106. まずは防寒
さて、朝がやってきた。今日は雪もなく、なかなかの狩り日和と言えよう。とはいえ、だ。
「晴れていても寒いな」
『ルゥ、お留守番でもいいよ』
晴れていても寒いものは寒い。雪が降るから寒いのではなく、寒いから雪が降るのだから当然だが。
寒い寒いと言っているが、実はまだ宿の個室を出たばかりだ。暖房の効いた部屋を出たのは大いなる前進と言えるが、寒風吹きすさぶ屋外へと進むにはまだ心の準備が――……
『何を言ってるんだよ……。スキルを確保しなきゃいけないんでしょ! さっさと行くよ!』
ペルフェに急かされて、宿を出る。そして、そのまま街の外へ。
門の前ではペンシルヴァの守衛が元気に挨拶をくれる。おそらく、昨日のおっさんと同一人物だと思うが、まだ見た目の判別がつかないので確証はない。
「何はともあれ、まずは寒さ対策のためのスキル集めだ」
『ますた、ルゥのも!』
「わかってるよ」
ある程度、街から離れたところで魔物を探す。昨夜はかなり降っていたようで、辺り一面雪景色だ。白一色の世界だが、気配察知には反応がある。おそらく雪の中に隠れているのだろう。
「さっさと出てこい!」
いちいち探り当てるのは面倒なので、アーツを使って強制的に出てきてもらう。雪の中から勢いよく飛び出してきたのは、白っぽい……こびと? 背丈は30cmにも満たない。手先には鋭い爪があり、表情は邪悪そのもの。そんなこびとが俺に向かって殺到してきた。
「ちょっと面倒な奴らだな!」
こびとたちは全部で6人。動きが素早い上、体が小さいせいで攻撃を当てづらい。範囲攻撃を使えば一掃できるだろうが、スキルが目的である以上、そういうわけにもいかない。少なくとも一つ……できれば二つ分のスキルを確保したいのだが。
「おっと!」
こびとの一人が俺の顔めがけて飛びかかってきた。背丈を考えると異常なジャンプ力だ。とはいえ、相手は魔物。驚くことでもない。むしろ、ちょうど良いところに飛びかかってきてくれた。手にしていた武器を放り投げ、こびとを手掴みする。
さて、早速スキルチェックといきたいところだが、残りの5人を無視するわけにもいかない。仲間意識があるのか、先ほどよりもぎぃぎぃうるさく襲いかかってくる。
「ルゥルリィ、一人を残して倒しといてくれ」
『あい。ますた、早く』
「わかったわかった」
ルゥルリィは少し辛そうだな。だが、ペルフェにはコート状態でいてもらわないと俺が凍える。スキルを獲得するまでの辛抱だ。
「さて、寒さ対策スキルは……お、これだな」
こびとの所持スキルに目新しいスキルはほとんどなかった。初見のスキルは二つ。一つはセプテトの言っていた【環境耐性:氷雪】だ。もう一つは【低温耐性】だった。どちらも寒さ対策には有効そうなスキルだ。さて、どちらが良いのだろうか。
「ま、どっちも盗めばいいだけだがな」
マナも増えたので迷わずにすむのがありがたいな。
とりあえず、寒さ対策が優先ということで、他のスキルには目もくれず【環境耐性:氷雪】と【低温耐性】を確保した。俺が捕まえたヤツと、ルゥルリィが残してくれていたヤツとから合わせて二つずつだ。それをすぐに俺とルゥルリィで使う。
「まだ寒くないと言わんが……これで活動はできそうだな」
スキルを獲得したことで、かなり寒さには強くなった。これなら真冬でも着ぶくれせずに過ごせるだろう。肌寒さは感じるが、それはコークスローと同じ格好でいるからだ。もう少し厚着すれば平気に違いない。
寒さに強くなったのは【環境耐性:氷雪】の効果のようだ。セプテトの言っていた通りだった。寒さへの耐性のほか、雪道や氷上での移動がスムーズになるので、ノーベイやアルブリアで活動するなら必須級のスキルだ。
もう一方の【低温耐性】も寒さ対策のスキルではあったが、俺たちの望む方向とは少し違う。このスキルの効果は低温状態での行動ペナルティの軽減。つまり、寒くても動きが鈍らなくなるようなスキルだった。【環境耐性:氷雪】があれば【低温耐性】は必要なさそうだが、寒さがさらに厳しくなるなら役に立つ場面があるかもしれない。とはいえ、できればそんな場面には遭遇したくないというのが本音だ。
『よぅし、これで僕も戦えるね!』
「ああ、そうだな。今まで助かった」
『ま、まあ、それは別にいいんだけどね!』
スキルで寒さ対策ができたので、ペルフェには武器に戻ってもらう。まだ寒いが、戦闘効率を考えると、手数が欲しいからな。それに多少は寒さにも慣れる必要はあるだろうし。
「ルゥ、まだちょっと外、寒い……」
スキルを使ったのはルゥルリィも同じだが、それでもまだ本調子とはいかないようだ。宿環の外には出ているが、草木の防壁で四方を囲み閉じこもっている。
やはり、ドライアドは種族的に寒さに弱いようだな。【低温耐性】に関しては習得したものの効果が弱体化していたようだし。とはいえ、【環境耐性:氷雪】の適性は普通だったので、こちらのレベルが上がれば不自由なく動けるようにはなるだろう。宿環の中なら問題ないようなので、いざというときにはそちらに避難すればいい。
さて、最低限の準備は終わったし、まずは周辺の魔物からスキル収集……の前に新アーツの確認をしとくかな。




