Act 3
シュライクの町は小さい。所詮、受刑者が自主的に集まって造った町だ。家族がいて人口が増えるわけでもなし、大きく発展のしようがないのだ。いきなり家並みが途切れると、前方には草木のない茶色一色の丘があるのみだった。
ワシェンゴがクルマを静かに停止させる。
「このクルマのままではさすがにここは登れないぞ」
道らしき筋はなかった。傾斜は上方へ行くほど急になっており、ところどころに点在する大岩が特火点のようで、ふもとから見上げたその光景はさながら要塞であった。そしてそのイメージはあながち間違いではなかった。
アルンはクルマを降り、丘の上の建物に鋭い視線を送る。
「ワシェンゴ、先頭を頼む」
「心得た」
ワシェンゴはひとりクルマに残ると、コンパクトカーを変形させる。後付けのアクチュエーターが連動し、わずか五秒たらずで人型に変形した。
「では登るぞ。全員、我の陰に入って続け」
ワシェンゴの操作により、コンパクトカーだった拡張マシンはタイヤの代わりに二本の太い脚で大地を踏みしめ、丘の斜面を登り始める。
アルン、ゲイスン、マーヤがそのあとを遅れてついてゆく。
歩みはゆっくりだった。一歩一歩、拡張マシンのワシェンゴの歩みは速くはない。足下が平らではないし、小さな凹凸があるため、大きな体をしっかり安定させつつ登坂せざるを得ないのだ。アルンたちのほうが、よほど軽快に登っていけるだろう。が、あえてそうはしなかった。
晴天の下、主星シモンズはまばゆい光を放ち大地を灼くが、それが作る影はじっと見ているうちに変形していく。自転周期の早いシモンズ・ガンマにおいては、あっというまに昼夜が入れ替わるのだ。のんびりしていると、すぐに夜が来る。
ワシェンゴの拡張マシンの巨体から発する作動音に混じって、どこかから別の音が届いた。
「おいでなすったな」
アルンは察した。
その直後──。
ワシェンゴの体に衝撃が襲いかかった。同時に土煙。銃撃である。
だが拡張マシンの多層装甲のボディーは銃弾を跳ね返す。
「思ったとおりだな」
ワシェンゴの脚の間から攻撃者の姿が見えた。それは、岩陰から身を乗り出したLSHロボットだった。
拡張マシンの上半身が旋回し、攻撃してきたLSHロボットに正対する。搭載されている機銃を発砲。しかし相手はすばやく退避、ワシェンゴの射線から逃れた。
「待ってました」
べつの岩陰に飛び込もうとしたそこをゲイスンがヒートガンで狙い撃った。胴体に直撃し、相手は部品を散らして倒れる。
LSHロボットは人間とちがい、一部でも機能が生きていたら脅威となりうる。さらにヒートガンを撃って炎上させた。
「これはどういうこと?」
ゲイスンが銃口を下げたのを見て、マーヤはアルンを振り返る。その顔に戸惑いが浮かんでいた。人間を近づけさせない対策、とアルンは言っていたが、これは……。
「魔法術師はだれも近づいてほしくないってことさ」
「でもこれって……!」
マーヤがこの状況を信じられないのも当然だろう。ここにはLSHロボットがほとんどいない。ということは、今の攻撃は対人を想定しているわけであり、それはLSHロボットが人間に危害を加えるという原則に反する。
LSHロボットには、その製造過程において、人間を物理的に害さないよう幾重もの安全装置が搭載される。そのセーフティーを解除しようとすれば、電子脳がソフト・ハードともに自己破壊するのだ。
にもかかわらず、あのLSHロボットは襲撃してきた。
アルンたちはLSHロボットであったから攻撃してきても問題はないが、もし人間だったとしても躊躇いなく銃撃してきたろう。そのことにマーヤは気づき、不安を口にしたのだった。
「丘の上にいるのは魔法術師だ。LSHロボットの違法改造など、簡単にやってのけるだろうさ。しかも監獄惑星に流された犯罪者だ。今さら罪を恐れる意識などないだろうな。たぶんこの先も武装ロボットが待ちかまえているだろう。そいつを全部突破しないと、目的の魔法術師には会えないってことさ」
「わたしたちが害のないLSHロボットだと伝えれば、きっと攻撃をやめてくれるんじゃないかしら。わたしたちには読みとれる心がないから、魔法術師さんも恐れないと思うんですけど……」
「マーヤの親方さまはどうだった? LSHロボットだったら、安心して接していたかい?」
「……………」
マーヤは思い返して黙ってしまう。──親方さまは相手がLSHロボットだからといって心を許したりはしなかった。LSHロボットを遣わしているのは人間であり、そうである以上、どんな形であれ脅威は存在する……。そんな考えの持ち主だった。
「それにそもそも意思を伝えるっていっても、直接行くしか手段はないんだぜ。──ワシェンゴ、ダメージはないか?」
アルンは、体を張って今の襲撃を耐えてくれた仲間に声をかける。
「問題ない。先を急ごう」
素っ気ない、けれども頼もしい返答があった。
「早くしねぇと日が暮れちまうぜ」
両腕に固定された二丁のヒートガンに全幅の信頼をよせるかのように愛おしく眺めて、ゲイスンがニヤリと笑う。
アルンはハッパをかけるように声を張り上げた。
「よし、ここからが本番だ、気を引き締めて行こうか」




