Act 6
平屋の小さな家が三棟、夕闇せまる吹きさらしの丘の上に長い影を寂しげに落としていた。人が住んでいる気配がない。
「おーい、だれかいるかい?」
アルンは声をかけた。
しばらくして、一棟のドアか開いて、汎用型のメイドロボットが現れた。
「なにかご用でしょうか。主人はだれともお会いになりません」
「LSHロボットがやって来たことはわかってるはずだろ? 心を持たないLSHロボットなら、話もできよう? その家のなかにいるのかい?」
そう言った直後、開けたドアの隙間から、一人の女がのっそりと現れた。年齢は四十代ぐらいに見えたが、実際にもっと若いかもしれない。ここでの過酷な暮らしが実年齢より老けてみせているのかもしれない。着ている衣服も古く、あちこち擦り切れ、ほつれている。
「あたしの体が目的で、命がけでここへ来ようとする男どもが最近少なくなってきたかと思ったら、なんてこったろうね……。おまえたちがなにしに来たのかも察しているさ」
女は化粧っけのない顔をひきゆがませた。
アルンは女の台詞に反応することなく単刀直入に持ちかけた。
「なら話は早いや。ここにMQRで四百万ある。これで、おれたち全員を人間にしてほしい」
女はたまらなくなったように笑い出した。ひきつったような笑い声は小さく、ざらついていた。
「たしかにわたしはLSHロボットを人間に変える力を持っていたさ。しかしそれも遠い過去のこと。今ではそんな力もない。魔法術師の力はずっと保ち続けられはしないんだよ。若い頃無茶したせいか、この歳でもう使える魔法は小さなものばかりになっちまったよ。もしかしたら、もう人の心もわからなくなっているかもしれんけど、それをたしかめようと、ふもとに下りる気にはならんがな。わかったら帰ってくれ」
「待ってくれ」
ひっこんでしまおうとする魔法術師を呼び止めるアルンは、簡単にはあきらめない。
「だったら教えてほしい。他にもLSHロボットを人間に変えられる魔法術師はいるのか、いるとしたらどこにいるのか?」
女は野性的な瞳でまっすぐとアルンを見つめる。
「魔法で人間になったLSHロボットは普通の人間とはちがう。人間もどきだ。それでも人間になりたいのか? よく考えることだ。人間なんかろくなもんじゃない。人間になったら最後、もう元のLSHロボットには戻れんぞ」
陽が水平線の向こうに沈み、残照が周囲のなにもかもを赤く染め上げていた。吹く風の方向がかわり始めた。
「人間は、ろくなもんなんかじゃないです。どんなにロボットより劣ってみえようとも、人間はおれたちにないものを持っているから」
力強く、アルンは言った。
女魔法術師はしばらくアルンを見つめると、フッと息を吐き、
「家に入るがいい。LSHロボットを人間に変えられる魔法術師がどこにいるかを教えよう」
そう言って、四体とも家に招き入れた。
アルンたちの希望は、まだ潰えていなかった。




