表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/227

187. 抜け殻

「おい、セプテト! 大丈夫か!?」


 呼びかけるも反応はない。気を失っているのか、魔物の腕に貫かれたままぐったりとして動かなかった。


『え、嘘!? セプテト? ちょっと大丈夫なの!?』


 動揺するネーフェの声が頭に響く。とはいえ、そんなことは俺が知りたいくらいだ。その声を無視して、俺は魔物を見据える。


 まさか、セプテトをおびき出すために、イェードはわざと正気を失った振りをしたのか?


 とはいえ、俺とセプテトの関係を知っていたとしても、あの状況でセプテトが現れる保証はないはず。ただの偶然か。それとも、俺の知らない事情があるのか。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。とにかく、あの虫型魔物を仕留めなければ。


 全力で虫型魔物へと駆ける。〈防御専心〉状態なので、攻撃手段はエナジードレインしかない。まあ、すでにファントムとしての正体は割れている。今更、チートアーツを見られたところで問題はないだろう。


 ギィと不快な鳴き声とともに、虫型魔物の腕が俺に振り下ろされた。それを掻い潜って、金属質の殻に触れる。


「くっ! なんだ……?」


 エナジードレインを発動した瞬間、言い知れぬ寒気が体を襲った。全身から力が抜け落ちる感覚。まるで、生命力を吸い取られたかのようだ。いや、事実、奪われたのだろうということが感覚的にわかる。おそらく、半分には満たないが、三割は持っていかれたに違いない。


 思わずよろめいたところに、虫型魔物が俺に向けて腕を振るう。その一撃はあまりに鋭い。体勢を崩していたこともあり、避けきれず、まともに食らうことになった。ガツンと激しい衝撃とともに、俺の体が吹き飛ぶ。さきほどの吸収攻撃に比べればダメージは少ない。が、それなりのダメージを受けた。


「ここまでガチガチに固めて、ダメージが通るのかよ」


 思わず呟いてしまうくらいには衝撃だった。俺のステータスはすでに探索者の中でも最高峰のはず。そして〈防御専心〉状態のダメージカット率は極めて高い。毒などの搦め手ではなく、真っ向からの攻撃で俺にここまでダメージを与えるとなると、虫型魔物は俺と同等クラスのステータスである可能性がある。もしくは、こちらの防御を無視する攻撃手段を持っているか。いずれにせよ、紛れもない強敵である。


「ははは! 死ね、ファントム! 貴様も死んでしまえ!」


 俺を見下すように、イェードが笑う。だが、そんな余裕はすぐになくなった。


「さあ行け、アイゼンピード! ヤツを捻り――ぐぬぅ!?」


 指示を出そうとしたところで、逆にアイゼンピードなる虫型魔獣から攻撃される始末。どうやら、アイゼンピードには敵味方の区別がついていないらしい。喧しく指示を出そうとするイェードが気に障ったのか、ヤツを次のターゲットと定めたようだ。


「待て! 俺はトロイスの……いや、トロイス様の!」


 イェードが弁明めいた言葉を口にするが、まるで効果はないようだ。まあ、魔物だものな。言葉を認識しているかどうかも怪しい。


 防御に徹してもなお、アイゼンピードの攻撃を凌ぐのは厳しいようだ。あっという間に、イェードは追い込まれていく。


 正直に言えば、ヤツを助けてやる義理はない。だが、助ける理由はあった。トロイス側の内情を知る情報源として価値はある。それに、探索者の敵であるヤツからなら大手を振ってスキルを奪えるってもんだ。ここで見捨てるのは勿体ない。


 すでにイェードは満身創痍。アイゼンピードと合体したときに捨てているので、武器すら持っていない。もはやまともに抵抗すらできていなかった。追い詰められ、両手を盾に命を守ろうとするのが精一杯の様子だ。


「やめ、やめろぉ!」


 そこにアイゼンピードの鋼の腕が迫る。左右から二対。挟み込んで切り裂こうという算段らしい。


 そこに強引に割り込む。インベントリから取り出した鎚でアイゼンピードの側面を強打した。ダメージはないだろうが、その衝撃でアイゼンピードが体勢を崩す。結果として、攻撃が逸れた。イェードは無事だ。


 とはいえ、このまま突っ立っていられると邪魔でしかない。


「ちょっと、ひっこんでろ!」

「なっ――ぐぇ!?」


 遠慮なく蹴り飛ばすと、蛙のようなうめき声を出してイェードが吹き飛んだ。〈防御専心〉状態なので直接的なダメージはないはずだ。問題はない。数本の木を薙ぎ倒しながら飛んでいったので、無事ではないかもしれないが、元気すぎて暴れられるよりはいいだろう。


 ギチギチギチ。不快な音を立て、アイゼンピードが俺を見下ろす。その腕に貫かれたセプテトは依然としてぐったりとしたままだ。若干心配ではあるが、まさか御使いがこの程度で死ぬことはない……と思いたい。


 大剣サイズの腕が、俺に向けて振るわれる。その威力と速さは驚異的だ。だが、落ち着いて対処すれば避けるのは難しくなかった。ステータスでは俺が勝っているようだな。だが、探索者たちでは荷が重いだろう。コイツは俺が仕留める必要がある。


「ルゥルリィ、イェードを拘束しておけ! 逃げられないようにな!」

「あい!」

「ペルフェは俺の攻撃の余波をどうにか防いでくれ」

「ちょっ、無理を言わないでよ!」

「フェリルはフラウルたちを頼む!」

「わふ!」


 素早く仲間たちに指示して、状況を整える。ひとまず、これでペルフェさえ頑張ってくれれば被害は最小限に押さえ込めるだろう。問題はセプテトだが、タイミング良くネーフェから知らせが届いた。


『セプテトと連絡がついたわ! あれは抜け殻。本人は酷い目にあったってぼやいてたわ。 もう!』


 よくわからないが、セプテトは無事らしい。だったら、目の前の害虫を退治するのに躊躇はいらないな。反撃開始だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ