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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第7話 無法都市のピノッキオ
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Act 2

 ホバリングしている空中車から下ろされたワイヤーがウインチで巻き取られていく。そのワイヤーの先端には二体のLSHロボット。一方は追跡者から逃げていた女性型、そしてもう一方は――アルンであった。

 ふたりして無人の四人乗りの空中車に乗り込む。

「どこへ行きたい?」

 運転席に収まったアルンがシートベルトを装着して尋ねる。

「どこでもいいです。とりあえず、あいつらが来ないところなら」

 アルンの隣の座席に落ち着き、そう返事をした。

「じゃあ、とりあえずおれが借りた部屋へ行こうか」

 自動運転でそこへ向かうよう、アルンは行き先を入力。

 すい、と音もなく加速する空中車。きらびやかな街を見下ろす低空で、ヘッドライトを怒らせ目的地へと向かう。頭上には大きく、存在感たっぷりのガス惑星が特徴的な縞模様を見せて浮かんでいた。

「どうしてわたしをたすけてくれたんですか?」

「ブライアン社製汎用ロボット、型番HK‐RR4Jエスラシリーズ、ユーザーネームはリズ」

「!」

 あっさり知られてしまっていて、女性型LSHロボットは目を見開く。

 アルンは車載端末を操作し、ネットの情報を表示させる。SNSに上がってあるコメントはリズのものだった。

「おれはアルン。このコメントを見てやって来たのさ」

 SNSはリズがかつて書き込んだものだった。そこには魔法術師の能力について記されてあった。

『ロボットを人間に変える能力を持つ魔法術師がいるが、そこへたどり着くことができない』

 LSHロボットは「物」であり、だれかの所有物であった。したがって人間の持つ権利はなにひとつない。銀行口座の所有や保険の加入、ネットへのアクセス時における個人IDの取得などなど。当然ネット上のさまざまなサービスも受けられない。「個人」ではないからだ。

 しかしここでは可能だった。ハミルトン・デルタセカンドの無法都市では。

 売り買いされる個人IDはさまざまに加工されてばら撒かれる。そういったうちのコピーIDを使って、リズは地下SNSに書き込んでいた。闇ネットではなんでもできた。

 アルンは、そこでリズが魔法術師の情報を集めて回っている痕跡を見つけた。LSHロボットを人間にしてくれる魔法術師がどこにいるのかをつきとめたような痕跡を──。

 と同時に、リズは自らの境遇を訴えていた。

『人間にしてくれる魔法術師のもとへ行きたくても、LSHロボットのままでは難しい』

『オーナーの死去により、野良になったが回収屋には捕まりたくない』

『ロボットの立場では自由がない。どこへも行けない』

 アルンは動いた。これはきっと有用である、と。

 浮き上がるような加速の変化を残し、空中車はビルの屋上に降下する。明かりはなかったが、自動運転のため難なく着地した。接地の際の衝撃も柔らかだ。

「さぁ、着いたぜ。この下におれが借りた部屋がある」

「そこにアルンのオーナーがいるんですか?」

 いや、とアルンは否定する。

「おれは、世間でいうところの野良だ。オーナーはいない」

「でもそれだと部屋を借りるなんてできないはず」

「オーナーがいる、という情報さえあれば直接オーナー自身が対面で書面提出をしなくても通るものさ。とくにガーニー市(このまち)ではね」

「でもそうはいっても──」

 そのオーナー情報は簡単には用意できない。生きている人間でないと不可能なはずだ。犯罪があふれるこの街ではどんな偽物でも流通する、あるいは流通してはならない本物も。が、それらが野良ロボットのために提供されることはない。あくまで人間ひとの欲求を満たすために存在する。そのことからも、アルンは異質なLSHロボットだと、リズに記憶された。

 屋上から階段で階下へと降りる。壁に7という数字が大きくペイントされているのが薄暗い照明の下でぼんやり発光していて、この建物が七階建てであると知れる。

 五階まで降り、階段から片側が屋外に開けた通路に出た。もう片側には等間隔にドアが並び、集合住宅の様相。

 通路を奥へと進み、とあるドアの前で立ち止まると、「無事につれてきたぜ」と声には出さずダイレクト通信で室内なかに呼びかける。

 ドアが解錠される音が静かな通路にやたらと大きく響いた。

「おかえり。わたしの言ったとおりでしょ?」

 出迎えたのは、一体のLSHロボットだった。人間と見紛うほど、いや、人間以上の美貌を持つ女性型汎用ガイロイドタイプ。服装は地味な黒を貴重としたスーツだが、その体のラインも完璧だ。

 ミコネフであった。

「ああ、見事にビンゴだったよ。さすがミコネフだ、たいしたもんだぜ」

「いらっしゃい、リズ。わたしはミコネフ」

「どうも……」

 部屋に入ると、さらに奥にロボットが三体いた。

 二体は男性型だが、うち一体は屋外作業用とおぼしきフォルムをしていた。あとの一体はメイド用と思えたが、ミコネフと比べると明らかに数段落ちる普及型だ。

「おれはゲイスンだ」

「ワシェンゴである」

「マーヤよ。よろしくね」

「リズです……」

 見知らぬ顔に囲まれて、なにが始まるのかと警戒心が頭をもたげてくる。

「わたしたちは野良ロボットだけど、オーナーの存在をデータ上捏造して様々なことを行っているの。当然、違法だけど、それは今のうちだけね」

 ミコネフが説明する。

「ここの部屋もオーナーをでっち上げて借りた」

 アルンが後ろ手でドアを閉めた。

「そんなことができるの?」

 リズは信じられない。

「できるんだな。で、おまえさんをたすけだした理由だが……」

 アルンはようやっと本題に入った。

「ストレートに言うと、我々はリズの元オーナーの資産が欲しい。もちろん、ただでよこせとは言わない。あんたの言う、LSHロボットを人間にかえてくれる魔法術師のところへ連れていってあげようというわけさ」

デルタセカンド(このほし)から脱出できるの?」

 もしそれが可能ならば、夢のような話だ。宇宙船には人間しか乗れない。LSHロボットは貨物扱いだ。オーナーがいなければLSHロボットは貨物としてさえ取り扱ってもらえない。

「もちろん可能さ。ただそうはいってもロボット(おれたち)の活動には限界がある。だから、おれも人間になりたいのさ。この三人もそうさ。志を同じくする者ってわけだ」

 ゲイスンとワシェンゴはニヤリと笑みを浮かべる。

 リズは目を輝かせた。

「協力するわ。元オーナーの財産はマフィアにかなり奪われたけど、まだ隠されているのがあるの」

「マフィアはそれを狙って、あんたを捕らえようとしてるんだろ?」

「それだけはわたしが管理できていたから。でもこの資金があれば、きっと魔法術師に人間にしてもらえると思ってずっと逃げてた」

「やっとそれを役立てるときがきたってもんだな」

「どこにあるの、その遺産は?」

 ミコネフが身を乗り出す。

「電子マネーではなく、金塊にして、ある場所に隠してあるんです。でもわたしひとりじゃ運びだせない」

「手伝うよ。そしてそのカネで、人間になろう」

 アルンは人間式に手を差し出した。リズはその手を握りしめた。力強い握手に、その意志が込められてはいるかのようだった。


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