第14話 約束。そして義兄
元亀2年(1571年)5月 上総国天羽郡 佐貫城
「ちちうえ!」
「何じゃ? 梅王丸」
「わたくしには、ひいおじいさまが、いらっしゃるというのは、まことにございますか?」
「(土岐の爺さま(※土岐為頼)のことだな。)おお、いるぞ」
「まことでございますか! して、いつ、おあいできますか?」
「む……。会うことはできぬ」
「なにゆえでございますか!?」
「土岐の爺さまの所とは、敵同士なのじゃ」
「なぜ、かたきのいえに、ひいおじいさまが、いらっしゃるのですか?」
「昔は敵ではなかったのじゃ。ところが、戦に負けた後で、土岐の爺さまが裏切ったのじゃ!」
「なかなおりは、できぬのですか?」
「土岐の爺さまが頭を下げてきたら……」
「ちちうえ! わたくしの、ひいおじいさまということは、ちちうえにとっても、おじいさまではございませんか!」
「そういうことになるな」
「まごが、おじいさまに、『あたまをさげろ!』などと、もうしていたら、なかなおりなど、できませぬ!」
「……(聡いのは良いが、ちと困ったのぉ。さて、どう言いくるめようか)」
「そうだ! わたくしが、おふたりを、なかなおりさせて、さしあげます! さっそく、まんぎじょうに、つかいを……」
「な! 梅王丸! そのような勝手はいかん! お祖父様(※里見義堯)が聞いたら、何とおっしゃるか!」
「え!? ちちうえだけでなく、おじいさまも、なかなおりが、ひつようなのでございますか!? すぐに、くるりへまいり、おじいさまと、おはなしせねば!
そうえもん! そうえもん! これへ!!」
混乱する父上を尻目に、私は、大声で、近習の勝又宗右衛門を呼ぶ。
廊下を走る音が響き、襖を開けて、宗右衛門が飛び込んできた。
「若、勝又宗右衛門。参上つかまつりました。お呼びにございま……。え? 殿!?」
「そうえもん! これより くるりへまいる。ともをいたせ!!」
「はッ! ……はあッ!? と、殿、よろしいので!?」
「う、梅王丸! ま、待つのだ」
「いいえ! まつことはできませぬ! おばあさまさえ、もう、このよに、いらっしゃらないのに、ひいおじいさまです。いそがなければ……」
「……ええい! わかった! お祖父さまも、いきなり、4つの孫が押しかけてきては驚いてしまうであろう。まずは父がお祖父さまに手紙を書くゆえ、しばらく待つのだ」
「まことにございますか! やくそくですよ。ちちうえ!」
この後は、無邪気な子どもを装って、渋るお祖父さまや父上の前で、さんざんに駄々をこね、『土岐家に使者を送ってもよい』という言質を取った。
お祖父さまは、久留里城、私と父上は佐貫城にいたので、許可が下りるまで、約2か月かかった。時間は掛かったが、この件は、結構な大事。このぐらいで済んだのなら、首尾は上々だ。
早速、土岐為頼様に手紙を書くことにする。内容は益体もない子どもの戯れ言のような物だが、これが、大きな布石になるはずだ。
さらに、運の良いことに、ちょうど久留里に義継がやってきていたので、捕まえて、今後のことについて、密かに協力を仰いだ。
「あにうえ(※義継)。およびたてして、もうしわけございません」
「梅王丸殿。わしも暇ではないのだが、いかがなされた」
「(……流石にまだ硬いな) はい。いまのうちに、まんぎのときけとわぼくしたいので、あにうえの、おちからぞえを、いただきたいのです」
「ああ、義堯も義弘も、ぼやいていおったな。ただな、梅王丸殿、家と家との柵は、幼子の我が儘で、どうにかなる物ではないのだ」
「だからでございます。このまま、ときけとあらそっていては、さとみけの、みらいは、まっくらでございます。それが、あのおふたりには、わかっておりません」
「う、梅王丸殿!?」
「あにうえ。いま、さとみけは、かいのたけだけと、むすんで、いせと、たたかっていますね」
「……いかにも」
「しんげんこうは、ながくありませんぞ。さらいねんぐらいには、なくなりましょう。」
「な、何を申すか!」
「そのうえ、いせは、ことし、うじやすが、しんで、ふたたびたけだとむすぶはずです」
「なぜ、そのようなことがわかる! 戯言を申すな!!」
「おちついて、おききくだされ。わたくし、ゆめまくらにて、みほとけの、おことばをいただき、さきのことが、わかるのです」
「…………」
「うそだと、おおもいでしょう。ですから、これから、はなすことが、おこったらで、かまいませんので、また、おはなしを、おききください。
ことし、おだのぶながこうが、ひえいざんを、やきうちなさいます」
「は!?」
「では、きょうは、これにて、しつれいします」
3か月後、私の予言通り、織田が比叡山を焼いた。
各地が騒然となる中、父上へのご機嫌伺いと称し、義継が、佐貫城にやってきたのは、間もなくのことであった。
勝又宗右衛門
架空の人物。徳川家康に対する鳥井元忠のような人物を想定。




