第13話 検証。そして方針転換
今回は、「上手くいった!」と思ったのだがな……。
まさかここで、義頼未亡人が祟ってくるとは思わなんだ。
確かにあやつは強い女。これまでも義頼の正室に入った鶴を毎回責め殺しているような毒婦じゃ。何かしてくる可能性はあったのを、見過ごしてしまったのは、私の落ち度と言って間違いはない。
ただ、それにしてもだ。宴に龍雲院めが忍びんでいたのは、怪しすぎる。誰かの手引きがあったに違いない。
ま、普通に考えれば、手引きしたのは、北条の手の者であろうな。
ことが起こってからの、風間隼人正の動きが速かった。と、いうか、速すぎた。
他の家臣たちが呆然とする中、瞬時に飛び出しおった。
また、風間に斬られたときの龍雲院の顔。あれは、驚きの表情だ。私に対してや、斬られたことへの怒り、本懐を遂げた達成感が表れたならともかく、なぜ斬られて驚く?
龍雲院めは、北条からの「義重を殺せば、出家させた義頼の子を還俗させて、次の当主にする」などといった甘言に踊らされて、私を刺し、口封じのため斬られた。と、いうのが真相ではないか。
それにしても抜かったわい。昨年、千葉介邦胤殿が、家臣に弑逆された一件の、顛末を知っていながら、甘かったとしか言いようがない。
邦胤殿亡き後の千葉家はどうじゃ。邦胤殿の嫡男がおわすと言うに、北条家から直重殿が養子入り、お家を乗っ取られてしもうた。
梅千代丸、勝千代丸は、どちらも鶴の産んだ子。氏政殿の孫にあたる。粗略に扱われることはない。
と、信じたいが……。はっきり言って、どうなるかはわからん。桃の夫に、北条の男を宛がって、乗っ取りをかけてくることだって十分にあり得る。
北条による里見家の乗っ取りか……。これはどうすれば防げる?
……わかった! 簡単だ。義頼を殺さなければいい。
義頼には、千寿丸を筆頭に男児が四人いたはず。
かの一門が健在なら、私が突然身罷ったとしても、十分に代理がつとまる。次の当主候補が複数健在ならば、北条もあのような形で実力行使に出ることはあるまい。
1生目のことがあったから、義頼のことを敵じゃ敵じゃと考え、殺さなければならぬ気になっていた。
しかし、これまでも、きちんと付き合うてみれば、物もわかるし話も通じる男であった。冷静になって比べれてみれば、猜疑心が強く、戦狂いで、大酒飲みと、明らかに、義弘のほうが、質が悪い。
母の実家、古河公方家を敵視する、小弓公方家との繋がりもあった。
そのせいで、4生目ぐらいまでは、早いうちから険悪な状態か、そうでなくても仲良くなるのにだいぶ時間がかかった。しかし、先に小弓公方家の勢いを削ぐようにしてからは、関係を深めるのも簡単だった気がする。
そう考えてみると、前世では、わざわざ殺す必要があったのだろうか?
……もしかして。殺さなくてもいい義頼を、殺してしまったせいで、早死にすることになったのか!?
私は、自分で自分の後ろ盾を潰しておったのかもしれん。以前から、小弓公方家が元凶だと言うことはわかっておったのに。なんたる失態だ!
そもそも、義頼との仲が良好ならば、家督にこだわる必要があるか?
この乱世に、11歳で家督を継ぐなどと言い出すから問題になるのだ。こちらの身の安全が確保できるならば、義頼に家督を渡してしまってもいいのではないか。ならば、いっそのこと義頼の養子になってしまうのもいい。
「自分は幼いから、義弘-義頼-義重の継承の流れの方が、里見家が安定する」
とでも言えば、父上も母上も文句は言うまい。
そして、前世で上手くいったように、北条の娘を嫁にして、後ろ盾を作っておけばいい。父上の死後、義頼がすんなり家督を渡せば良し、渡さなかったら、北条の援軍を求めても良いし、亡命して北条家の客将になってたって良い。家族の命をつなぐためには、こっちの方が確実かもしれん。
付け加えて言えば、今生は、できればもう少し早く、北条家との縁を結びたい物じゃ。何かいい手がないか、しばらく考えてみよう。




