185. 謎の光とともに
ルゥルリィのあとは、ペルフェにも反転を利用した強化を施した。ひとまず、戦闘は二人に任せればいいだろう。
他の探索者たちに対してはどうするか迷ったが、結局、【反転の呪い】を抜き出すに留めた。ルゥルリィとペルフェの二人で戦線を支えられそうだったので、探索者の強化は必要ないという判断だ。まあ、あとで除去するのが面倒だったというのが本音である。
フラウルたちは全員無事だ。フェリル以外は【統率】の影響下になかったので、【反転の呪い】もほぼ意味はなかったようだ。防戦に徹すれば合成魔獣たちにも十分対抗できたらしい。
全ての呪いを取り除き、改めて【統率】のスキル結晶体を自身に使用する。これで、戦力は完全に元通りだ。そうなれば、合成魔獣はあっという間だった。まあ、肝心のイェードはまだ健在なわけだが。
「キィヒィイヒィ! どうだァ? 俺の……俺の力はァ!」
あいかわらず、俺以外は眼中にないらしい。ひたすら両腕で斬りつけてくる。フルステータスで〈防御専心〉状態なので俺からすれば痛くもかゆくもないが。アーツの類も使ってこないので、周囲への被害もない。このままでもいいんだが……少々ウザいな。
「ルゥルリィ、頼む」
「あい!」
ひとまず、ルゥルリィに蔦で拘束してもらおう。暴れ回るので蔦がブチブチと千切れるが、今のルゥルリィならば、それを上回る再生速度で蔦の拘束を維持できるはずだ。
「聖者様、イェードは元に戻るんですか?」
シルバーブリザードの盾使いが、不安げな様子で聞いてくる。
今更、俺がファントムであることを否定するつもりはない。影武者はすでに役に立っていないからな。とはいえ、聖者と同一視されても困る。
「その呼び方は止めろ。俺は聖者じゃない」
「そ、そんな!? では、アナタは何者なのです!」
即座に反応したのはやはりルーペンだ。俺が聖者であることに妙に拘りがあるヤツだからな。コイツの目的はペンシルヴァの地位向上って話をどこかで聞いた気がするが、それなら俺のことは放っておいて欲しいものだ。
「俺はどこにでもいる一般的な探索者だ」
きっぱりと告げると、一瞬で場の空気が変わった。しらっとした視線が突き刺さる。
「ねえ、ペル。ルゥ、“一般的”の意味、間違ってたかも」
「大丈夫だよ。間違ってるのはジンヤだから」
「わふ!」
ルゥルリィたちが集まって、こそこそ……と言うには大きな声で話している。それを聞いた探索者たちが、大きく頷いた。変な一体感を作ってるんじゃないよ。
「確かに、お前の力はァ異常! 異常な強さだァ! だがなァ、俺だって、負けてないィ! 負けていないんだァ!」
偶然だろうが、イェードまでもが異常扱いしてくる。ここに俺の味方はいないようだ。
「はぁ……。まあ、その手の話はあとでいいだろ。それで、コイツはフラウルたちのように元に戻せるのか?」
呆れた口調でジルジバが話を戻した。あとでも何も、この話は終わったはずだが……まあいいか。
「コイツは、フラウルたちとは状況が違う。自らの意志で異形化したんだぞ? 戻したとしても、敵のままだ」
「まあ、そうなんだろうけどな。だが、このままでは話も聞けないだろ」
ジルジバが困惑の表情でイェードを見る。他のメンバーもだ。そんな状況にもかかわらず、ヤツは身を捩りながら喚き散らすだけ。正気でないのは誰の目にも明らかだった。この状況で尋問しても意味がないのは確かだ。
「……そうだな。ちょっと待て」
一旦、話を止め、心の中でネーフェに呼びかける。まだ首飾りの中にいるなら、反応はあるはずだが――……
『おい、ネーフェ! 返事をしろ』
『……ふわぁぁ。なぁに? フラウルちゃんたちの住処についたの?』
脳内に寝起きのような声が響く。というか、寝起きだろ。いや、御使いって寝るのか?
まあ、ネーフェの生態などどうでもいい。状況をかいつまんで説明し、イェードを戻せないか聞いてみる。返ってきたのは、非常にネーフェらしい言葉だった。
『できるかどうかの前に、やらないわよ? だって、ソイツ、精霊ちゃんじゃないし』
『それでいいのか、御使いよ』
『御使いだからこそ、よ。管轄外のことやったら、もめ事になるでしょ!』
いかにも心外だという風に答えるが……正直、疑わしい。御使いたちの関係にそういう側面はあるかもしれないが、コイツの場合、興味のないことに関わるつもりがないだけだろう。
『そう言うな。困っているんだ。力を貸してくれ』
『うぅん。一回力を貸すくらいなら別にいいんだけど、毎回呼ばれると困っちゃうのよ。やっぱり、ちゃんと担当者が仕事した方がいいと思うわよ?』
『お、おう。そうか』
安易な気持ちで引き受けたせいで、何故か毎度仕事を振られるようになるってことはよくある悲劇だ。それが本来の仕事であれば問題ないが、管轄外の仕事では成果にすらならないこともある。ならば初めから担当者に仕事を振れというのはぐぅの音も出ない正論であった。それがまさかネーフェの口から飛び出てくるとは思わなかったが。
『とはいえ、やってもらわないと困るんだが』
『そうねぇ。だったら、担当者にやってもらえばいいじゃない。ええと、異形化した探索者に関する案件は……まあ、雑用担当でいいわよね!』
『……おい?』
一方的に宣言すると、ネーフェからの返事はなくなった。どうすればいいんだよ。
「……どうした。妙な顔をして? もしかして、無理なのか?」
それまで黙って見守っていたジルジバが声をかけてきた。どうやら、困惑が顔に出ていたようだ。
「いや……」
さて、なんと説明すれば良いものか。と、考えたのも僅かな時間だった。突如、空から謎の光が降り注ぐ。
「へ? うわぁ!?」
直後、間の抜けた声がした。聞き覚えのある声だ。雑用担当の御使いって……まさか、セプテトのことか!




