Act 5
待つこと五日がすぎた――。
アルンはやって来ない。
(どうした、アルン。小惑星が衝突してしまうぞ)
イノウ・シロウがここを発ってしまっては、もうその行方を探るのが困難になってしまう。LSHロボットを人間に変えられる魔法術師がそうあちこちにいるわけはないから、イノウ・シロウを頼る以外にないぞ、と思う。それとも、アルンは他の魔法術師を見つけているのか、あるいは、まだイノウ・シロウの存在を知らないのか……。
五日間もずっと屋外で待っていたZ0G‐KKBの電子脳になんの前触れもなく直接命令が届いた。
「オーランド市の野良ロボットを回収し、惑星イーガン・ベータを脱せよ」
小惑星の欠片は日々イーガン・ベータに落ちている。大きな被害に巻き込まれる前に任務を遂行するよう、うながされていた。
LSHロボットに対するオーナーの命令は絶対である。すぐにここを発つ必要があった。
Z0G‐KKBは五日ぶりに動き、家の戸をたたいた。
「私は命令によりここを離れなければならなくなりました。一応、伝えておきます」
もう夜になっていた。虫の音がコロコロと聞こえている。夜空を見上げると、すっ、すっ、と小さな光がいくつも高速で横切っていく。大気中に飛び込んだ小惑星の欠片が流れ星となって見えているのだ。衝突の日は近いな、とたしかに思えた。
家からは物音ひとつしない。イノウ・シロウは眠ってしまっていて、Z0G‐KKBの声など聞こえていないかもしれない。もっとも、Z0G‐KKBが別れを告げようと、告げなくて去ってしまおうとも、イノウ・シロウにはどうでもいいのかもしれない。
夜露に濡れた草を踏みしめ、回収屋のLSHロボットはもと来た道を歩きだした。
五日前に停めたクルマは、五日前と同じ場所にちゃんとあった。こんな人里離れた場所では盗まれる可能性はほぼ皆無だろう。
運転システムを稼動させると、目が覚めたように車内の各種インジケータが点灯した。
Z0G‐KKBはオーランド市に向かう。その間、オーナー登録からはずされた野良ロボットの個体ナンバーが伝えられた。それらのLSHロボットの現在地まではわからないが、出会ったLSHロボットなら確認は簡単である。Z0G‐KKBの宇宙船に乗せられるだけのロボットを回収したら、すぐ出発することにした。
オーランド市の市街地についたのはまだ夜明け前だったが、Z0G‐KKBは気にしなかった。
目的もなさそうに動いているLSHロボットを見つけると近寄り、個体ナンバーを照合した。リストにあるものと合致すると問答無用で電子パルス銃を使った。機能を停止したLSHロボットをクルマに乗せ、パオロ宇宙港に向かう。宇宙港に停泊してある回収屋の宇宙船の船内スペースには、三〇体分のロボット固定ハンガーがあり、Z0G‐KKBは働きアリのごとく、愚痴ひとつもらさず市街で野良ロボットを回収しては宇宙船に戻りハンガーに固定する作業を黙々と続けた。
夜が明けて、一日が暮れる前に、三〇体分のハンガーが埋まった。
「満員御礼だな」
Z0G‐KKBはつぶやく。ハンガーがすべて埋まるというのは、なかなかない光景であった。
パオロ宇宙港管制室に出発する許可を申請すると、すぐに受理された。
Z0G‐KKBは操船シートにつく。ロボット専用船とはいっても、もともとは普通の宇宙船であったため、インターフェイスは人間が操船する仕様であった。操船レバーを握り、エンジンを始動。
宇宙船が垂直上昇する。
アルンを確保できなかったのは心残りであったが、これだけ多くの野良ロボットをそれほど苦労なく回収できたのは大きかった。イーガン・ベータの特殊な事情があったからこそといえる。その意味では満足だった。
大気圏を抜け、前方に跳躍ホールを作り出している巨大なリング状の構造体が近づく。気をつけて見ないとわからないが、その周囲にも小惑星の破片が降り注いでいることだろう。
跳躍ゲートへの侵入許可が下りた。
宇宙船は自動操縦でそこへ近づく。跳躍エンジンを独自に有する宇宙船であっても、跳躍ゲートは利用される。きちんと交通整理された航路ならば、跳躍ゲートを使うほうがさまざまな調整なしで跳躍でき、エネルギー効率もいいからだ。そのかわり出口も跳躍ゲートに限られるが。
Z0G‐KKBが見るモニター画面には、跳躍ゲートとそれに続く仮想航路がAR表示されている。進む入り口と、離れた位置にある出口が色のちがう誘導マークにより示されていた。その出口から、今まさに一隻の宇宙船が出てこようとしていた。比較的小型の外洋宇宙船だ。避難民を迎えに来たにしては小さい。
その船影がはっきりしたとき、Z0G‐KKBはハッとした。
「長岡天神丸……!」
アルンたちが違法に所有している宇宙船だった。アルンがあの魔法術師のところへ行こうとしている……。
すぐに回収したいところだったが不可能であった。船は跳躍ゲートへの進入シークエンスに入っており、いまさら引き返せない。引き返したとしても、すべてのハンガーにはLSHロボットが納まっている。これ以上回収することはできない。
すれちがうアルンたちを、Z0G‐KKBは黙って見送るしかなかった。
小惑星の大きな欠片がいままたひとつ、惑星イーガン・ベータに落ちていった。赤く輝きながら大気圏へと突入していく。それが地上のどこに落ちるかはわからない。その光景はそう遠くないいつか、この惑星が壊滅する日が来ることをじゅうぶんに予感させた。その横を平然と突き進む長岡天神丸。その姿は、乗っているLSHロボットたちの、どんな困難をも打ち破るような力強い意志がにじみ出ているようだった。




