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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第5話 神の棲まわぬ惑星
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Act 7

 Z0G‐KKBは礼拝堂内を上から見下ろせる張り出しにいた。窓のカーテンを開け閉めしたり、照明器具を取り替えたりするために使用する場所だ。

 暗がりで下からは見えにくいその場所で、Z0G‐KKBはじっと観察する。

 ハイマンの呼び出しで、ワシェンゴたちが祭壇の前まで進み出てきた。アルンの姿はどこにもない。どこかに隠れているのかもしれないと、うかつに出て行くことは自重した。一網打尽にできるチャンスなのだ。もちろん、ワシェンゴだけでも回収できれば御の字といえる。

 このお祈りのあと、信者たちが寝静まって、邪魔をされないとなってから回収だ。アルンがそのときに現れたなら好都合というものだが、そう思いどおりにはならないだろうという気もした。

 ともあれ、お祈りの儀式というのを見守ろう、そして神の奇跡がどんなものかを見届けよう、と思い、祭壇に注目する。

 ハイマンが改めて新たな入信者を紹介している。

「奇跡の日にやってきたLSHロボット、マーヤとワシェンゴは我がスフィアに新たなる歴史的な一歩を刻みました。LSHロボットであっても神を信じられるということを証明してみせたのです。それは我らの信じる神こそがまことの神である証といえましょう」

 あのLSHロボットは「マーヤ」というのか。オーナーである魔法術師の中古屋の親方からは、ロボットの型番さえ聞けなかったところをみると、マーヤという名は、後から付けられたのだろう、とZ0G‐KKBは推測する。アルンが名付けたのかもしれない。

 ハイマンがワシェンゴたちの紹介を終えると、引き続きお祈りの儀式が始まる。神を称える祝詞が読み上げるように唱えられ、信者たちがその場にひざまずき両手を合わせる。パイプオルガンの演奏が始まった。その音が礼拝堂内に響き渡る。讃美歌のような荘厳かつ美しい調べであった。

 礼拝堂内の照明がさらに薄暗く調光され、パイプオルガンの演奏が徐々にアップテンポになる。腹に響くような重低音と耳に残る高音が追いつ抜かれつしているような。

 すると、二人の信者が祭壇に歩み寄り、鍵を外した祭壇を両側から引っぱった。祭壇は中央で分離し、内部に安置された彫像が露わになった。名工マルカムの手による神獣は四本の脚を大きく開き、まるで生きているかのような躍動感をまとっていた。価値ある美術品だけがもつ、本物のオーラ。神の意思が宿っている、とハイマンは言ったが、そう言われてもおかしくはない。

 いよいよ奇跡が始まるのかと注目していると、曲の途中でいきなりパイプオルガンの演奏が止まった。殷々とした残響がすっと引いて静寂が戻った。

 その直後、彫像が宙に浮き上がった。薄暗闇のなか、彫像は音もなく信者たちの頭上へと至る。

 さらに、

「我が敬虔なる信者たちよ――」

 彫像がしゃべった。その声は人間の声とはちがい、かといって電気的につくられたものともちがったように思えた。

「きょうここに、新たなロボットの信者を迎えたのは喜ばしいことである。神を信じよ、されば救いの手は差し伸べられるであろう」

 奇跡が起きているのか――。

 Z0G‐KKBは目の前で起きている現象を理性的に整理する。美術品である彫像が宙を飛び、神の言葉を話す。神の奇跡を前に、信者たちがひれ伏す。おお、おお、と言葉にならない声を発して。

 なにか仕掛けがあるのだろう、と彫像を見つめるがわからない。

 そうやって見つめていると、彫像は礼拝堂の上へ上へと昇っていった。そして――、消滅した。

 神の奇跡などあり得ない、と思っていたZ0G‐KKBだったが、信者たちの歓声がその考えを揺るがせた。

 神などいない、奇跡など……。

「おい、回収ロボット!」

 背後から呼びかけられた。声はハイマンのものだったが、これまでの落ち着いた、慈愛に満ち安心感を与える教祖さまの声音とはちがう、切迫した感情をむき出しにした動物的な口調だった。そのギャップが大きすぎ、振り返ったZ0G‐KKBは別人ではないかと我が目を疑った。

「御神体がぁ!」

 ハイマンはあわてふためいている。その態度から、なにが起きたのか察した。

「盗まれたんですか? あれは神の奇跡ではなく?」

「奇跡なんぞであるものか!」

「いや、しかし……」

 御神体は消滅した。それで盗まれたと判断したということは……と状況を整理しようとして思い出した。

 ワシェンゴとマーヤだ。とっさに礼拝堂を見下ろすが、どこに行ったかわからない。

「しまった!」

 Z0G‐KKBは駆け出す。アルンがすでにここへ来ていたにちがいない。意外性をつき、多くの目がある公衆の面前で盗むなどと、どんなトリックを使ったかはわからないが、してやられた。

 階段を下りたところは礼拝堂の奥のほうで、外へ出るには大勢の信者たちの間を抜けていく必要があった。

 建物の外に出たのが遅れた。

「おお、いつの間に!」

 二百メートルほど先の畑のなかに長岡天神丸が着陸していた。七〇メートルの小型宇宙船だからこそ、こんな窪地に降下できたのだ。だが着陸時のエンジン音が聞こえなかった……そうか、あのパイプオルガンの演奏中に。

 ワシェンゴとマーヤを、彫像をもつアルンが出迎える。おそらくゲイスンが操舵席についており、すぐにでも発進できるようスタンバっていることだろう。

 Z0G‐KKBは電子パルス銃を取り出す。狙いをつけるのと、アルンたちが宇宙船に乗り込むのが同時だった。勝利の笑みをZ0G‐KKBに向けるアルンに向けてトリガーを引いたが、宇宙船のドアのほうが先に閉じてしまう。

 長岡天神丸のエンジンが咆哮する。元々軍用だった高速巡洋宇宙船は周囲に風を巻き起こしながらすでに上昇を始めている。

「取り逃がしたか……」

 Z0G‐KKBは宇宙船を目で追いつつ、つぶやく。だがその声に悔しさはなく、事実を受け止める確認をしただけであった。LSHロボットに心はないから無念に感じることもなく、状況に応じた反応を返すのみだった。


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