ベテラン探索者からスキルが奪えるなら十分な恩恵といえる。いやぁ、セプテトが話のわかるヤツで助かるな!




