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179. 行き当たりばったり

 ルーペンが騒ぐ中、自分の功績を聖者の奇跡扱いされたネーフェは気にした様子もなく次の変異フラウルへと向かっていく。正常化する手順を確立したのか、以降は準備時間すら必要なく、次々とフラウルたちを元に戻していった。


「ふぅ、今度こそ大丈夫ね。さすがに疲れたわ……あとはよろしく!」

「あ、おい!」


 しかも、ネーフェのやつ、この状況を放置して精霊神の首飾りに戻っていきやがった。


 ネーフェの容姿はまるで小さな妖精。それが俺の首飾りに戻ったのだ。これがどう解釈されるか。


「おお! やっぱりあの妖精は聖者様の契約精霊か!」

「さすが、聖者様ッス!」

「むむ……聖者様クラスになると精霊の女の子にも好かれるのか……僕も負けてられないな!」


 若干一名ずれているヤツがいるが、概ねネーフェのことを俺が契約している精霊だと勘違いしているようだ。誰も御使いだとは思っていないらしい。


 誤解を解くために、ネーフェの正体について明かそうかと思ったが……やめておくか。こいつら、特にルーペンは何を言っても斜め上の解釈をしそうだ。下手をすれば、御使いを従えているなんて話にもなりかねない。ネーフェのことは、このままただの一般精霊だと思ってもらうことにしよう。


「さて、俺たちの用事は終わった」


 宣言しつつ入り口を窺う。この部屋に出入りできるのはそこしかないが、ルーペンらが塞いでいるのでスムーズに通るのは難しい。それに救出したフラウルたちもいる。彼らを連れたままでは強引に逃げることも叶わない。


 問題は他にもある。イェードだ。フラウルたちが正常化したことで、シルバーブリザードの他のメンバーは構えを解いた。だが、ヤツだけは敵意むき出しで戦闘態勢を崩していない。


「逃がすと思ったか?」


 案の定、噛みついてきた。まあ、黒衣の女の仲間なら、その行動はわからなくもないが……面倒くさいヤツだ。排除するのは難しくないだろうが、そうなるとヤツに味方する者もいるだろう。せめて、フラウル誘拐犯とグルである証拠があればいいのだが。


「お待ちなさい、イェード。彼は聖者様ですよ。あなたも見たでしょう。彼がフラウルたちを救ったところを」

「馬鹿なことを。この場を逃れるために、あえてやって見せたかもしれんだろ? 異常化させた本人だからこそ、正常化させることもできたという見方もできる。不審人物には変わりないのだ。無条件に解放するなどありえん」

「そんなことはありえません! 聖者様ですよ!」


 イェードとルーペンの口論が始まる。困ったことに、言っていることはイェードの方が圧倒的に正しい。ルーペンの主張は「聖者様だから」一点張りで根拠になっていない。だが、賛同者も多く、場の雰囲気はルーペンの味方だ。両者の意見は拮抗しており、膠着状態になった。


「ますた、ルゥ、戻っていい?」


 当人を置き去りにした白熱の口論が行われている中、ルゥルリィがこそりと話しかけてきた。宿環に戻りたいらしい。


 退屈したのかと思ったが、違った。ペンダから熱視線を送られ居心地が悪いようだ。


『そ、そうだね。ルゥルリィは宿環に戻った方がいいよ。というか、僕も何か見られてる気がする……』


 ペルフェも賛同するので、ルゥルリィは宿環に戻す。するとペンダは露骨にがっかりとした表情を見せた。そして、今度はペルフェを熱心に見ている。今は剣の姿なんだが……。


『うぅ……ちょっとどうにかしてよ……』

「まあ、そうだな」


 ペンダのことはともかく、いつまでもこうしてはいられない。こうなれば、多少のリスクは仕方がないか。


「ちょっといいか」


 口論に負けぬように声を張ると、さほど大きくもない部屋にやけに響いた。イェードとルーペンを含めて、全ての視線が俺に向く。


「俺がフラウルたちを攫ったなどという疑いは見当違いだ。だが、そこのイフォが言う通り、状況を見れば不審に思うのも無理はない。俺はこれから、彼らを森に帰すつもりだ。もし望むならお前たちも同行するといい」

「はっ! その必要はあるか? 貴様を捕縛してフラウルは我々の手で森に帰せばいいだけだ」


 イェードがあくまで反発してくる。が、あまり露骨だと自滅するぞ?


「必要はある。お前が俺を怪しんでいるように、俺はお前を怪しんでいる。さきほどからお前の行動は俺がフラウルを救うのを妨害しようとしているように見える。俺からすれば、お前たちにフラウルを任せるという選択肢はない」

「何を馬鹿な……」


 イェードが否定の言葉を口にしようとするが、場の雰囲気は聖者の味方だ。さらに反発しようものなら、イェードへの疑惑の目は強まるだろう。俺としてはそれでも良いが……


「っち! まあ、フラウルが救われるならそれでいいだろう。お前が疑わしいことには変わりないがな」


 結局、イェードは矛を収めることにしたようだ。ようやく話がまとまりそうだ。


『で、どうするつもりなの?』


 ペルフェが尋ねてくる。ファントムが彼らに合流した場合、ジンヤはどうするんだってことだろう。それなんだが……


「どうしたものかな?」

『何も考えてないの!?』


 いや、だってしょうがないだろ。あの場を切り抜ける方法は他に思いつかなかったんだから。


 まあ、色々バレてそうなジルジバに協力してもらえばどうにかなるだろ。


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