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177. 雪崩れ込んでくる

「わふ! わふわふ!」

「くそ、他のヤツらもか!」


 何か仕込まれていたのは一人だけではなかったらしい。最初のフラウルから悪魔が生えた後、次々に他のフラウルたちにも異変が起きた。別の首が追加で生えてきた者。巨大な熊に取り込まれたような形になる者。変化はバラバラだが共通点がひとつだけあった。それはいずれのフラウルも瞳を濁らせ、こちらに敵意を向けてくるという点だ。正気を失っているらしい。


「ハティ……」


 これを仕掛けたのはおそらくは黒衣の女だ。身内……かもしれない者の所業にペルフェが落ち込んでいる。その気持ちは大いに理解できるが、今はそれどころではない。


「フラウルちゃんたち! 私よ! 正気に戻って!」

「ガアアアァ!」

「ひゃあ!」


 ネーフェが変異したフラウルたちに呼びかけるも成果はなかった。彼らは構わず襲いかかってくる。


 ひとまず〈防御専心〉を発動し、襲いかかってきた変異フラウルから生えた悪魔を掴み、後続のフラウルたちに放り投げた。


「ちょっと、アナタ! フラウルちゃんたちを傷つけないで!」


 防御専心の効果で直接攻撃のダメージは大幅カットされているが、それ以外――例えば、今のように、投げたものがぶつかったときのダメージはカットされない。それを知っているネーフェが抗議の声を上げた。こんな状態になっても、精霊は守るべき対象らしい。


「これくらいは許せ! それよりもどうすればいい? コイツら、元に戻せるのか?」

「戻せるか、じゃないのよ! 戻すの!」


 いや、どうやって……と問う前に、ネーフェはぶつぶつ呟き始めた。仮にも御使いだ。何らかの手があるのだろう。ひとまずは彼女の言葉を信じることにするか。


「基本的に俺が引き受ける! ペルフェはネーフェを守ってやれ」

「わかった!」


 俺の言葉にペルフェが力強く頷く。色々思うところはあるだろうが、今は戦いに集中することに決めたようだ。任せて大丈夫だろう。


「ルゥルリィは拘束を優先! フェリルは呼びかけてみろ。正気が少しでも残っていれば攻撃が鈍るかもしれない!」

「あい」

「わふ!」


 少し戦ってみた限り、変異フラウルは周囲の魔物より数段強い。とはいえ、フルステータスの俺ならば凌ぐのは難しくない。むしろ、問題は向こうのダメージだ。〈防御専心〉で適当にいなすにしても、少しずつダメージが蓄積していく。


「ええい、お前ら、大人しくしろ(支配者の檄)!」


 【咆吼】のアーツ〈支配者の檄〉は、人型および獣型の魔物に指示を与えることができる。フラウルは精霊とはいえ狼に似た姿だ。効果があるのではと期待したが、効果にはバラつきがあった。変異したパーツにそれらの特徴があるものは指示に従い動きを止めたが、それ以外の者は意に介さず襲いかかってくるようだ。


 とはいえ、半分ほどが無力化できた。これで対処がかなり楽になる……と思ったのだが、そう甘くはないらしい。


 変異フラウルの首から生えた蜥蜴の頭が紫色の霧を吐く。それを吸い込んだ途端、体から力が抜ける感覚があった。同時に、生命力までが削られていく。


「っち、毒か!」


 かなり強い毒らしく生命力の減少がはっきりと自覚できるほどのダメージを受けた。あわててインベントリから解毒薬を取り出し呷ると、すぐに体が楽になる。ダメージも止まったようだ。うまく解毒できたらしい。


 それにしても毒攻撃とは厄介だな。どうやら高ステータスと〈防御専心〉の合わせ技でも毒のダメージは軽減できないらしい。一応【毒耐性】は持っているんだが、高ステータスに任せて攻撃される前に倒す場合が多く、ほとんどレベルが上がっていないのだ。これは反省が必要だな。


「みんな大丈夫か?」

「ルゥ、平気!」

「わふ」

「僕も大丈夫だよ。ネーフェもね」


 幸いなことに効果範囲はさほどでもないらしく、他へは影響がないようだ。ならば、俺だけが気をつければ良い。


「なるほど、【毒噴霧】か」


 蜥蜴頭にスキル看破を使えば、毒霧を発生させたスキルの正体がわかった。あれさえ、奪えば問題ない。


「ルゥルリィ、蜥蜴以外を優先して捕まえてくれ! 短い間でもいい!」

「あい!」


 一対一なら変異フラウルは手強い相手ではない。蜥蜴頭がひとつ覚えで毒を噴霧するが、念頭にあれば避けられる。身を躱し、背後をとった。


「よし、取った!」


 無事、スキルを奪えた。今度こそひと息つける。これでネーフェが変異フラウルたちを戻せれば――……


「わふ!? わふわふ!」


 突然、フェリルが慌てた様子で吠えだす。その理由は俺にもすぐにわかった。ダンジョンの入り口付近に多数の気配が現れたのだ。


 一瞬、黒衣の女が増援を引き連れて戻ってきたのかと思った。だが、その考えはすぐに否定する。気配が現れたのは俺たちが入ってきた場所だ。だとすれば、もっと厄介な事態である可能性が高い。


「ペルフェ、一旦武器に戻れ!」

「え!? わ、わかった!」


 指示を受け、ペルフェが手にしていた剣に宿る。その直後、部屋に多数のペンシルヴァたちが雪崩れ込んできた。



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