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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第6話 海賊たちの讃歌
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Act 5

 船外へ出ると、ガイドアームを伝ってフーロン号の気閘エアロックにたどり着いた。気密服を着用する必要がないアルンは、ひょいひょいと軽業師のように外殻をわたった。

 レバーを引いてハッチを開けると、するりと気閘に入る。

 ハッチを閉じ、マニュアル操作で気閘内に空気を満たす。

 気圧が船内と同じレベルにまで達すると、内扉の脇にグリーンのランプが点灯した。人間ならここで気密服を脱ぐ手間がかかるのだが、アルンはすぐに内扉を開いた。

 そこは通路の突き当たりだった。薄暗い照明の列が通路の先へと続いている。もしアルンが人間だったら、すえたような臭いに鼻にしわをよせていたかもしれなかった。樹脂製の壁面パネルが至る所で剥がれ、構造体を通る色とりどりのケーブルがむき出しになっていた。元はどこかの国の軍用宇宙船らしい。化粧材がどこにも使われていない無骨な内装だ。

 あらかじめ指示された道順で、ものの一分ほどで操舵室にたどり着いた。

「来たぜ」

 ドアを開けると、四人の男たちがアルンを迎える。空調が停止し、空気がよどんでいた。

「ロボットだけあって、早いな」

 助けてもらう立場だというのに、シェ・ワンタオの態度は大きかった。

「アルン、といったっけな。さっそくだが作業にかかってくれ」

「すぐに始めよう」

 アルンはシステム担当に座席を代わってもらう。

「これが正常に戻ったときは、約束どおり、ガイドアームを解放してくれ」

「おう、わかってるって。だが早くしてくれよ。酸素供給がストップしているんだ」

「承知している」

 アルンはシステムにアクセスする。人間と同じようにキーを使用するのは、長岡天神丸のときと同じだ。だがキーの操作は人間のそれとは比較にならないぐらい高速だ。ディスプレイの表示が目にも留まらぬ速さで切り替わっていく。背後でその様子を見ているフーロン号の乗組員たちは、どうやってシステムを復旧していくのか理解するのを早々に放棄して、ただ見守るばかりである。

 ふいに、アルンの指が止まった。シェ・ワンタオを振り返る。

「どうした? なにかトラブルか?」

 シェ・ワンタオは動揺する。作業が完了したようには見えない。開きっぱなしのいくつものウインドウには、テキストデータが表示されたままになっている。それはまるで開腹手術の途中といった感じだ。もしもシステムが復帰できなければ命にかかわる。

「近くに海賊船が潜んでいる。位相空間に隠れてこちらを見張っている」

「なんだと?」

 シェ・ワンタオの頭にンクンダの船影が浮かぶ。

「あいつら、おれたちがくたばったらフーロン号を横取りする気だな」

 旧式とはいえ、まだまだ使える宇宙船を放置しておくなど、あの強欲ンクンダがするわけがない。だからこそ、物理攻撃でフーロン号を破壊しなかったのだろう。

「機雷を一基使っていいか?」

「なにをする気だ?」

「一応、システムの防御は堅牢にしておいた。だが物理攻撃をされたらこの船では勝てる見込みがない」

「言いにくいことをはっきり言ってくれるじゃねぇか」

「機雷にフーロン号のデータをコピーしてダミーに仕立てる。そいつを放出して、敵が気を取られている間に逃げるって寸法だ」

「ううむ……」

 シェ・ワンタオはうなった。戦って勝てる相手でないとすれば、打てる手は限られてくる。

「わかった。やってくれ」

 アルンはうなずいた。すでに用意していたらしく、軽い振動を伴って機雷はすぐに発射された。その軌道をウインドウのひとつで確認し、

「では、システム再起動だ」

 いったん船室の照明が落ち、数々のインジケータランプの点滅とともに、照明が戻る。ディスプレイの表示が初期画面に。エアコンの風がかすかに吹く。

 アルンは席を立つ。

「システムが正常かどうか見てくれ」

 システム担当者が入れ替わるように席につく。慣れた手つきでひとつひとつの項目をたしかめていく。

「兄貴、だいじょうぶですぜ。生命維持システムも航行システムも正常に動いてます」

「さぁ、船長さん」

 シェ・ワンタオに向き直って、アルンは腰に手をやりまっすぐ見つめる。

「おれを拘束して、オーナーになるのかい?」

「わしがそうするのがわかっていて、なぜこの船に来た?」

「海賊のギルドに参加せず、独立を貫く男の自尊心を見てみたかったんでな」

「ふん、そういうことか……」

 シェ・ワンタオは苦笑する。

「わかった。約束どおりガイドアームを解放する」

「それでこそ宇宙の男ってもんだな」

「ロボ公に言われても、うれしくもなんともねぇ」

「じゃあ、おれは仲間のところへ帰るぜ」

「ちょいと待ちな」

 操舵室の後方ドアへ向かうアルンを呼び止めた船長は、手首にはめていた純金製のブレスレットのひとつをはずすと、放り投げる。

「持っていきな。足しになるだろう」

「兄貴!」

 朝令暮改のシェ・ワンタオの態度に驚くクルーに、

「黙ってろ」

「ありがたく受け取るよ」

 ブレスレットをキャッチし、アルンはドアを開けて出て行った。

「どういうことなんですか?」

 ドアが閉じて静かになってから、三人のなかでもっとも船長との付き合いの浅いメカニック担当が不満顔で聞く。普段のシェ・ワンタオの言動を見ているから、余計に腑に落ちない。

 シェ・ワンタオは指令席につくと、

「あいつはおれを信用した。ふてぶてしいところがそっくりだ。やつは、人間になろうとしているのかもしれんな」

「LSHロボットが人間に? そんなばかな」

「いや、それができる魔法術師がいると聞いたことがある……」

「それにしたって――」

 LSHロボットを手に入れられるところだったのに、それをせず、逆に金目のものをわたしてしまった。

「おれはわかるぜ」

 操船手の手下が口を開いた。

「そんな船長だから、ついていくんだ」

「そんなことより、発進の準備を始めろ。やつが移乗したのを確認次第、ガイドアームをはずせ」

「はいよ」

 操船手はコンソールに手をのばす。蘇ったシステムに命令コマンドを入力。停止していたエンジンが息を吹き返した。



 ガイドアームから解放されて、長岡天神丸はフーロン号から離れていく。一定の距離をとるとエンジン出力を上げて、加速。船内のシステムは順調に稼動している。

「ちょいと時間を無駄にしたが、ま、こんなこともあるだろう」

 アルンは気にしていない様子だが、待っていた身としては最悪の可能性も考えていなければならない時間であった。人間なら、心配でたまらなくなっていたろう。

「もし海賊に捕まってしまったら、どうするつもりだったんですか?」

 だからマーヤは質問する。

「手は用意していたさ。でも、もしその手を使っても……ってときは」

 アルンは並んでいる操舵席と機関席にすわるふたりを一瞥し、

「みんなに救けてもらうさ」

 ゲイスンとワシェンゴがニヤリと笑った。

 マーヤは首をかしげる。かれらの間には、だれにも入っていけないような関係があるようだった。それは、どんな困難な状況でも切り抜けてしまえる頼もしさなのかもしれなかった。

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