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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
最終話 それでも人間になりたいか
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Act 2

 跳躍ゲートを通った先に見えたのは、やけに薄汚れた雲をまとった惑星だった。

 惑星イーガン・ベータ。ほんの数年前に開発された比較的新しい惑星国家である、と聞いた。大気改造フォーミングも順調に完了し、これから発展が期待される惑星だと、移民たちも周辺星系も期待を寄せていた――のだが。

 イーガン星系内の小惑星どうしが衝突したのは一年前であった。開発途上の星系にありがちな天体観測体制の未整備の隙をつかれて事前の予測ができていなかった。その影響がイーガン・ベータにおよぶことが判明したのはおよそ十ヶ月前。衝突の衝撃で小惑星が軌道をかえ、まっすぐ向かってきているのがわかったのだ。

 すでに衝突時によって飛び散った小惑星破片の一部が地表に降り注ぎ始めていた。小惑星の本体の衝突まであまり時間がなかった。

 移民たちは我先にと脱出をし始めていたが、全人口が脱出するにはまだ時間がかかりそうであった。それだけの宇宙船をまだ調達できずにいた。

(宇宙の大いなる力の前には、人類の活動など、ちっぽけなものなのだな)

 宇宙船が大気圏突入シーケンスに入り、Z0G‐KKBは感慨深げに思う。

 ミコネフに聞いてやって来たのが、この惑星イーガン・ベータであった。ここの中核都市オーランド市に、かつてLSHロボットだった人間の女性が住んでいるらしい。彼女に聞けば、魔法術師の居場所もわかるだろうと、ミコネフは言うのだった。どこからそんな情報を入手したのか、LSHロボットらしくない、一癖も二癖もありそうなやつだ。野良として生きてきたせいかもしれない。

 もらった写真を見ると、ごく普通の人間だった。なにかの証明写真ホログラフだろうか、かすかに微笑むその顔に、LSHロボットらしい面影はないように見えた。LSHロボットを人間に変えられる魔法術師は、信じられないが実在するようだ。

 宇宙船は宇宙港へのアプローチに入る。税関に、入国はロボット一体だと告げる。

 Z0G‐KKBの乗るオレグ重工社製の普及型高速宇宙船は、ロボット専用船に改装されていた。小型ながら航続距離が大型船並みであるのは、人間を宇宙船に乗せるための生命維持装置のほか酸素や水や食料などを積み込むスペースを削り、その分推進剤を多く積載できるからであった。ロボットしか乗らないとなれば、思い切った仕様にできた。

 宇宙船がオーランド市近くのパオロ宇宙港の離着床に着陸し、ランディングギアがしっかりと自重を支える。

(では、彼女の勤める職場に行ってみるとしよう)

 エンジンを含めた航行システムを全停止させると、Z0G‐KKBは宇宙船の外へ出た。



 レンタカーでZ0G‐KKBは市内を走る。

 オーランド市は閑散としていた。外資系企業はあらかた撤退してしまっていたため、残るは起業されたばかりの独立系の事業体ばかりとなるのも当然であった。

 最低限のインフラは最後まで残るだろうが、それ以外は潮が引くようにこの惑星ほしから消滅していっているのだ。

 ミコネフから教えてもらった職場の広告デザイン事務所も、もう引き払った後だった。しかたなく自宅に向かう。

 行きかう車両はほとんどない。昼の日中ひなかだというのに、町はすでに死んでしまっているかのよう。

 吹き抜ける風が路上のゴミを舞い上がらせる。

 街角にはゴミが目立った。滅びゆく土地を捨て去ろうという者に環境を守ろうなどといっても鼻で笑われるだけだろう。故郷としての愛着が育つ前に失われてしまうわけなのだから。

 LSHロボットは何体か見かけた。一部にはオーナーに連れて行ってもらえず、見捨てられたものもあるだろう。機能停止させられたLSHロボットもあるかもしれない。野良化したものは回収対象だ。あとで回収することになるかもしれない。

 家についた。

 エレナ。表札にあるそれが彼女の名前だ。

 開発された住宅街の一画。いくつもの同型の家が立ち並んでいた。広い敷地に建つどの家も大きな平屋で芝生の庭が道路までの間に大きくとられており、空間的な余裕が感じられる。もっとも、そこに住んでいた住民も、今ではほとんどいなくなっていて、手入れをされてもらえなくなった芝生が枯れかけていた。

 エレナの住む家も同様な形式で、一人で住むには広い住宅だった。一人ではないかもしれないが、一人暮らしだと聞いていた。

 呼び鈴を押すが反応がない。

 しばし待つ。

「どなたですか?」

 インターホンのモニターにはこちらの顔が映っているはずだ。見知らぬLSHロボットが訪ねてきて不審に思っているだろう。緊張した声が返ってきた。

「突然、すみません。私は回収事業所から遣わされて来ました」

「回収……。なんの用です? わたしはLSHロボットじゃないですよ」

「存じております。あなたを回収に来たわけではありません。お話をうかがいに来たのです」

 Z0G‐KKBは、相手に安心してもらおうと、先に用件を示した。

「どうか少しお時間をいただけませんか」

 ここで断られても、何度でも来るつもりだった。

「少し待ってください」

 ややあってインターホンが切られた。どうやら会ってくれるようである。

 玄関ドアが遠慮がちに開いた。その隙間から小柄な女が用心深そうに外をのぞいていた。


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