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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第5話 神の棲まわぬ惑星
39/61

Act 8

「ワシェンゴ、マーヤ、今回はご苦労だったな。おかげで首尾良く彫像が手に入ったぜ」

 アルンは、彫像に取り付けられた豆粒ほどの強力磁石を、磁気遮断手袋をはめた手でひとつひとつ丁寧に剥がしていく。

「ワシェンゴが天井の窓を開けてくださったから彫像を外に出せたんです」

「マーヤがうまく誘導機能をハッキングしてくれたからな」

 ワシェンゴはゲイスンに代わって操舵席につく。ゲイスンは機関席に移動。

「どっちも見事だったよ」

 アルンは磁石をすべて剥がし終わる。磁気遮断袋に入れて、口を固く縛った。

「おれは、Z0G‐KKBが来てると知って、ヒヤヒヤものだったがな」

 ゲイスンは長岡天神丸の機関の具合を素早くチェックする。異常なし。

 彫像は、見れば見るほど素晴らしい細工であった。名工マルカムが生み出した一品で、闇オークションにかければ五十万MQRはくだらないだろうとアルンは期待した。

 祭壇内の金庫にしまわれている彫像を持ち出すには、二十五日に一度の「神の奇跡」の機会しかないと思った。神の奇跡など存在しない。彫像が宙を漂えるのは、取り付けられた磁石を、礼拝堂内の誘導装置で操っているにすぎない。礼拝堂内を薄暗くして、誘導しているのを見えづらくしていたから、信者たちには気づかれなかったというカラクリだ。

 誘導装置はハイマンが操作していたが、それをマーヤにハッキングしてもらった。あとは天井のステンドグラスの窓を開けておいて、闇にまぎれて外へと出す。屋根の上で待ち構えていたアルンはまんまと彫像を確保した。

「でも、彫像はしゃべっていましたよね。受け答えしていたし。あれはどうなっているんでしょう。まさかホントに神の意思が宿っているわけじゃないですよね」

 サブ席についたマーヤが疑問を口にした。彫像には発生装置はつけられてはいなかった。

「あれはハイマンの腹話術さ。だからこそ神らしく振る舞えた。ワシェンゴは気づいていたろ?」

「無論である」

「そうだったんですか………」

 マーヤは素直に感心する。でも……と同時に疑問が残っている。

「そんなトリックなら、気づいた人もいそうですけど」

人間ひとは信じたいものしか信じない」

 ワシェンゴがそれに答えた。

「神の奇跡があると信じているから、どんな仕掛けがあっても奇跡だと信じてしまうのだ。それが人間というものだ」

「そうなんですか……。わたしも人間になったら、そうなるのかな?」

「人によるだろう。常に冷静な判断力を持っていれば簡単にはだまされない」

「でもそれだけ信心深いなら、御神体がなくなってしまって、スフィアのみなさんはさぞかしがっかりされてるんじゃないでしょうか……」

 彫像をしっかりと両手で抱え、アルンがマーヤを振り向く。

「神様を信じるのに、御神体なんか必要かい? 心から神を信じているなら、あんなまやかしに動揺したりするもんか。逆に目が覚めるかもしれないな、自分たちはハイマンにだまされていたって」

「教祖さまはがっかりしているだろうよ」

 ゲイスンのその指摘はもっともだろう。汚い稼ぎで私腹を肥やしていたと露見すればただではすまないから、警察へ訴え出たりはするまい。Z0G‐KKBにも適当な理由をつけてコトを表面化しないよう求めるかもしれない。しかしいずれにせよ、この件に関してZ0G‐KKBと当事者のハイマン以外の第三者からの追跡はないとみた。そしてハイマンは追ってはこないだろう。



「御神体はどこへ消えてしまったんだ?」

 信者の青年がつぶやく。

 礼拝堂のなかでは、いつもとは違う奇跡の様子に戸惑う声がそこかしこであがっていた。

 そこへハイマンが戻ってきた。いつもと変わらぬすべてを許容する優しい笑みを浮かべて。

「信者のみなさん、今日は素晴らしき奇跡を神はお見せくださった。神は常に我らを正しくお導きになります。なにも心配することはないのです。さぁ、お祈りをしましょう」

 ハイマンの言葉で落ち着きを取り戻した信者たちは、床にかしずくと両手を合わせる。青年も安心したような表情で。

 それを見渡すハイマンの瞳は、しかし慈悲深さとはほど遠い、怒りの炎が燃えているようであった。


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