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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第7話 無法都市のピノッキオ
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Act 5

「アルーン!」

 リズの叫びが、急加速で去っていくクルマから届くのと、上空の空中車の攻撃が再開されるのがほぼ同時だった。墜落したアルンの空中車が爆発した。

「金塊がぁ!」

 ミコネフが叫んでいる。爆風を受けて転倒した拍子に、デイバッグを取り落としていた。二〇キロもある荷物は、いかなLSHロボットといえど軽々しく持つにやや難渋する。

「ミコネフ、早くしないと撃たれるぞ!」

 アルンは仲間たちが乗るコンパクトカーにたどり着いていた。

 恨めしい顔で上空のマフィアのクルマを見やり、ミコネフはアルンのあとに続いた。

 ふたりが後部座席に飛び込んだのを確認して、ワシェンゴがクルマを出す。

「なんてこと! ここまで来て金塊をあきらめるなんて!」

 汚れた顔や服まで気が回らないほどミコネフは残念でならない。だが、人間相手では反撃することもできず、尻尾を巻いて逃げるしかないのも現実だった。

「ああ、もうちょっとだったのにぃ!」

 地団駄踏むミコネフのとなりにすわるマーヤは小さくなる。

「ごめんなさい。もう少しバレなかったらよかったんですけど……」

「マーヤのせいじゃない、気にするな」

 そう言ったのは、ゲイスンだ。

 アルンはさっきから一言も発しない。

「リズさん、どうなっちゃうんでしょう……?」

 マーヤも一部始終、見ていた。連れ去られてしまったリズは、マフィアによって残る金塊の場所を吐かされるだろう。そしてそのあとは……。

「救けられなかった……」

 アルンはポツリとつぶやいた。

「こんなとき、人間だと悲しい気持ちになるんだろうな……」

「ねぇ、アルン。悲しいことはやっぱり辛いことなの?」

「そうよ」

 アルンではなく、ミコネフが答えた。

「わざわざ大金をはたいて人間になって、辛い目に遭いたいなんて、わたしにしてみればどうかしてるわ。マーヤ、今からでも遅くないわよ、アルンなんかについて人間になろうなんて考えを変えて、わたしといっしょに来ない? 野良ロボットライフをエンジョイしましょうよ」

「わたしは……」

 マーヤは返答に窮した。これまでアルンと旅をしてきていろんな人間に出会ったが、人間であるがゆえに苦悩する姿も見てきた。率直なところ、人間になってメリットばかりあるわけではないとわかって、野良ロボットでいるのとどちらが生きやすいだろうかと何度も検証していた。

「ミコネフ、これをやるよ」

 そこへ、アルンが無垢のインゴットをひとつ差し出した。

「あら、その金塊……」

「ちょっくら懐に入れてたんだ。おまえにはひとつしかやれなくて申し訳ないが、その五百グラムで勘弁してくれ……」

「おい、アルン……!」

 ゲイスンは血相を変えた。

「だいじょうぶだ。おれたちの分もある」

「さすがアルンね。ま、かなり分け前が少ないけど、いいわ、これで納得してあげる」

「もうすぐ宇宙港だぞ」

 離着床にいくつもの宇宙船のシルエットが林立しているのが見えてきた。休むことなく運行される定期便やパーソナルユーズの宇宙船が次々と飛び立ち、着陸する。それは不夜城のごとき光景だった。

「どうやら、追っ手の姿はもうないようだ。逃げ切れたと、安心はできないがな」

 ゲイスンは周囲の警戒を怠らない。

 宇宙港での出国手続きを早々にすませ、アルンたちは長岡天神丸に乗り込む。ミコネフも乗船していたが、宇宙に出るまでであった。そこから先は目的地がちがった。

「さっきの話だけど、マーヤならきっと美形のLSHロボットになれるわよ。アルンも、こんな当てのない旅にマーヤを巻き込んでないで解放してあげなさい」

「おれたちは絶対に人間になってみせるさ」

 アルンの意志は鉄より固い。

「人間に抵抗できないなんて、だめだ。仲間を守るためには、やっぱり人間にならないと」

「アルン……」

 マーヤは、アルンの強い自立心を受けて、ミコネフに向き直る。

「ミコネフさん、わたしはやっぱりアルンについていくわ」

「あら、そう……」

 ミコネフはあっさり引き下がるが、代わりに茶化した。

「人間になってどうするの? アルンと結婚でもする気?」

「え、それは……」

 人間になったあとのことなど考えてもいなかったマーヤだったが、ミコネフの言った意味を吟味する。

「うん、それもいいですね」

「おやおや、アルン、どうする?」

 そこへ、宇宙港管制室からリフトオフの指示が出た。

 アルンはミコネフには答えず、

「さぁ、出発だ。ハーネスをつけとけよ」

 全員が発進体勢に。補助席にすわるミコネフも。

「発進」

 ワシェンゴがエンジン出力を上げると、長岡天神丸は離陸する。重力を振り切る加速を吸収しきれず体がシートに沈み込んだ。

 マーヤは首を少し曲げて、指令席のアルンを見やる。まっすぐ前に向けられた目に見えているのは、どんな希望なのだろうかと想像した。人間になったとき、アルンはその日になにを感じ、なにを思うのだろう。そしてわたしは──。

 長岡天神丸が宇宙に達した。次の目的地に向けて舵を切った。


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