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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第6話 海賊たちの讃歌
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Act 1

 オークション会場を目指して航行中の長岡天神丸の船内は、照明が落とされ眠っているかのように静まり返っていた。自動航行に不必要なすべての機能が休眠状態で、エネルギーの消費を抑えていたからだ。もちろん乗員である四体のLSHロボットもスリープモードであり、突発的なトラブルでも生じない限り覚醒しない。全員が各自、操舵室の座席につき、なにも意識しない状態で目を閉じていた――のだが……。

 その突発的事態が発生した。

 船内コンピューターがいきなり電子攻撃を受けたのである。

 宇宙には航路というものが存在する。そのコースを通るのが一番の近道であるから、おのずとすべての宇宙船がその航路を通る。広い宇宙空間内で宇宙船同士が接近することは稀であったが、航路が定められている以上、その可能性は皆無ではなかった。他者からのなんらかの干渉はあり得た。

 船内のシステムが緊急覚醒する。照明が灯り、明るくなった操舵室で突然「眠り」を妨げられた四体のLSHロボットだったが、人間のように寝ぼけることなくいっぺんに意識を取り戻した。

「なにごとだ?」

 まずは機関席についているゲイスンが船内システムにアクセスする。警告を読み取り、その原因を探った。

「セキュリティを破ってのハッキングか……。どこのどいつだ?」

「舵がきかない。牽引ビームを照射されているようだ」

 そこへ、操舵席のワシェンゴがさらなるトラブルを報告した。

「まずいな……。こいつは海賊かもしれんぞ」

 アルンがつぶやく。

「海賊!」

 マーヤがつぶらな目を大きく見開いた。そんなものの存在など、初めて聞いた。

「海賊なんているんですか!」

「いるさ。各惑星宙域の警察力の及ばない公宙航路の安全は、各自が責任を持って自衛するのが基本だからな。銀河警察はいるにはいるが、護衛をしてくれるわけじゃない。かれらは海賊の討伐が目的だ」

「アルン、どうする? システムに侵入されて牽引ビームを振り切れない」

 ワシェンゴが落ち着いた声で絶望的状況を告げている。

 不規則な加速が感じられ、明らかに船の制御を奪われているのがわかった。

 アルンはシステムを正常化しようと、あちこちにブロックをかけて回ったり、不穏な動きをするプログラムを削除していく。

 だが船が制御を取り戻す前にガクンと衝撃がきた。シートから投げ出されそうになって、

「つかまったか……」

 アルンの善戦空しく、物理的に拿捕されてしまったようである。

 船外カメラの映像をディスプレイに出してみると、宇宙船から伸びたガイドアームが大きく映っていた。あれに捕捉されてしまっているらしい。接近しすぎて海賊船の全体は見えない。激しい温度変化によって塗装の劣化した船体の一部のみが確認できるが、それが宇宙船のどの部分かもよくわからない。

「エンジンを噴射して逃れられるか?」

 おそらく無理だろうと予想しつつも、ワシェンゴに聞くアルン。

「やめたほうがいい。拘束された状態でエンジンを噴射すると船体に深刻なダメージを負ってしまう可能性が高い」

 ワシェンゴの身も蓋もない回答に、アルンは肩をすくめた。

「わたしたち、どうなってしまうんですか?」

 マーヤは先行きが想像できない。

「海賊の目的は主に金品と情報だ。だから輸送船が襲われることが多い。こんな小型の巡洋船なら、人質目的だろうな。おそらく金持ちが乗っていると踏んだんだろう」

「冷静に分析している場合じゃないぜ、アルン」

 さすがにゲイスンも落ち着いている場合ではなかった。

「どうするんだい? せっかく大金をチャージしたマネーカードを持って行かれでもしたら、おれたちの夢は遠くなっちまう」

「我らは人間に危害を加えられない。攻撃されたら防御はするが限度がある」

 ワシェンゴが指摘するまでもなく、それがLSHロボットのひとつの大きなハンデだった。人間より優れたところがあっても、人間と対等ではない。機械マシンにすぎないLSHロボットは人間のために働く道具にすぎないから。だからこそ、アルンたちは人間になることにこだわるのだ。

「ともかく、あちらがどうでるかだな……」

「あ、通信が入ってます。オープンにしますか?」

 マーヤが尋ねた。長岡天神丸を捕獲した海賊船からだろう。

「メインディスプレイに出してくれ。おれが出る」

 アルンは立ち上がった。

 マーヤが操作すると、操舵室正面の一番大きなメインディスプレイに映像が現れた。眼光の鋭い、四十代と思しき男の脂ぎった顔である。体にぴったりとフィットした黒い服を通して太った胸元が分かった。

「わしはフーロン号の船長、シェ・ワンタオだ。貴船を拘束した。抵抗は無駄だ。おとなしく投降しろ」

 やはり海賊であった。たしかめるまでもない。最初の一言でそれとわかった。わかりやすいほどだ。おそらく、その言動は計算の上でのことなのだろうが――。

「……なんだ、おまえら、ロボットか。責任者を出せ」

 通信用カメラで長岡天神丸の操舵室をざっと見まわし、人間がいないとわかって、シェ・ワンタオと名乗る男は、これでは話にならないとばかりにそう命じた。宇宙船の操舵をLSHロボットに任せることはよくあったから、彼がこの船のどこかに人間が乗っているのだと思っても不思議ではない。

「責任者はこのおれだ」

 だからアルンがそう言っても、理解するのにしばしかかった。

「なんだと? この船には人間は乗っていないというのか? 責任者がLSHロボット?」

 目をむいて驚いていた。当然だろう。たとえオーナーが乗船しておらず、LSHロボットだけで恒星間宇宙船を動かしてどこかへ行くにしても、LSHロボットが責任者とはならない。あくまでオーナーの代行で船を動かしているからだ。オーナーの証明書がなければ、どこの入国管理局もLSHロボットだけでは入国させてくれない。LSHロボットは人間の持ち物であり、持ち物だけが移動する、というのは、荷物でない限りありえない。

「おまえら野良ロボットか──。野良ロボットが宇宙船でどこへ行くつもりか知らんが、よく操船できたもんだな。船籍はどうなってるんだ? まぁ、いい。どうせまともな宇宙船ふねじゃなさそうだ」

「それはそうと、用はなんだ?」

 辛抱強く相手の出方を観察していたアルンは聞いた。

「LSHロボットのくせに偉そうな口をたたくやつだ」

 シェ・ワンタオは無精ひげを生やした口元をゆがめて冷酷そうにニヤリとすると、一口息を吸った。

「よおし、今からわしがおまえら全員のオーナーになってやる」


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