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175. 燃やし尽くすしか

『ハ、ハティ……?』


 ペルフェの呆然とした声が聞こえる。だが、それは俺の頭の中でのみ。今になってなお、ペルフェは剣に宿ったままだ。その声は黒衣の女には届いていない。


 アイツはペルフェの妹のハティなのだろうか。確かめるなら、ペルフェがヒュム状態になって問いかけるのが手っ取り早い。だが、不意の遭遇に気持ちが状況に追いついていないようだ。


 仕方なく俺が尋ねる。


「色々聞きたいことはあるが……お前、ハティと言う名前に心当たりはあるか?」


 コイツはトロイスの手駒にして、フラウル誘拐の容疑者だ。他に尋ねるべきことはたくさんあるが、まずはペルフェにしゃっきりしてもらわなければ困る。これでも一応、相棒らしいからな。


「……何故、その名前を知っている。貴様、何者だ?」


 女は意表を突かれた表情をした後、すっと目を細めた。


 正直に言えば、「誰だそれは」と答えてくれた方がありがたかったのだが……明らかに、心当たりのある者の反応だ。少なくともハティの関係者であるのは間違いなさそうだ。


 さて、あとは当人かどうかだが。まあ、探ってみるか。


「お前の姉――スペイラとは縁があってね」

「……ふ、そうか? だが、私には関係ないな」


 スペイラ――ペルフェの生前の名を出すが、黒衣の女に大きな反応はない。鎌をかけたと思っているのか? いや、50年前に死んだ人物と知り合いと言ったところで、はったりと思うだけか。


 それならば。


「お前、アルブリアでは姉の名前を名乗ってるな。偽名のつもりか? 偶然耳にしてスペイラが驚いていたぞ」


 俺の言葉に、黒衣の女の視線が鋭くなる。だが、それだけだ。やはり、俺が問いかけるだけではダメだな。


「おい、ペルフェ」

『……え? な、何?』


 ペルフェはまだ衝撃から立ち直れていないらしい。気持ちはわかるが、いつまでも惚けていられては困る。事情はわからないが、ハティはトロイス側の人間……つまり敵だ。トロイスが何を企んでいるかは知らないが、コークスローでのことを思えばろくなことではないだろう。セプテトへの協力がなくとも、どこかで敵対する可能性が高い。


「何、じゃない。アイツを説得しろ。じゃないと俺たちは敵同士だぞ」

『あ……!』


 命のやり取りすら起こりかねない。そのことにようやく気づいたようだ。だが、少し遅かったらしい。


「さて、貴様が何を知っているのか興味はあるが……私も忙しい身なのでな」

「何を――待て!」


 ヤツは手にした筒のようなものをその場に投げると、俺たちとは逆側の扉に向かって走り出した。


「ちょっと逃げちゃうわよ!」

「ああ、わかってる! ペルフェ、追うぞ!」

『う、うん!』


 当たり前だが、俺たちも黙って行かせはしない。急ぎ後を追おうとするが……


「ますた、何かいる!」

「わふ!」


 ルゥルリィとフェリルの警告に足を止めることになった。


「っち、足止めか!」


 どうやら、ハティの投げた筒に何か仕掛けがあったらしい。それが弾けた付近から凄まじい勢いで草木が生えてきた。当然ながら、ただの植物ではない。それを裏付けるように、俺の気配察知が目の前の植物に反応している。足止めの魔物らしい。


 急成長した木が根っこを足のようにして、襲いかかってくる。狙われたのはネーフェだ。


「ひゃわぁ!?」

「ネー、危ないよ」

「あ、ありがとう、ルゥルリィちゃん。でも、これはちょっと……どうにかならない?」


 殴りかかられる寸前で、ネーフェはルゥルリィが操る蔦に救われた。今は捕らわれた獲物のように宙づりにされている。


「強くはないが……面倒だな!」


 謎のつぼみが種を弾丸のように飛ばしてくる。それを避けながら接近して、エナジードレインを発動させると、つぼみはすぐに枯れた。


 個々の植物は強くはない。ただ、植物たちは次々と生まれ、押し寄せてくる。フェリル、ルゥルリィも奮戦しているが、敵が増える速度の方が勝っていた。このままでは一向に先に進めそうにない。


「ハティ! ハティ!」

「馬鹿! 無理だ! 埋もれてしまうぞ!」

「でも!」


 ヒュムの姿になったペルフェが、ハティを追おうと植物を無視して扉に向かおうとする。だが、そちらは特に植物の増殖が早い。知性などないように見える魔物だが、足止めの役割はきっちりと果たしているらしい。


「ていうか、マズいんじゃないの、これ! どこまで増えるのよ」


 ネーフェが騒いでいるが、確かにマズい。魔物はすでに部屋中を覆い、外の通路にまで浸食している。いずれ増殖が止まるのなら問題ないが、このまま増え続ければこの地域を蹂躙してしまいかねない。


「もう……燃やす。全部、燃やす!」


 硬直した状況にペルフェが切れた。どうやら、魔術で焼き尽くす気らしい。それが確実なのは確かだ。だが――……


「お、おい。お前のステータスも大概だから、全力はやめておけよ……?」

「ダメだよ。全部……全部焼かないと」


 あ、これはマズい。完全に目が据わっている。


「みんな、待避だ! 戻ってこい!」

「わふ!」

「ペル、頑張って~」

「いや、頑張ったらダメなんじゃないの? 大丈夫なの? ねえ!」

「知るか! 大丈夫だと祈ってろ」


 ルゥルリィたちが騒がしく宿環に戻る。直後、ペルフェが魔術を放った。ズトンと轟音が響き、視界が赤く染まる。激しい熱波が肌を焼き、バラバラと何かが頭を叩いた。


 あー……これは崩落したかもしれん……。


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