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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
最終話 それでも人間になりたいか
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Act 4

 ピノッキオ症候群のLSHロボットが現実の厳しさを知って、素直に回収されて新たなオーナーのもとで働くと考えを改めてくれるだろうか、それともエレナのように、それでも人間になってがんばりたいと決意するだろうかと、Z0G‐KKBは野良ロボットたちがどちらを選択するのが多いだろうかと思った。

 ともかく、クルマでエレナに教えてもらった場所へと急行する――魔法術師の下へ。

 オーランド市の都心から離れ、郊外へと走らせる。

 多くの魔法術師がそうであるように、彼も人を遠ざけていた。イノウ・シロウ、という名前も偽名だろう。

 とにかく世間ひととなるべく関わらずにいたいと願っている暮らしぶりだから、すべてにおいて謎だらけだ。

 魔法術師がここにいる、などとはだれにも知られたくはないわけだから、エレナはよくそんな情報を得られたな、とその運の良さを思った。

 道路は、いつしか森の中へと入っていた。両側には背の高い木々がそびえ、長い影を落としている。日光が届かない地面は湿った場所を好む植物が低く茂って、小動物の格好の住処となっていた。風を切って走り去るクルマの音に驚いて飛び立つ鳥。大気改造テラフォーミングの際に持ち込まれた動植物によって人工的に作られた生態系だが、ある程度の期間をすぎるとたくましい自然の力によって自ら拡大を始めていく。とはいえ、それもこの惑星の終焉とともに消滅してしまうだろう。いつか、このカタストロフから数十年、あるいは数百年かたったときに蘇るかもしれないが、それまでは人間が近寄れない死の星となってしまうだろう。

 森の中で枝道に入り、クルマが通れない細い道を徒歩で進むこと三〇分。だれが好き好んで踏み入るだろうかという場所に、一軒の家があった。木造の粗末な小屋である。塗装もしていない壁は木の無垢で、屋根は木の皮で葺いていた。インフラとは無縁の場所だ。

「わしになんの用だ?」

 突然声をかけられて振り向くと、いつからそこにいたのか、一人の男が立っていた。ダウンジャケットにジーンズという、意外と小ざっぱりとした服装の初老の男だった。手斧を持っており、森でなにか作業をしていたらしい。

「私はLSHロボットなのに、意識を読んだんですか?」

 Z0G‐KKBは、ここへ来たのが気づかれたのは、思考を読まれたせいだと考えた。

「LSHロボットが歩いて来ているのなんか、とっくにわかっておったわ」

 しかし男は否定し、立ち止まったZ0G‐KKBの前に回りこむ。

「ま、人間ではなくてホッとしておるがな……」

「お話をうかがいに来ました」

 単刀直入に目的を告げた。

「ロボットらしい物言いだな。話だと?」

「はい。イノウ・シロウさんは、LSHロボットを人間に変える魔法術師だと聞きました」

 イノウ・シロウの目つきが変わった。

「どこでそれを聞いた」

「とある惑星で。そして、エレナさんに確認してきました」

「エレナ……ああ、あいつか……」

「私は回収業者のLSHロボットです」

「回収……野良ロボットを中古市場に下ろす業者だな。なるほど、そういうことか。いや、人間の心がダイレクトにわかるもんで、推測するのが億劫でな。おまえはここに人間になりたいLSHロボットが来ていないか、ということを探りに来たんだな」

「はい。そうです」

「あいにくだったな。野良ロボットどもが順番待ちの列をつくっているとでも思ったか?」

「いえ、そうは思っていません」

「はっ、つまらんやつだな」

 茶化すイノウ・シロウだが、Z0G‐KKBは取り合わない。

「ここで待とうと思います」

「待つ? わしがここにいるということは、だれにも言ってないし、ネットにも情報は流れていないはずなんだぞ。どのロボットが来るというんだ? それとも、来る見込みがある、というのか?」

「はい。知っているピノッキオ症候群のLSHロボットが」

「そうか……。だが知ってのとおり、この惑星はもうあと数ヶ月しかもたんぞ。いつまで待つつもりだ?」

「可能な限り」

「ふん、LSHロボットだから、いつまでも待てるってわけか……しかし、わしがそのLSHロボットを人間にしちまったら、おまえはどうするんだ? 人間なんだから回収するわけにはいかんだろう」

「その前に説得します。人間になることがどういうことか、やつにはわかっていない」

「素直に応じるかな」

 イノウ・シロウは会話を打ち切って家に入ろうとして、振り返る。

「言い忘れたが、わしは二週間後にはここを発つ。他の星へ逃げなければならんからな。まったく、宇宙船なんかに乗らなければならないなんて、気が重くてかなわんが」

 そして今度こそドアを開けて、家のなかへと入った。


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