186. 鋭利な刃のように
「あたたたた……。まったく、ネーフェは急なんだから」
やたら眩しい光を発しているせいで姿を確認しづらいが、空から振ってきたのはやはりセプテトらしい。落下したときに打ったのか、尻を撫でながらネーフェへの愚痴をこぼしている。
「あ、あなたは一体……」
震える声で尋ねたのはジルジバだ。まるで、セプテトを畏怖するかのような態度である。よく見れば、ジルジバだけでなく他の探索者たちも同様だ。変わらないのは、俺と仲間たち、そしてイェードくらいだった。
セプテトの立場は世界の運営者である御使い。それを考えればわからなくもないが……その実情を知る俺としては違和感のある光景だった。というか、顔をしかめて尻を撫でる様子を見て、御使いだと判断できるわけがないと思うんだが。
「僕かい? 僕は御使いのセプテトだ。もしかしたら、この世界に来たときに挨拶をしたかもしれないね」
セプテトが素性を明かすと、ジルジバたちは揃って体を低くした。種族ごとに差異はあるが、ひざまずいて頭を下げるというポーズに近い。おそらく敬意を示しているのだと思うが……やはり違和感しかないな。
「おい、いったい、何をしたんだ。洗脳か?」
こそりと尋ねると、セプテトは顔をしかめた。
「いや、僕、御使いだからね。本来なら、こういう態度とられてもおかしくないんだよ? まあ、これはスキルの影響だと思うけどさ」
そう言うと、セプテトは眩しい光を引っ込めた。よくわからないが、あの光はスキルに関係するものだったらしい。
「さあ、立って立って。そんなに畏まる必要はないよ」
パンパンと手を叩きながら、セプテトが呼びかける。スキルの効果が消えたからか、探索者たちはあっさりと立ち上がった。
「それで、セプテト様はどうしてここに……?」
今度はルーペンが尋ねた。俺との関係が気になるのか、こちらにもちらちらと視線を向けてくる。
「ああ、うん。そうだなぁ……」
答えに困ったのか、セプテトが俺を見た。
さて、どう説明するか。ここにきた理由は魔物と融合したイェードを元に戻すためだろう。俺がネーフェに頼み、それがセプテトに丸投げされた形だ。とはいえ、それを説明すれば、俺と御使いのつながりがはっきりと示されてしまう。
妖精のような見た目のネーフェなら誤魔化しようもあったが、セプテトはあの眩しい光のせいもあって完全に御使いという立場がはっきりとしてしまった。今更誤魔化せない。
ここは適当な理由をでっち上げるしかないな。できるだけ神妙な顔を作って、告げる。
「さすが御使い様だな。天に祈りを捧げたら、応えてくださったようだ」
「なるほど。そうだったのですか」
ルーペンが感心したように頷く。うまく説得できそうだ……と思ったのだが、セプテトの余計な言葉のせいで台無しだ。
「……キミが? キミ、絶対、そんなキャラじゃないでしょ。無理があるって」
「馬鹿。余計なことを言うな」
「いや、馬鹿って……みんなの顔を見てみなよ」
セプテトに言われるまでもなくわかっている。ルーペン以外は何故か胡散臭そうな表情を浮かべていた。そして、今はもっと複雑な表情だ。驚きとか戸惑いだろうか。どういう感情なのか、いまいち読み取れない。
そんな中、ルーペンは相変わらずニコニコ笑っている。正直、ちょっと怖いんだが。
「とにかく! 御使い様がイェードを治してくれるらしい。そうですよね?」
「うわぁ、その言葉遣いぞわっとする」
「……さっさとやれ」
「はいはい」
勢いで誤魔化して、セプテトを急かした。さっさと仕事を終えて帰してしまうに限る。
「むむ……むむ!」
イェードはルゥルリィに蔦で幾重にも縛られ、口元も封じられていた。とはいえ、蔦の隙間から見える肌で明らかに異形と化していることがわかる。その姿を見て、セプテトは顔をしかめた。
「……これは酷いね。本当にトロイスは何をするつもりなんだ」
「さあな。元に戻せるか?」
「ネーフェにやり方は聞いたから、たぶん」
蔦に拘束されたイェードに、セプテトが掌を向けた。ヤツの体は淡い光に変換され、二つに分かれる。一つは、イフォの姿へと。もうひとつは、合成されていた魔物の姿へと。その過程でルゥルリィの蔦もボロボロと崩れ、支えを失ったイェードが地面に投げ出された。
「イェード!」
「待て!」
駆け寄ろうとする盾使いを制止する。元の姿に戻ったとはいえ、アイツは敵だ。すでに本性をさらけ出した以上、なりふり構わないはず。迂闊に近づいては危険だ。
「ルゥルリィ、もう一度拘束を――……」
「くくく……はははは! 掛かったな、馬鹿め!」
突然、イェードが笑い声を上げた。
何事かと思う間もない。イェードから引き剥がした魔物が膨張するかのように巨大化したのだ。ソイツは全身金属質な殻で覆われた虫のような魔物だった。下半分はムカデのような多脚。その前端からはアリのような上半身が生えている。三対の腕はまるで刃物のように鋭利だ。
そして、そのうち一対が、セプテトの体を貫いていた。




