Act 5
「おまえこそ、なんでこんなところで用心棒なんかやってるんだ?」
ゲイスンは、ダイレクト通信で声を出さずに相手に呼びかける。
「なにを言ってる。おれはおまえ同様、戦闘用にカスタマイズされたLSHロボットだろ。この仕事がぴったりじゃねぇか。しかもあのときとちがって今は人間も撃てる。攻撃できない対象がいないのはストレスがかからなくていいや。魔法術師様々だぜ」
「昔のよしみでここを通してくれってわけにはいかんようだな」
ゲイスンは武器を確認する。両腕のヒートガン用のバッテリーはここまでの戦闘で消耗していて残量が心許ない。
オリガーの射撃精度はゲイスンより劣ったが、俊敏さはうわ手だった。照準をつけるより早く動くため的が絞れず、その間に撃たれてしまう。
どんな戦法で対するものかと頭の中でシミュレートしていると、身を隠していた岩が砕け散った。大小の欠片が熱風ともにゲイスンに降りかかる。
(なにっ!)
衝撃に弾き飛ばされたゲイスンは、斜面にダイブする。勾配のきつい斜面を途中にある岩にぶつかるまで転がり落ちていった。
岩に体をしたたかに打ちつけたゲイスンは、次の銃撃を警戒して素早く立ち上がり、岩の陰に退避する。二メートルほどの岩の陰で、オリガーの出方を探った。
「もうおしまいか? 以前のおまえはもっとタフだったぞ」
オリガーは大型凝熱砲を持っていた。昔とは扱う武器がちがっていた。あんな火器を持っていてはせっかくの機動力が損なわれる。ここまで登ってくるのなら、かなりの強敵だと想定しての武器選択なのだとみた。
(勝てるかもしれない)
しかしチャンスは一度きりだと覚悟してかかったほうがいいと、ヒートガンの出力を上げた。一発で倒さなければ、次はない。
「なぁ、ゲイスン。憶えているだろ? 反政府軍の補給部隊を襲撃したとき、人間の兵士が盾になっておれたちはなにもできなかったのを。尻尾をまいて引き下がるしかなかった。あのときは残念だったよなぁ……。あれから政府軍の旗色が悪くなって、まもなく崩壊したが、おれはずっと人間に銃を向けられなかったことが口惜しくてたまらんかった。だからここでそのウサを晴らせて、おれは今すげぇ充実してるんだ。もっとも、最近はおれを恐れて人間がのこのこやってくることは少なくなってしまったがな。ところでなぁゲイスン。おまえがここでおれといっしょに魔法術師に仕えるなら、かけあってやってもいいぜ。稲妻ゲイスンと呼ばれたおまえなら、即オーナーも満足だろうよ」
「オリガー、おまえはそれで満足なのか?」
岩陰に身を潜めつつ、ゲイスンは質問する。
オリガーはどこか不服そうに言った。
「おまえはここになにをしに来たんだ? この上の魔法術師になんの用なんだ? まさか人間になりたいなんて、くだらねぇこと思ってんじゃなかろうな?」
ゲイスンは沈黙した。
オリガーのわざとらしい笑い声が響いた。
「人間の醜く愚かで弱い面をさんざん見てきたのに、そんな人間なんかになりたいなんて、おめぇどうかしてるぜ」
ゲイスンは声のする方向を見定める。岩陰から飛び出そうとした瞬間、その岩が炸裂する。爆風にあおられ転倒した。
そこへ山から切り出されたかのような角張った岩が転がってきた。つぶされる、と覚悟したとき、その岩が砕け散った。激しい衝撃によってバラバラの礫になった。
ワシェンゴの放ったグレネード弾だと気づいた。
(よし、今だ)
ゲイスンは左のヒートガンを地面に向けて発射する。最大出力で。
その反動でゲイスンの体が宙に跳ぶ。一気に斜面の上方に出た。
あっという間に間合いをつめた。右腕のヒートガンがオリガーの姿を捉えた。
すかさずトリガーを引く。オリガーが大型凝熱砲を構えるより早く熱線がその胴体に命中した。
もんどり打って倒れるオリガーを視線の端に認めながら、ゲイスンもまた体勢を崩して砂地に激突する。
「おーい、ゲイスン! 無事かぁ?」
ワシェンゴがグレネードランチャーを振り回しながら、不格好な走り方で斜面を駆け上がってくるのが遠くに見えた。
ゲイスンは手をあげて無事をアピールすると、おぼつかない足取りで倒れているオリガーのもとへと歩む。
オリガーは倒れたまま動かない。まだすべての機能が停止したわけではなく、意識はあった。すぐ傍らでたたずむゲイスンを認識した。
「おれの負けだな。稲妻ゲイスンに負けたのだから納得だ」
「稲妻ゲイスンか……。懐かしい二つ名だな。おれにとってはもう顧みられることのない過去だが」
運動機能の破損したオリガーを見下ろす。
「上まで担いでいってやろう。修理してもらうといい。それとも、いっそ人間にしてもらうか?」
「修理? 人間?」
オリガーは乾いた笑い声をあげた。ひとしきり笑うと、急に冷めた目でゲイスンを見返す。
「忘れたか、ゲイスン。おれたちの製造保証期間はもう過ぎていて、修理なぞできんぞ」
「もちろん知ってるさ。だが魔法術師なら修理なんか可能だろう?」
「おまえは魔法術師ならなんでもできると思ってるらしいな……」
オリガーの口元に浮かんだ達観したような笑みは、ゲイスンに昔を思い出させた。次第に弱体化していく政府軍がなおかつてのようにマッキンタイア・ベータ全体を勢力下におくことを目指して鼓舞する姿は虚しく哀れであった。
「まぁいい。直接魔法術師に尋ねればわかることだ。絶望を味わうといいさ」
そこへ、ワシェンゴが追いついてきた。ゲイスンのそばに来て、オリガーがまだ完全停止に至っていないのを知ると、右足に格納していたバイブレーションソードを引き抜いた。一メートルほどに延びた棒は超高速振動を始め、ヴン、とうなる。
人間とちがってLSHロボットは、機能の一部でも停止していなければ動作可能であり、完全に沈黙させないかぎり脅威は消えない。
とどめを刺そうとすると、
「ワシェンゴ、ここはいい」
ゲイスンは制した。
「そうか……」
どうしてか、と問うこともなく、ワシェンゴはバイブレーションソードをしまった。
「アルンは……?」
そう訊くと、ワシェンゴは振り返る。その視線の先、斜面の下方、まだかなり遠いところをマーヤとつれだって呑気そうに登ってくるアルンがいた。




