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103. 東へ

 ネイル、そして凶魔を倒した日から三日。俺はコークスローを離れることにした。イゴットたちが街の門まで見送りにきてくれたので、少々話しているのだが。


「うぅ……ジンヤさん、私を置いて行ってしまうのですね……」


 ニーデルに泣いて縋られている。他の女性陣を差し置いて、捕らわれの身になっていたし、まるでヒロインポジションのようだ。ちょっと遠慮して欲しい。


 まあ、ニーデルの場合、パーティーに魔法職を確保したいって事情があるんだろうが。それに関してはどうか俺以外にあたって欲しい。


「すまんな、ニーデルが」

「そう思うならどけてくれ」


 イゴットが申し訳なさそうに言うが、ニーデルを引き剥がしたりするつもりはなさそうだ。抗議すると、はははと豪快に笑い出す。スルーするつもりらしい。


 いや、さっきから、手を握られて地味に痛いんだが。棘が刺さっている。サルボは親しい身内以外との接触を嫌がるって話はどうなってるんだ。まったく。


「今からでも、コークスローに残ってパーティーに入ってくれるなら止めるけど?」


 エメラもにやにやと笑って、そんなことを言ってくる。冗談めかしているが、意外と本気かもしれない。ニーデルとは逆の――左手を握って思いっきり力を込めてくる。ゴツゴツしているのでこちらも痛い。


 その背後ではロンズとルバーが片目を閉じて、親指を立てている。結局、最後までどちらがどちらなのか判別がつかなかった。基本的に向かって右がロンズで左がルバーらしいが。


「おい、ジンヤが困ってるだろう。その辺りにしておけ」

「……わかったよ、リーダー」

「うぅ……ジンヤさん。うぅ……」


 さすがに見かねたのか、イゴットが注意を促す。エメラは渋々離れ、ニーデルも一応は引き下がった。ただ、まだ落ち着いたようには見えないので、ルゥルリィに蔦を生やしてもらい、それを握らせておく。とりあえず、それで問題なさそうだ。


「助かった……が、もっと早く止めてくれ」

「いや、すまんな。俺としてもお前がパーティーに入ってくれるなら助かるから、ついな。実力差がありすぎるのはわかってるんだが」


 イゴットは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


 ファントムであることもバレたし、凶魔との戦いも見られている。イゴットも俺が普通の探索者と違うことはわかっているようだ。まさか、それが御使いのポカによるものだとは想像もしていないだろうが。


 そして、何か誤解されているような気がする。


「それに、何かあるんだろう? 使命みたいなものがな」


 キョロキョロと周囲を窺ったあと、声を潜めて言った台詞がこれだ。コイツ、俺のことを御使いからの特殊任務を受けている探索者だと思っていないか? そういえば、ファントムが御使いの関係者って噂が一時期流れていたか。それをまだ信じているようだ。


 大いなる誤解と言いたいところだが、あながち間違いではないんだよな。セプテトから依頼を受けることもあるわけだし。だが、特殊任務なんて大げさなものじゃない。ギブアンドテイクの関係というのが一番しっくりくる。


 まあ、説明するのも面倒だし黙っておこう。曖昧に笑っていれば、勝手に納得してくれるからな。


「コマタからもよろしく伝えてくれと(ことづ)かってるぞ」

「そうか。昨日、挨拶はしておいたんだがな」


 街を出ることはコマタたちにも伝えてある。アイツらも見送りに来たがっていたが、それは遠慮してもらった。アイツらが来るとどうしても目立つからな。ただのソロ探索者を見送るってだけでも騒ぎになるだろう。イゴットやコマタたちにはすでに正体を知られているが、それ以上に広がるのは避けたいところだ。


 代わりに、昨日はコマタのホームでお別れパーティーのようなものに参加させられた。孤児院の子供たちに囲まれてなかなか賑やかな一日だった。騒がしいが、たまには悪くない。

 とはいえ、うちも十分賑やかなんだけどな。ペルフェとルゥルリィがいるので、孤独を感じることは少ない。振り回されることも多いが、今となっては大事なパーティーメンバーだ。まあ、調子に乗りそうなので言葉にはしないが。


「ああ、ルゥルリィとペルフェともお別れか」


 そのルゥルリィとペルフェだが、存在を知られたこともあってイゴットたちとは少し交流がある。ペルフェは話せないが、ルゥルリィが(つたな)い言葉で翻訳してなかなか微笑ましかった。エメラは特に二人を気に入ったらしく、別れを惜しんでいるようだ。


『エメラ、ばいばい!』

『じゃあね~!』


 聞こえてはいないだろうが、二人も別れを告げた。ルゥルリィは蔦を揺らし、ペルフェもあまり目立たない程度に体を揺すっているので、エメラには伝わったようだ。


「それじゃあ、そろそろ行くか」


 名残惜しくはあるが、移動時間も考えるとのんびりとしてはいられない。また、街から閉め出されると面倒だからな。


「そうか。俺たちはまだしばらくコークスローで活動するつもりだが……また、会えるといいな」

「ああ。そうだな」

「じゃあね、ジンヤ。ルゥルリィにペルフェも!」

「うぅ……ジンヤさ~ん!」


 騒がしく見送られる中、コークスローの門をくぐる。コマタの影響か、お節介な探索者も多いが、良いヤツらばかりだった。色々とあったが、悪くない街だったな。


 さて、次は東だ。いったい、どんな出会いが待っているのやら。狩り甲斐のある魔物がいるといいが。まあ、楽しみにしておこう。

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