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104. 雪の降る街

 コークスローを出発した俺たちはまず北東を目指した。その先にある、ノーベイという街がひとまずの目的地だ。


 出現する魔物の強さはコークスローとさほど変わらない。だいたい20レベル台の探索者が活動する狩り場だ。高レベルの狩り場を目指す俺たちが、何故このノーベイに立ち寄ったのかといえば、単純に寒さに慣れるためである。何でも、今回の最終的な目的地であるアルブリアは極寒の地らしい。セプテトに頼まれて安請け合いしたが……もう少しちゃんと調べてからにすべきだったな。


「寒い……寒すぎるぞ……」


 雪の降る平原を脇目もふらずに走る。ときおり魔物が襲いかかってくるが、全て無視だ。ゲームならトレイン行為になりかねないが、ステータス差があるので十分に振り切れる。といっても、まだ積雪がそれほどでもないからできることだ。これ以上、雪が積もると厳しいかもしれない。


 というか、環境の変化が急すぎるだろ。どうなってるんだ、エルネマイン!


『ルゥ、寒いの嫌い』

「いや、お前は宿環に籠もってるだろ」

『ちょっと寒い……』

「マジか」


 長距離を移動するということで、ルゥルリィは最初から宿環で待機していたのだが、それでも寒さを感じるらしい。隙間風でも吹くのか? ひょっとしたらドライアドは寒さに弱い種族なのかもしれんな。


『みんな、だらしないなぁ』


 ペルフェが憎まれ口を叩く。が、今だけは不問にしてやろう。この環境下におけるペルフェの貢献は大きい。



【防寒コート】〈アーマニア:ペルフェ〉

◆分類◆

防具・体装備(標準)

アーマニア

◆防御性能◆

物理防御:C 魔法防御:C

◆特殊効果◆

氷属性のダメージを軽減

寒さによる行動ペナルティを軽減



 完全に準備不足だったので、ペルフェには防寒着になってもらっているのだ。ステータスが上がっても、寒さには勝てないらしい。


 本来ならばコークスローを出る前に準備しておくべきだったのだが、東が寒冷地であるという認識がまるでなかった。元の世界の感覚が抜けていなくて、寒いといえば北という思い込みがあったのだ。もっとも、元の世界でも南半球では事情が異なるので、ちゃんと考えればわかるただのポカなのだが。


 もちろん、一度コークスローに戻るという選択肢もあったが、見送りまでしてもらったのに準備不足で戻るのは格好がつかない。隣の街なのだし寒いと言ってもたかが知れていると思ったのだ。考えが甘かったと言わざるを得ない。ファンタジーを舐めていたようだ。


「ペルフェは平気なのか?」


 ペルフェのおかげで助かっているが、そのペルフェは寒さに晒されることになる。平気そうに見えるが、一応尋ねてみると、あっけらかんとした声で返事があった。


『僕は、何かに宿った状態だと、寒さとか感じないから』


 それは何とも羨ましい話だ。いや、全員が寒さでやられると困るので、ペルフェだけでも平気なのは素直にありがたいんだが。


『ん? あ、あれじゃないかな?』


 ペルフェの声に目を凝らすと、降りしきる雪に隠された人工物らしきものの影が見える。無駄話をしている間に、目的地の近くまで来ていたようだ。途中、ひとりの探索者ともすれ違わなかったので少々不安だったが、何事もなく街までたどり着くことができたらしい。


「おお、ようこそノーベイへ! ヒュムがこの街に来るとは珍しいな。毛皮がないアンタには大変だったろう。ゆっくりと休んでくれよ」


 がははと豪快に笑うのは、街の守衛と思しき存在。この寒い中、わりと軽装で突っ立っていられるのは、毛皮のおかげなのだろうか。身長は1mほどだが、太々しい態度から考えるに、おっさんと呼ばれる部類の人間に違いない。その姿は、簡単に言えばペンギンだった。ただし、翼の先が手のように動かせるらしく槍を携えている。


「ありがとう。ところで、こっちの方は初めてなんだ。アンタは何て種族なんだ?」

「ああ、俺かい? 俺はペンシルヴァって種族だよ」


 一応は職務中なのだろうが、ペンギンのおっさんは快く答えてくれる。


 それにしても、ペンシルヴァ……?

 ペンシルバー……ペン銀……ペンギンってダジャレじゃないよな?


 まあ、偶然だろう。日本語のように馴染んでいるが、俺が喋っている言葉はこちらの共通語だ。たまたま、ダジャレのような種族名になったに違いない。


 気の良いおっさん相手に情報収集……といきたいところだが、何しろ寒い。おっさんは平気そうだが、俺にはこの雪の中で雑談に花を咲かせるというのは無理だ。情報はどこか室内で集めることにしよう。ペンシルヴァのおっさんに礼を言って、門を通る。


 街の景色はコークスローとはかなり異なる。雪景色で全体的に白いこともあるが、建物自体が不思議な作りだ。全体的に白いドーム状の建物が多い。まさか、かまくらじゃないよな? 宿ではちゃんと休みたいんだが……。


 住人の様子もがらりと変わっている。ガラデンやサルボは全くと言っていいほど見かけない。住人の半分くらいは警備員と同じペンシルヴァだ。次に多いのが全身けむくじゃらの白い種族。ガラデンほどではないが、体格が良い。ヒュムの大男と良い勝負だろうか。イメージするのは雪男だな。


 意外にもヒュムも多い……と思ったが、たぶん違うな。ヒュムっぽく見える種族は女性しかいないようだ。ひょっとしたら雪女のような存在かもしれない。そう思ってよく見てみると、肌が白すぎる気がする。まあ、顔色の悪いヒュムと言われれば、気にならない程度だが。


『ますた。宿、早く宿』

「ああ、そうだな」


 道行く人々を観察していると、ルゥルリィからの催促が入った。宿環の中にいるのに、この様子ということは本格的に寒さに弱そうだ。いったい、どうしたものかと頭を悩ませながら、俺は宿を探した。

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