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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第7話 無法都市のピノッキオ
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Act 3

 リズの元オーナーはマフィアの幹部だった。麻薬や武器を売って得た巨額のマネーでもってガーニー市の裏社会で頭角を現したまではよかったが、その過程で敵をつくりすぎてしまった。

 組織を作って権力を握るより早く他人を信用できなくなり、LSHロボットだけを周辺に置き、カネは盗られないよう、電子マネーから金塊に替えてとある場所に分散して保管した。しかし、厳重な警備をしいた甲斐もなく元オーナーは暗殺されてしまった。

 他人を信用しない元オーナーが、LSHロボットの次のオーナーなど決めているわけもなく、所有していたすべてのLSHロボットは野良となった。

 通常、LSHロボットが野良になると、回収機構から委託派遣されてきた回収屋に有無をいわさず回収されてしまうのだが、ここ、ハミルトン・デルタセカンドのようなきわめて治安の悪い惑星に進んで回収に来ようなどという奇特な業者はなかなかおらず、なにかと理由をつけて後回しにされ、結局回収には来なかったりする。そんな状況下で、一体また一体と、リズのかつての〝同僚たち〟は次々と元オーナーの遺産を狙うマフィアの手の者に捕まり、管理を託されていたカネを奪われていった。暴力に直接訴えたやりかたで迫ってきたり、油断させるあの手この手を使って接近してきたり、その手法はさまざまであったが、リズはこれまでその罠を潜り抜けて生き残ってきた。

 アルンがマフィアの息のかかったLSHロボットである、という可能性はない――そうリズは判断した。もしその判断が間違っていて、この状況が巧妙に仕組まれたマフィアの罠だったとしても、もはやすがるものは他にないリズにしてみれば、このまま逃げ隠れしたところで早晩確保されてしまうだろうと半分諦めの境地であったから、それならば、最後にあざ笑われるのを覚悟で飛び込んでしまおうと決意をかためたのだった。

「じゃあ、手筈どおりにな」

 アルンはすでにある程度の算段つけているようだった。

「わかってるわ。任せて」

 服を借り、ウィッグを付け替え、化粧ペイントを施せば、マーヤはもうリズにしか見えなくなった。リズの身代わりとなってマフィアの目を引きつけておく作戦だ。

「安心して金塊の回収に向かってくれ」

 そしてワシェンゴが護衛につく。マーヤの身に危険が迫れば守る役目だ。

「しかし、アルン。ミコネフと二人でだいじょうぶなのかい?」

 ゲイスンもマーヤの護衛に回るが、そうなると、リズについて金塊を回収するアルンに同行するのはミコネフだけになる。気がかりなるのも無理ない。

「今までさんざんカネを持ち逃げされて、なんでまた話に乗っちまうか、おれにはわからん」

「ミコネフの情報協力がなければ、おれたちだけではどうにもならなかった。今回もだ」

「それはそうだが……」

 ゲイスンは強く言い返せずに口ごもる。それでもアルンの理屈で不満が解消されたわけではなかった。

「正当な取り分よ。がっついてはいないわ。配分に差が生じたのも運が悪かっただけだし」

「ミコネフのボディに安くない費用がかかってるのは見ればわかる。今後もかかり続けるだろうよ」

 ゲイスンは、いつまでも大金を浪費するミコネフを暗に批判した。

 だからなのか、アルンがたしかめる。

「何度も訊いているが、人間になる気はないのか?」

 ミコネフは首をかすかに横に振る。

「人間になることに魅力は感じないわ。LSHロボットとして生まれたのだから、LSHロボットのままでいたい」

「そうか……わかった。だが気がかわったらいつでも言ってくれ。力になる」

「ありがとう、と言っておくわ」

「そろそろ行こう」

 ワシェンゴがうながす。アルンはうなずいた。

「そうだな。じゃ、作戦開始だ」



 リズの指示によって、空中車は屋上から飛び立つ。

 まだ夜は明けていない。というか、この季節、ガーニー市は夜が明けない。衛星ハミルトン・デルタセカンドの自転周期は遅く、ガーニー市が主星ハミルトンのほうを向くのは今より二ヶ月後だ。その代わり惑星ハミルトン・デルタの巨体が常に夜空にぼんやりと輝いていた。当然ながら衛星ほしのガーニー市の反対側は現在ずっと昼間の白夜状態である。

 極夜の街を空中車が行く。

「金塊は一カ所ではなく、いくつかの場所に分散して隠されています。ここから一番近いのは、墓地です」

「だれかの遺体といっしょに埋めてあるのね」

 おぞましい話でもミコネフはあっさり言えてしまう。LSHロボットに、なにかを忌避する感覚はない。

「なるほど、墓ならだれかに掘り起こされる心配もないしな」

 アルンもあくまで冷静だ。

 金塊は重くかさばるから、持って逃げるには向かない資産だ。それでも人間は古来から黄金きんをありがたがった。どれだけ文明が進み、さまざまな価値が産み出されても、黄金の値打ちは、劣化しないその性質同様、決して損なわれなかった。現在の宇宙時代にあって、さまざまな星に金鉱脈が発見され、多くの黄金が出回るようになってもなおその魅力は下がらなかった。

 墓地についた。幸い、尾行はされていないようだった。街灯のない夜の墓地の敷地内に降下する。ヘッドライトが静かに眠る死者たちを目覚めさせるかのように強烈に墓石を照らす。

 訪れる者もいないその墓地は、都市と同様、荒れていた。死者には用がないとばかりに放置され、敷地には雑草がのびていた。等間隔で並ぶ墓石はどれも風雨に薄汚れ、刻まれた文字も判読しづらくなっていた。それでもまだ墓をつくってもらえるだけマシともいえる。死因のトップが殺人というこの都会まちで、死体は乱雑に扱われる。燃やされたり溶かされたり腐らされたり魚の餌にされたり、人間の尊厳もなくまるでゴミのような扱いであった。

 ここです、とリズが指定しただれのものとも知れない墓の下を、アルンとミコネフはなんの躊躇もなく掘り出した。五十センチほど掘り下げると、人骨に混じって朽ちかけた鞄が現れた。持ち上げると、ズシリと重い手応え。なかを改めると数個のインゴットが紙の封筒に梱包されていた。夜空に浮かぶ青白い惑星ハミルトン・デルタの光を反射して、妖しい輝きを放った。

 ミコネフが満足そうにうなずく横で、アルンがさっさと金塊を封筒に戻す。

「オーケイ、次に行こうか」

 喜びに浸っている暇はない。マーヤが体を張ってマフィアの目を引きつけている間にすべての金塊を手に入れなくてはならない。

 五キロの金塊を抱え、アルンたちはクルマに戻る。

「次はどこだ?」

「寺の仏像の内部なかです。場所は──」

 リズが告げると、アルンは空中車を浮上させる。

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