表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/111

102. 深紅の結晶体

 凶魔を倒したあとの諸々は、イゴットとコマタのパーティーに任せた。あまり目立ちたくなかったこともあるし、探索者たちへの対応ならば俺よりもよほど適任だからな。


 実際、両パーティー、とりわけコマタの貢献は大きい。意識を取り戻した探索者たちには失踪時の記憶がなく錯乱した様子だったが、救助者の中にコマタがいることがわかると、落ち着いた様子で説明を受け入れていた。コークスローの探索者たちへのコマタの影響力が改めてわかるというものだ。


 両パーティーが探索者たちに対応している間、俺は周囲を探ってみたが、特に何も見つからなかった。ネイルが溶けて凶魔と同化する直前、誰かの名を呼んだ気がするが、それらしき人物も見当たらない。そう簡単に尻尾を掴ませるような存在ではないのだろう。


「ドロップは……これだけか」


 巨人のドロップと思しきものは、深紅の結晶体がひとつだけだった。周囲を探ってみたが他には何もない。


『ふぅん。強敵だったわりに、しょぼいね』

『がっかり……』

『ルゥルリィは巨人を倒したから満足でしょ!』

『ペルもたくさん攻撃してた! だから、ルゥもやった!』

「はいはい。喧嘩は後にしてくれ」


 とどめを横から攫われたペルフェが不機嫌になっているが、まあ小さな喧嘩はよくあることだ。これでも仲は悪くない。明日には、普段通りに落ち着いていることだろう。


「さて、一応、スキル結晶体らしいが」


 この深紅の結晶体も、システムカードでの簡易鑑定によれば、スキル結晶体らしい。内包するスキルは【力を貪る凶々しき魔】だ。赤い巨人が唯一持っていたスキルだな。


 色々と謎のあるスキルだ。さすがに、試してみようとは思えない。イゴットたちに知らせる必要もないな。ドロップはなかったと報告しよう。




 街に戻った頃には空が白んでいた。宿の主人に無理を言って昼間は寝かせてもらい、夜になってセプテトを呼び出す。深紅の結晶体を預けるとともに、凶魔の件について報告した。


「そのネイルってヤツが何者かの名前を呼んだんだね?」

「ああ。はっきりとは聞き取れなかったが、凶魔を与えたヤツだろうな」

「だろうね」


 セプテトは暗い表情で同意する。先日からこんな感じで、どうも調子が狂う。ヤツにとって好ましくないことが起きているだろうことはわかる。が、それを俺に悟らせても良いのだろうか。


 少し踏み込んでみるか。


「犯人に目星はついてるんだろ?」

「うん。でも、もう少し時間が欲しい。対応を相談しないと」


 率直に尋ねると返ってきたのは肯定の言葉。隠すつもりはないらしい。だが、軽々には明かせないと。悪い予感しかしないなぁ。


 だが、暗い気分に沈むのは(しょう)に合わない。対応はセプテトがやるのだし、俺が考えることではないだろう。


 それにしても。


「お前にも相談できる友達がいたんだな」

「いや、友達じゃないから!」


 雰囲気を変えようと茶化してみると、思った以上の強い反応があった。だが、否定するのは友達の方なのか。まあ、普通に考えれば相手は同僚の御使いなのだろう。あくまで、仕事仲間であって、仲はよくないということか。


 御使いの事情なんて知っても面倒ごとが増えると思って気にしてこなかったが、御使い同士の関係もよくわからんのだよな。少なくとも、仲良しこよしではなさそうだ。まあ、職業にもよるが同僚はライバルという側面もなくはない。相談できる関係であるだけマシなのかもしれんが。


 まあ、同僚の御使いはいい。問題は、ネイルに凶魔を与えた黒幕だろう。セプテトは明言していないが、俺にもある程度犯人がどういった立場なのかは想像がついている。独自のスキルを作り出すことができ、御使いたちに隠れてこそこそ悪事を働ける存在など限られている。おそらくは、セプテトと同格の御使いなのだろう。こちらこそ、どういう関係なのか、わからんな。


 とはいえ、セプテトが話すつもりがないのなら、それ以上のことは知りようがない。ヤツが話す気になったときに、改めて尋ねるとしよう。


「で、あの凶魔がエネルギーの異常湧出の元凶ってことでいいのか? 正直、あまりピンときてないんだが」


 強化されたボス格魔物は【凶魔侵蝕】というスキルを持っていた。魔物の強化はエネルギーの異常湧出に際して起こりうる現象の一つであると聞いていたので、なんとなく関連性はあるのだろうという気はする。だが、はっきりとした関係は見えない。


 俺の疑問に、セプテトは手のひらに乗せた深紅の結晶体をじっと見つめてから頷いた。


「そうだね。それについても説明しておこうか」


 セプテトの説明によれば、凶魔には取り込んだ存在からスキルを抽出する能力があったようだ。そして抽出したスキルをネイルが利用していた。ネイルはチートを手に入れたと言っていたが、本人の力ではなく凶魔の力だったわけだ。


 そして、この行為がエネルギーの異常湧出に繋がっていた。いや、そもそもエネルギーの異常湧出など最初から起こっていなかったようだ。コークスローの周辺で大量に漂っていた創造エネルギーは、探索者たちのなれの果てだったらしい。


「本来なら死亡した探索者がため込んだエネルギーは、エルネマインの運営システムに回収されるんだ。だけど、凶魔に取り込まれた場合、回収されずにその場に漂うみたい」

「なるほど。それで見かけ上、コークスロー周辺にエネルギーが増えているように見えたのか」


 湧出量はそのままでも、別の発生源があれば総量としては増えるということだな。探索者が抱える創造エネルギーは想像以上に大きい。何人もの探索者が数年かけてため込んだエネルギーが放出されれば、異常湧出と誤認するような量になるのだろう。


「だが、何故、エネルギーをぶちまけるような真似をしたんだ?」

「システムに回収させなかったのは、探索者の大量死が僕らに知られるのを遅らせるためじゃないかな。何人もの探索者が一気に死ぬと、回収されるエネルギーが一気に増える。そうなると、さすがに原因を調べるだろうからね」


 ふぅむ、なるほど。ぶちまけるくらいなら、自分のものにしてしまえばいいと思うのだが、扱いが難しいのだろうか。


 だが、難しさ以外にも思惑があったらしい。セプテトの言葉には続きがあった。


「それと……汚染されたエネルギーを流す影響について調べていた可能性があるね。実際に、ボス格の魔物には【凶魔侵蝕】なんてスキルがあったでしょ? 凶魔の手下を作る実験みたいな意味があったんじゃないかな?」


 なるほど。凶魔が垂れ流すエネルギーは汚染されていて、それが魔物に蓄積すると【凶魔侵蝕】が発現するようになっていたわけか。


 いや、だとすれば、探索者にも影響がありそうだが。しかし贄を所持する探索者はいたが、侵蝕された探索者は見つかっていない。


 そのことを問うと、セプテトは得意げににやりと笑った。


「ふふん! それについてはちゃんとプロテクトシステムを作ってあるから! 汚染されたエネルギーで勝手にスキルを取得するなんてことはできなくしてあるよ!」


 バグばかり引き起こすセプテトが何を偉そうにという気がするが、一応、長い間稼働しているシステムなのでほとんどバグは残っていない……というのが本人の主張だ。まあ、今までのバグも急な作業や思いつきで発生しているので、きっちりと取り組めばミスも減らせるのだろう。おそらく。


「ともかく、コークスローでやるべきことは概ね片付いたってことだな」

「うーん。そうだね」


 俺が確認すると、セプテトは少し考えて頷いた。それなら、俺もそろそろコークスローを離れるとするか。


 コークスロー周辺の狩り場はレベル帯としてはちょうどいいんだろうが、ステータス的には格下と言える。もっとギリギリの狩り場の方が効率よくレベルアップできるはずだ。赤い巨人のようにまだまだ格上はいる。スキルのおかげでうまく倒せたが、相性によってはそうもいかない可能性があった。それを考えると、できるだけ鍛えておきたい。まあ、単純にレベリングが好きなのもあるが。


「次の目的地は決まってるの?」


 次の狩り場に思いを馳せていると、セプテトがそんなことを聞いてくる。


「いや、特に決まってないな。少し高めのレベル帯を目指そうとは思っているが」

「だったら、東方面に行ってくれる? もしかしたら、また何かお願いするかもしれないから」


 正直に答えると、セプテトが思案顔で提案してきた。要は次の何かがあるとすれば、東ということだな。


「わかった」


 一応は協力体制にあるセプテトからの要望だ。特に明確な目的地があるわけでもないので、従っておくことにしよう。今回の件に御使いが関わっているとなると、エルネマインに大きな変化が起きる可能性が高い。セプテトとの縁は切らない方がいいだろうからな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ