108. 魔物との絆は……
結論から言えば、〈心を盗む〉と〈支配者の檄〉の組み合わせは有効だった。〈支配者の檄〉だけでは指示が難しいような複雑な内容も、魅了状態ならくみ取ってくれるようだ。例の白い虎に獲物を見つけて俺の元へと追い込んでくるように指示したら、かなり的確に魔物を引き連れて戻ってくる。魔物を探す必要がなくて便利といえば便利だ。まあ、普段は魔物寄せの香を使うからあまり関係がないが。
また、〈支配者の檄〉は人型か獣型の魔物にしか効果がないはずなのだが、魅了状態ならば関係なく指示を伝えることができるらしい。試したのは、雷撃を飛ばしてくる白い鳥だ。空から魔物を見つけて、敵の攻撃の届かない場所から雷撃が放てる。敵だと面倒だが、仲間なら頼もしいヤツだ。
残念ながらどんな魔物にも通用するというわけではない。特に、〈心を盗む〉が通用しないような相手には無力だった。例えば、スライムだ。発動条件の“目を合わせる”がクリアできず、〈心を盗む〉が発動しなかった。スライムの目ってどこだよ。
「さて、問題は魅了の解除条件だよな」
すでに、アーツを発動してから一時間近くが経過しているが、魅了状態は維持されている。とはいえ、さすがに永続ではないと思うので調査が必要だ。背中を預けた瞬間にがぶりでは使えない。
ありえそうなのは、ダメージを受けたときに解除されるという条件だ。試すのは簡単、待機を命じた上で、適当に攻撃してやればいい。だが――……
「無抵抗のヤツを攻撃するのはなぁ」
『僕もちょっと……』
『ルゥも』
魔物といえども、大人しくしていれば可愛いものだ。きょとんと首を傾げるコイツらを検証のために攻撃するのは気が咎める。
「よし、香を使うか!」
魔物寄せの香を使って、コイツらと共闘するのだ。敵の数が多ければ、多少は攻撃を貰うことになるはずだ。そのとき、コイツらの魅了が解けるか否か。それで、コイツらが信頼に足る存在であるか見極めよう。
「|探索者が少ない狩り場に案内しろ《支配者の檄》」
俺の指示を聞いた鳥が飛び立つ。どうやら、意図は伝わったようだ。これは便利かもしれんな。現地の魔物に穴場を聞けば、無闇に目立たずにすみそうだ。
鳥に案内されたのは、小さな森のような場所だった。魔物側から意思を伝える手段がないのではっきりとはわからないが、この辺りに探索者が来ることはほとんどないらしい。おそらく、それなりに距離があるのに、街の周辺と出現する魔物が変わらないからだろう。わざわざ、ここまで来る旨味が少ない。
そういうことなら遠慮なく魔物寄せの香が使えるというものだ。おっと、その前に。
「他と区別するためにお前はビャッコと呼ぶことにする。この青いスカーフが目印だ」
「ガウ!」
「お前はハクライだ。ハクライにはこの赤いスカーフをつける」
「クワ!」
他の魔物と区別するための目印をつけてやる。大した効果がないためインベントリで眠っていた装備品だ。魔物に装備品の防御性能が適用されるのかは不明だが、他と識別さえできれば問題ない。
スカーフをつけるとき、少しだけビャッコとハクライの毛並みを確認した。なるほど……悪くない。
『ますた、デレデレしてる』
『ちょっと感じ悪いよね。僕らの方が先に仲間になったのにさ』
べ、別にデレデレなんかしてない。目印をつけるついでに、少し撫で心地を確認しただけだ。それだけだ。
「ビャッコ、大丈夫か!」
「ガウ!」
魔物寄せの香に釣られて大量の魔物たちが集まってくる。連携して戦うものの、やはり数の力は侮れない。俺やペルフェ、ルゥルリィのフォローがあっても、ビャッコやハクライには辛い戦いであるようだ。ついにビャッコが傷を負った。ビャッコに傷を負わせたのは同族の白い虎だ。
「まだ、やれるな?」
「ガウ!」
ダメージを受けても、魅了は解除されないらしい。ビャッコは俺の言葉に頷くと、自らに傷を与えた同族へと飛びかかった。そこに乱入しようとする小人の集団に雷撃が降り注ぐ。ハクライの支援だ。
すでに、〈支配者の檄〉を使わずともある程度意思疎通ができるようになっている。戦いの中、俺たちの絆は深まったのだ。
『正直、僕たちで戦った方が効率がいいような……』
『虎、鳥、弱い……』
素晴らしい連携……と言いたいところだが、ペルフェやルゥルリィが言うように、ビャッコやハクライがいない方が戦闘はスムーズに運ぶだろう。俺たちだけなら力押しで殲滅できるが、ビャッコやハクライがいるとそちらをフォローするような立ち回りが必要になるからな。
「今は、な! だが、成長すれば戦力になるかもしれないだろ!」
「ガウ!」
「クエ!」
ほら、ビャッコとハクライもやる気だ。攻撃で魅了を解除されなかったのは大きい。すでに〈心を盗む〉を使ってから四時間近く経っていることを考えれば、効果が永続する可能性もある。
……実は大きなペット飼ってみたいと思ってたんだよな。前の世界ではペットが飼える環境じゃなかったが、エルネマインなら問題ないと思うんだ。宿暮らしでは難しいかもしれないが、そこをどうにかクリアできれば……いける!
『やっぱり、デレデレ……』
『なんか面白くないよねぇ』
ルゥルリィとペルフェの言葉を聞き流しながら、ペット生活を考える。この戦いを無事に終えたら、俺はペットを飼うんだ!
そろそろ、香の効き目が切れるようだ。現れる魔物の数が減ってきた。ビャッコもハクライも魅了状態のまま。いける! このまま飼えるぞ!
そう考えたときだった。俺は背後から、攻撃を食らった。
この爪の一撃は、白い虎か? だが、何故? 後方には敵はいなかったはず。気配察知でも敵らしき存在は知覚できなかった。怪訝に思いながら背後を振り返ると、そこには青いスカーフをした白い虎がいた。
「ビャッコ……?」
「ガルルルル!」
呼びかけても返事がない。そんな馬鹿な……俺たちの絆はそんなものだったのか?
「クエ!」
青いスカーフの虎に、ハクライが雷撃を浴びせた。さきほどまでの共闘が嘘のようだ。
『うーん、これは駄目だね』
『効き目、切れた』
続いてペルフェが槌状態で横殴りにする。そして、ルゥルリィが生成した炸裂する果実がとどめを刺した。その白い虎は青いスカーフを残して、光となり消える。
「ビャッコォォ!」
な、なんてこった。俺たちの絆が……こんなにあっさりと消えてしまうなんて。
『やっぱり魔物は駄目だね! 魅了が解けたらすぐこれだ』
『そう。ますた、魔物は駄目』
ぐぬぬ……しかし、まだハクライがいる! ハクライはきっと!
だが、そのハクライも少し遅れて魅了が切れたらしく、あっさりと反旗を翻した。残念ながら魔物のペット化計画は失敗のようだ。




