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184.反転を利用する

「他のヤツらはァ、魔物どもが始末する! 貴様はァ、俺自ら屠ってやる!」


 イェードが飛びかかってきた。剣と化した両腕による時間差攻撃だ。


 咄嗟に右腕を盾にする。ガツンと激しい衝突音が響き、腕が粉々に砕けた。俺のではなく、イェードの腕が。


「な……何が……?」


 戦闘中であることを忘れたかのように、イェードが呆然とした表情で佇む。まあ、無理もない。異形化までして手にした力が、全く通用していないのだからな。


「コイツはヤバいな……」


 とはいえ、俺としてもヤツに同情している余裕はない。反撃ですらなく、防いだだけでヤツの腕を吹き飛ばしてしまったのだ。下手に動くと、どうなるかわからない。慌てて〈防御専心〉を発動する。


 これで安心……とも言えないんだよな。直接攻撃で与えるダメージは軽減されるが、その余波によるダメージは軽減されないことがわかっている。人気のない狩り場ならともかく、ここはフラウルの住処のすぐ近く。迂闊に動いて地形を変えてしまっては申し訳が立たない。

 それに……反転の呪いを受けてから、体の調子がおかしい。不調とは違う。むしろ調子はいいんだ。しかし、漠然と不安がこみ上げてくる。これ以上進んでは戻れなくなるような……そんな感覚。


 ひとまず、スキルドレインで自分の【弱化の澱】を外しておく。これで反転によるステータス上昇も抑えられる。完全にはなくならないが、不安感もかなり抑えられた。ひとまずは、これでいいだろう。


「貴様ァ、何をしたァ!」


 我に返ったイェードが再び襲いかかってくる。高速再生能力でも持っているのか、砕けたはずの腕は元に戻っているようだ。その腕による攻撃を再度、右腕で受ける。


「砕け……ない? 今度は砕けなァいぞ!」


 イェードが奇声を上げる。腕が砕けなかったことを喜んでいるようだ。そんなんで喜んでどうするんだ。


 とはいえ、俺としてもホッとしている。防御専心はきっちり働いているようだ。これなら、無闇に吹き飛ばしたりしなければ、森への被害は抑えられるだろう。


「ははァ! なんだァ? 手も足も出ないかァ?」


 イェードの攻撃が激しくなった。俺はすでに防御すらしていない。効いていないことは明白なのに、イェードは勝ち誇るように哄笑を上げる。すでに、まともな判断能力が失われているのか。いや、自分が優勢だと信じ込まないと精神が保てないのかもしれない。


 コイツを倒すのは簡単だ。おそらくエナジードレインを全力で使えばすぐだろう。だが、加減がわからないのが問題になる。コイツはトロイスや黒衣のヤツらに繋がる手がかりだ。迂闊に殺すわけにもいかない。


 それに優先的に対処する必要があるのは、俺以外の能力低下だ。彼らが相手をしている合成魔獣はボス格に匹敵するほどの強敵。弱体化したまま戦える相手ではない。合成魔獣同士の連携がないので、どうにか凌げているようだが、早急に対処しなければならない。


「手っ取り早いのはこれか」


 自分にスキルドレインを使って【統率】スキルを抜き出す。これで探索者たちは普段と変わらない実力が発揮できるはずだ。しばらくは持ちこたえることができるだろう。


「ああ、そんな! 体から聖者様の加護が抜けていく!」

「この状況なら歓迎すべきことですわよ!」

「わかってはいますが! ……許しません! 許しませんよ、イェード!」

「……(わたくし)たち、このリーダーについていって良いのかしらね?」


 反転による能力低下が消えたことが直感的にわかったのか、ルーペンがアホなことを言ってパルヴァを呆れさせている。そんなことを言いながらも、しっかりと敵には対処できているようだ。あそこは放っておいてよいだろう。


 問題は俺の仲間たちだ。【統率】の効果はすでにないはずだが、依然として動きが悪い。おそらく、【従者強化】や【精霊の守護者】による強化が反転しているせいだろう。ひとまず、【従者強化】もドレインで外す。【精霊の守護者】は特性なのでどうにもならない。


 すでに反転の呪いの悪影響は大幅に低下した。もちろん、【統率】による強化が失われたので、探索者側が有利とは言えない。せいぜいが拮抗状態で、まだ形勢逆転にすら至っていないだろう。


 それでも、圧倒的に不利という状況からは抜け出したはずだ。にも、かかわらず――


「キィヒィイイ! 倒せるゥ! 俺なら、倒せる!」


 イェードの様子は変わらない。奇声を上げながら、一心に俺に攻撃を加え続けていた。もはや、完全に正気を失っている。異形化にはリスクが伴うのだろうか。それとも、トロイスたちに捨て駒にされたか。なんにせよ、ここまでくると哀れだった。


 ま、今はそんなことを考えている場合じゃないか。とりあえず、イェードはこのまま放置でいいだろう。それより、合成魔獣をどうにかしなければならない。


「ますた!」

「ルゥルリィ、そのままでいい。じっとしてろ」

「あい」


 蔦で合成魔獣の動きを鈍らせ、探索者たちを援護するルゥルリィに近寄る。やることは彼女の強化だ。呪いの効果で弱体が反転するなら、それを利用させてもらおう。【呪い:弱化の澱】のスキルを使えば、弱体化の呪いを付与することができるからな。自分以外に使う場合は最大Lv30まで、つまり30%のステータス変動だが、十分だろう。


「どうだ?」

「ルゥ、強くなった!」


 その言葉通り、ルゥルリィの操る蔦の数が増え、操作精度も上がったようだ。複数の合成魔獣を締め上げ動きを制限するとともに、生命力を搾り取っているようだ。


 30%の上昇でも効果は十分だな。ペルフェやフェリルを同じように強化すれば巻き返すことはできそうだ。

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