180. 三人寄れば文殊の知恵
目的を果たしたジルジバたち調査隊第一分隊の面々はクルージャ氷窟の入り口まで引き返すことになった。どのみち、集合日時はもうすぐだ。他のメンバーを待ってから、リフレイジャの森へとフラウルたちを帰すことになる。
俺はファントム姿で彼らに同行した。ジンヤとしての合流はどうするか。それをジルジバに相談しなければならない。氷窟内ではそのチャンスがなかったので、外に出て他のメンバーとの合流待ちの時間を利用して相談を持ちかけることにした。
名目としては、フラウルたちを帰還させるための打ち合わせ。そうなると、当然、イェードが嘴を挟んでこようとする。が、完全には信頼できないという名目で窓口は調査隊のリーダー、つまりジルジバに絞ると突っぱねた。ジルジバも薄々事情を察しているのか、まずは自分が預かると言ったのでイェードも渋々引き下がる。ペンシルヴァたちは基本的に聖者様がそう言うならと反対意見もない。聖者様への信奉が強すぎて微妙な気分になるが、今はありがたい。
打ち合わせは氷窟の入り口前で張った天幕の中でやる。同席しているのは、俺とジルジバの他にサザメと、武器状態のペルフェだ。ルゥルリィとネーフェも宿環の中にいる。まあ、会話に加わるつもりはないだろうから、いないも同然だが。
フェリルには他のフラウルを引きつれて天幕の周囲の警戒をしてもらっている。誰かが近づけば教えてくれるはずだ。
開始早々、ジルジバが深い深いため息を吐いた。
「で、どういうことなんだ。事情を説明してもらいたいんだが」
「そうだな。何から話せばいいのか」
「……まず、お前はジンヤで間違いないか?」
まあ、ジルジバとしては気になるよな。確認しておかないと話もしにくいだろうし。それに関しては隠しきれないと諦めている。特に隠すこともなく、頷いた。
「この姿の時はファントムで頼む」
「なんでまた、そんな怪しげな格好を?」
ジルジバの声には呆れが混じっているが……。
「ぶっちゃけ、お前の格好と変わらなくないか?」
だって、お前、黒衣のローブに大鎌だぞ。俺から見れば、どうやったって死神にしか見えないんだからな。
「あはは、確かに!」
ツボに入ったのか、サザメがケラケラと笑う。ジルジバの黒い目が小さくなった。目が点になったようだ。
「おい、マジか。お前らから見ると、俺はこんななのか……」
地味にショックだったのか、ジルジバが少し落ち込んでしまった。いや、でも、こんなのって言うなよ。
別に冗談のつもりではなかったが、ひと笑いあったおかげで、少々重苦しかった雰囲気も和らぎ、話しやすくなった。俺は手短に事情を説明していく。話したのは、俺が一部の御使いに協力していること、ノーベイでのこと、そして、合成魔獣のことだ。
また、ペルフェがアーマニアであることも説明した。実際に変化を見せた方がわかりやすいだろうということで、今はヒュムの姿に戻っている。
「ペルフェがアーマニアだったとはね。でも、人型になれるなんて初めて知ったよ」
サザメが興味深いといった様子で何度も頷く。それに対してペルフェが軽く手を振りながら答えた。
「いや、他がどうかは知らないよ。僕、自分自身以外のアーマニアと会ったこと、ほとんどないし。生まれ変わったときに、基礎的な知識はすり込まれたけど」
そもそも、ペルフェがヒュムの姿をとるようになったのはごく最近だ。ユイットが強引にそうしなければ今でもヒュムの姿になることはなかったかもしれない。そう考えると、人型になるアーマニアは限られる……というかペルフェくらいなのかもな。
「お前の正体は知られない方がいいのか?」
真面目なジルジバが話を戻す。本題はそこだな。
俺が正体を隠すのはチートがバレないようにするためだった。だが、最近では違う意味合いも強い。敵対関係にある御使いトロイスから身を隠すというのが、その意図である。今回は後者の理由を説明しておけばいいだろう。
「そうだな。詳しい事情は俺もわかっていないが、御使いたちも一枚岩ではないらしい――」
追加でトロイスについても話す。ヤツの暗躍について言及すると、ジルジバの白黒の顔がぐにゃりと歪んだ。これは……どんな表情なんだ。
「フラウルの誘拐、合成魔獣。それが御使いの仕業とはな」
ジルジバが呟く。サザメが何かに気がついたように目を見開いたあと、こちらを窺うようにして口を開いた。
「……ねえ、もしかして、あなたがイェードを警戒してるのって?」
「ああ。ヤツらに通じている可能性がある」
疑う理由は、いつかの酒場でスペイラと話していたというただ一点だ。根拠としては弱い。だからすぐに断罪するわけにはいかなかった。
だが、放置しておくのもまずい。それは俺やセプテトだけではなく、全ての探索者にとってもだ。トロイスの思惑はわからないが、ヤツの行動は探索者たちにも迷惑なものだ。いわば全ての探索者にとっての敵だが、そうなるとイェードは獅子身中の虫となりかねない。可能ならヤツの正体を見極めておきたい。
「ヤツがトロイス側の人間なら、フラウルたちの護送中に行動を起こすかもしれない」
「それで尻尾を掴みたいってことか」
俺の言葉に思案するジルジバ。しばらく考え込んだあと、ゆっくり頷く。
「そうだな。俺たちとしても確かめておきたい。何か協力できることはあるか?」
よし。その言葉を待っていた。
「うむ。とりあえず、ファントムとジンヤをどうやって両立すればいいか考えてくれ」
「は……?」
ジルジバの目が再び点になる。聞こえなかったのかともう一度言うと、そうじゃないと怒鳴られた。
「自信ありげに提案してきたから何か考えがあるのかと思ったら丸投げかよ!」
「そんなことはない。俺もちゃんと考える」
「いや、そういうことじゃねえんだよ!」
ジルジバは頭を抱え、サザメはケラケラと笑い出した。ペルフェはいつものことだと呆れ顔だ。
いや、仕方がないだろ。俺だって余裕がなかったんだ。大丈夫、俺の世界には三人寄れば文殊の知恵って言葉があるからな!




