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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第8話 監獄惑星の要塞
50/61

Act 1

 シモンズ星系第三惑星、シモンズ・ガンマ。大陸はひとつだけの海洋惑星である。海流を妨げるものがないため、海はいつも荒れ狂い、大陸の内陸はほとんどが砂漠だ。わずかな河川沿いに都市と耕地が集中し、人口は二千万に満たない。

 全長七〇メートルの小型の高速恒星間宇宙船・長岡天神丸は、三十五日間の長旅の末、ようやくそこへたどり着いた。

 電力節約のため待機モードにあった四体のロボットは、すでにそれぞれ覚醒して操舵室のシートにあり、周回軌道上からシモンズ・ガンマを捉えたメインディスプレイのリアルタイム映像を眺めていた。

「これは穏やかそうな惑星だな」

 ゲイスンが機関席のリクライニングを倒して、リラックスした姿勢でつぶやく。

「リゾート惑星でないのが不思議なくらいだ」

「見た目ほど穏やかじゃないってことですか?」

 サブ席にちょこんと座るマーヤが、答えを求めて指令席のアルンを振り返った。

「多少荒っぽい気候だが、なんとか人間の住める惑星ほしさ。とはいえ人口は二千万に届かないし、観光でやってくる人はほとんどいない」

 アルンはメインディスプレイを見つめる。惑星シモンズ・ガンマの表面ほぼ八分の一を占める大陸が映っていた。大陸はこのひとつだけで、だから惑星表面の残り八分の七には小さな島が点在するだけの大きな海洋が広がる。そのため極端な気候で、決して住みやすい惑星とはいえない。

「なにせここは、監獄惑星だからな」

 温暖で快適な惑星であるはずがないのである。

「そろそろ大気圏に突入するぞ」

 そこへ操舵席のワシェンゴが割って入った。するとそれを合図とするかのように船体が細かく震動し始めた。

「おっと、もうちっと早く言ってくれよ」

 ゲイスンがあわててシートの背もたれを戻した。



 銀河にある監獄惑星は三十とも四十ともいわれているが、その実態は銀河警察でも正確に把握できていない。

 人間の寿命を超える懲役刑を食らった多重犯罪者ばかりが各地からこの惑星に、大気圏突入カプセルによってまるで荷物のように移送されるが、移送されたあとは放置されてしまっていた。送り込まれた受刑者は勝手に生きなければならず、サバイバル生活ができなければ野垂れ死が待っていた。

 いわば島流しの刑であった。原始の生活を余儀なくされた犯罪者たちは、しかし互いに猜疑心が強く協調性もないので、協力して暮らしを向上させる仕組みを創ることなく、果てしない絶望を生きている。そんな見捨てられた受刑者のことなど銀河刑察は忘れてしまうのである。

 が、十年もたつと、なかには知恵のある受刑者が音頭をとって集団生活を営み、小規模ながら町をつくるに至る例も生まれた。惑星外部との通信も、不安定ながらもかろうじて可能とした。そんな細い情報ラインから拾ってきたネタにアルンたちは飛びついたのだった。魔法術師のいる町がある──そこにはまだ知られていない高度な魔法術を操る魔法術師が暮らしているという。LSHロボットを人間にできる魔法術師もいるかもしれない……。

 大気圏に突入した長岡天神丸の高度が下がっていく。だがすさまじい強風に船体があおられる。嵐のなかを飛翔しているようだった。ワシェンゴは巧みに船を動かし姿勢を保つが、高度な操船技術をもってしても激しく揺れた。

「こいつは船が分解しちまうぜ!」

 経験したことのない揺れにゲイスンがたまらずわめいた。ホットジュピターの上層大気圏内に突入したときよりひどいかもしれない。

「ワシェンゴ、任せたぜ。おまえだけが頼りだ」

 アルンも励ます。船内にコーションブザーが鳴り響いている。

 シモンズ・ガンマは自転周期がわずか七時間で、大気は強いコリオリの力のため、上空は常に荒れ狂っていた。宇宙から地表に降りるのも、また重力を振り切って宇宙へ脱出するのも命がけなのであった。開発するにはそれがネックとなり、監獄惑星に選ばれた理由もそこにあった。脱獄困難な牢獄として最適だというわけである。

 ワシェンゴは落ち着いて操舵レバーを操作する。もともと表情豊かなほうではないが、顔色ひとつ変えることなく、冷静に、風向きや風力などを読み取ったセンサーの情報から、的確に操船して翼形を微妙に変化させ船体を安定させようとする。その技術の高さは元から搭載されたワシェンゴの機能を超えた、ずっと長岡天神丸を操船してきて獲得した操船技術だった。まるで暴れ馬のごとく揺れる船体をなだめ押さえつけながら降下を続ける。そして──。

 ワシェンゴの操船により長岡天神丸はようやく乱気流を突破し安定した空を降下しつつあった。目指すは魔法術師が住んでいるという町だ。

 海上を滑空しつつ大陸西端に位置するその町、シモンズ・シュライクへのコースに乗った。天候は快晴。長大で流れの速い海流のために、うねりが激しい海上が眼下に流れる。白波のたつ上空を飛行すること三〇分ほどで、前方の水平線に陸地が現れた。人工衛星や空港管制塔からの支援なしで着陸態勢に入った。町の周囲は緑の耕作地が占めていたが、灌漑が及ばない場所は薄茶色の荒野が広がっていた。長岡天神丸はそこの荒野に向かう。滑走路はまったく整備されていなかった。空港も宇宙港もこの惑星にはないのである。

 まだそこまでのインフラは確保できていないのだ。航空機は存在していたが、定期便を運航できるほどのエネルギーの余裕はなかった。

 砂漠に降下した。逆噴射をして静かにランディング。ギヤが大地をとらえ、緩衝器が沈み込んで衝撃を吸収する。

「着陸完了」

 ワシェンゴは短く告げる。

「完璧だな。お疲れさん!」

 アルンは指令席から勢いよく立ちあがる。久しぶりに惑星重力が体にかかるが、LSHロボットは負荷を感じない。

「今回はやけに気合が入っているな」

 ゲイスンもシートを回して立ち上がる。いつもよりテンションの高いアルンの様子に笑みがこぼれる。

「まだ人間になれるとは限らないんだぜ」

 マーヤと出会った惑星ニーヴン・ゼータに降りたときも、人間になれる魔法術師がいるという情報を聞いて気持ちがはやってしまっていた。結果的にはその情報は正しくなかったのだが、空振りをとられたのはそのときだけでなく、もう何度目だろうか。またガセネタかもしれないと疑うゲイスンはアルンのように無邪気にはしゃげない。

「いつも前向きなのが、アルンのいいところではないか」

 宇宙船の航行システムを全停止させたワシェンゴがアルンの肩を持つ。

「そう。おれはいつだって前向きなのさ」

 陽気に言ってアルンは操舵室の後方ドアを開け放った。

「さぁ、全員で行くぜ」


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