188. 楽しくてたまらない
アイゼンピードの攻撃を魔鎚で捌きつつ、まずは情報を集める。エナジードレインを使ったとき、逆に生命力を奪われた。そのカラクリを知りたい。スキルであれば、スキル看破で手掛かりが得られるはずだ。だが――
「っち! 効かない奴もいるのか」
何度アーツを使ってもスキルリストが頭に思い浮かばない。おそらくは、スキル看破を無効化されたのだろう。なかなか厄介な能力だ。
とはいえ、こちらには御使いがいる。
「ネーフェ! こいつの能力を教えてくれ」
『もう! 今回は特別だからね!』
渋々ながらも、ネーフェは協力してくれるらしい。場合によっては、アイゼンピードに貫かれていたのは彼女だったかもしれない。他人事ではないってことだろう。
『アナタに影響がありそうなのは【吸収反転】と【看破無効】って特性ね』
「それは厄介だな」
エナジードレインを使ったとき、逆に生命力を奪われた感覚があった。それはこの反転能力が原因だったのだろう。ということは、マナドレインも不味いな。気軽に補給する手段が封じられたので、マナの使い過ぎには気を付けないと。
あとは、スキルドレインだが……これが反転するとしたら、逆にスキルを奪われてしまいかねない。試すのはリスクが高いな。残念ながら、コイツのスキルは諦めた方が良さそうだ。
その他にも【呪い無効】や【状態異常無効】など様々な無効化特性を持っているらしい。搦め手への対策は万全で、純粋に攻撃でダメージを与えないと倒せそうもない。
「これは、覚悟を決めるしかないか?」
エナジードレインが効かないとなると、防御専心を解いてダメージを与えていかなければならない。下手をすればこの周辺が不毛の地になりかねないが、とはいえコイツを放置するわけにもいかんしな。
『フラウルちゃんたちの住処をめちゃくちゃにしないでよ?』
「善処はするが……」
『ちょっと! ちゃんと約束しなさいよ!』
そうは言われてもな。残念ながら確約はできない。力のコントロールは以前よりましになってはいるが、アルブリアに来てレベルも急激に上がっている。能力上昇にコントロール精度が追いついてないんだよな。
――ギチギチギチ!
ネーフェとのやり取りで気が逸れた隙を突いて、アイゼンピードの巨体が跳んだ。俺を踏み潰すつもりか……と思いきや、ヤツは俺を飛び越え、そのまま駆ける。どうやら、こちらを無視して他のメンバーを狙うつもりらしい。
「このっ!」
ペルフェが迎え撃つべく炎の魔術を放つが、アイゼンピードは怯みもしない。そのままの勢いで巨体がペルフェに突っ込んだ。
慌てて、アイゼンピードに追いすがり魔鎚で殴りかかる。ダメージはなくとも、間断なく攻撃していれば、動きは制限できる。どうにかペルフェへの追撃は防げた。
「ペルフェ、大丈夫か!」
「……っ、平気!」
激しく吹き飛ばされたがペルフェは無事らしい。おそらく直前で防御専心を発動したのだろう。それでも、結構なダメージを受けているようだ。ペルフェの顔は苦しげに歪められている。
ペルフェでも荷が重いとなると、やはりアイゼンピードは相当危険だ。早めに仕留めなければ、大きな被害が出る。
「もうやるしかないな!」
『は、早まっちゃ駄目よ! アナタ、防御用のスキルは持ってないの? それでペルフェたちを守ればいいのよ!』
全力でアイゼンピードを消し飛ばそうと覚悟を決めた俺に対し、ネーフェは思い留まらせようと必死だ。だが、俺には【守護領域】のようなパッシブな防御特性はあっても、自分以外を守るようなアーツは――……
「いや、あったな」
習得してから一度しか使っていないが、【盗む】スキルのアーツ〈ダメージスティール〉は不可視の障壁を張れる。一面にしか張れないので融通は利かないが、他のメンバーがいる方向に張っておけば妨害にはなるはずだ。
試しに障壁を張ってみる。俺から見ればアイゼンピードの向こう側だ。これでコイツはペルフェたちの方向には真っ直ぐ進めない。
「……待てよ。この壁って攻撃を吸収するんだよな?」
アーツの説明によれば、この不可視の障壁はあらゆる攻撃を吸収する。ってことは俺自身の攻撃も吸収するんじゃないか?
「物は試しだ」
まずは防御専心状態のまま、魔鎚を大振りしてアイゼンピードを吹き飛ばした。が、すぐに見えない何かに阻まれる。うまく障壁にぶつかったらしい。そのままずるずるとアイゼンピードの体が崩れ落ちた。壁は維持されたままのようだ。
「よし、じゃあ次は防御専心を解いてみよう」
「えっ、ちょっとジンヤ!?」
ペルフェが素っ頓狂な声を上げた。どうやら、俺の呟きが聞こえたらしい。
「大丈夫だと思うが、一応離れておけ」
「嘘でしょ!? みんな、できるだけ離れて! とにかく逃げて!」
大声で叫びながら、ペルフェが脇に退く。障壁があるから問題ないというのに、大袈裟なヤツだ。
まあいい。とにかく、実験の続きだ。
防御専心を解いて、アイゼンピードを魔鎚で殴りつける。一撃で腕が二本はじけ飛んだ。セプテトの抜け殻も耐久値が限界を迎えたのか、光の粒になって消える。
狙い通り攻撃の余波は障壁に吸収されているようだ。障壁手前の地面が少しえぐれているが、そのくらいは問題ないだろう。
「なかなかタフだな」
腕は吹き飛んでも、本体にはそれほどダメージはないらしい。アイゼンピードはまだまだ敵意に満ちている。とはいえ、壁際に追い込まれてしまった時点で、ヤツに反撃のチャンスはないのだが。
「ほら、次!」
さらにハンマーで殴りつける。アイゼンピードの腕が残らずはじけ飛んだ。
ギィィと悲鳴を上げるアイゼンピード。逃げようというのか、しきりに体を捩っている。
だが、させない。とにかく殴る。そのたびに、アイゼンピードの殻がはじけ飛び、弱っていく。
「はははァ、楽しくなってきたなぁ!」
愉快だ。ヤツの体が壊れていくのを見ていると笑いが止まらない。
ああ、楽しい。壊すのは楽しい。もっと、だ。もっと壊したい。
『ちょ、ちょっとどうしたの? 大丈夫?』
不安げな声が聞こえる。
何を心配しているというのか。極めて順調に壊せている。敵はバラバラだ。このまま細切れにして、ぐちゃぐちゃにして、塵ひとつ残さず消滅させてやる。ははは、最高じゃないか。
『まずいんじゃない? やばいんじゃない、これ? ねえ!?』
よくわからないが、声は焦っているようだ。
耳障りだな。せっかく楽しんでいるというのに気分が台無しになる。この声を止めるにはどうしたら――
「あっ」
『あら』
突然、玩具……いや、アイゼンピードの巨体が吹き飛んでいった。どうやら障壁の効果時間が切れたらしい。ヤツの体は宙を舞い……そのまま着地することなく光となって消えていった。どうやら生命力を削りきったようだ。
同時に少しだけ頭に渦巻いていた熱が冷めた。深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。大丈夫だ。俺は正気に戻った。変な破壊衝動はもうない……はず。
「勝つには勝ったが……何か、ヤバかったな、俺?」
『本当よ。もう……』
俺の言葉に同意するネーフェも声は弱々しい。普段の騒々しさは鳴りを潜めている。
少し不安の残る結末だった。




