Act 6
Z0G‐KKBは礼拝堂の祭壇の前にいた。御神体を収めた金庫を兼ねるこの祭壇を狙ってワシェンゴが現れるのを、網を張って待っていた。盗むなら信者のいない時間帯だ。
教祖ハイマンの言葉が気になっていた。今や信者となってしまったワシェンゴを回収するとなると、信者たちが妨害するかもしれない。大勢の人間の抵抗を受けては、回収業務ができなくなる恐れもあった。警察でもなんでもないZ0G‐KKBには、強行に回収業務をできるほどの権限はない。
祭壇の陰に身を潜め、Z0G‐KKBはどうやってこの金庫を破るのだろうかと、アルンの考えを推測した。金庫を破壊すれば、なかの彫像まで破損する恐れもあり、しかも大きな音もするだろうから現実的とはいえない。鍵を入手するにはハイマンから奪うしかないが、肌身放さず持っているわけだからハイマンが眠っているときぐらいしか機会はない。だがハイマンとて就寝中の対策ぐらいはしているだろう。ではハイマンを脅して開けさせる? それこそ信者たちが大勢でもってアルンを破壊してしまうかもしれない。まさか地下トンネルを掘って金庫の真下に穴を開けるなどという手間のかかることをやるとは思えない。
そのとき、礼拝堂の照明が落ちた。もともとそれほど明るくはなかったが、その瞬間、闇になった。
しかしZ0G‐KKBには赤外線アイが備わっていた。闇でも見えたが、光源のある状態と比べて解像度は悪くなった。その視界を、なにかが横切った。距離は三十メートルほど。一瞬のことでピントが合わない。
だが何者かが礼拝堂に入ったのは認めた。照明を消したということは、その目的は――。
ワシェンゴか、それともアルンか、とにかく今こそやつらを回収する好機だ。
Z0G‐KKBは祭壇の前に躍り出ると、電子パルス銃を抜く。ロボット捕獲用の銃だ。弾丸ではロボットの活動を停止させるのは難しいため、電子的衝撃波でもってコンピューター機器の動きを封じるのだ。
赤外線アイの狭い視界を左右に振って侵入者の姿を求めた。が、いくら待っても目の前にはだれも現れない。
一分が経過した。ふいに明かりが戻った。礼拝堂のなかにはだれもいない。
Z0G‐KKBはまさかと思って祭壇を振り返る。金庫を破られてしまったかと思ったが、開けられた様子はなかった。
「…………」
なんだ、今のは……。
ただの停電?
――いや。
だれかいたのは確かだ。ほんのチラッとであるが、間違いなく何者かが礼拝堂に入っていたのを赤外線アイが捉えている。Z0G‐KKBはその画像を再生し分析するも画像が荒くはっきりしない。
それに彫像も無事のようだ。あれはいったい……。
Z0G‐KKBはこの現象を検証する。ともかく、アルンがここの彫像を奪おうとしているのは揺るがない。しかもその瞬間は近い。
アルン、ゲイスン、ワシェンゴの三体を一気に回収する機会が迫っている――と、そうと強く思った。
充電が完了した──と、ワシェンゴが食堂に戻ってきた。
マーヤが信者たちに囲まれている。よほどLSHロボットが珍しいと見える。
「マーヤが信者たちを引きつけてくれたおかげで準備はできた」
だれにも聞かれないよう、ワシェンゴはマーヤにしゃべらずダイレクト通信で言った。
「お疲れさまでした」
マーヤの返答。
「みなさん、お祈りの時間です。礼拝堂に集まってください」
そのとき、放送が入った。透明なガラスのように涼やかな女性の声だ。それを合図に食堂で談笑していた信者たちがごそごそと移動する。
マーヤとワシェンゴも人の流れに乗って食堂を出る。ここに来たときに最初に通された礼拝堂にたどり着いた。
すっかり日が沈み、礼拝堂には明かりがついていたが、やや薄暗い。礼拝堂に入った途端、無口になる信者たち。
奥の祭壇の前に、教祖ハイマンが横からもったいぶった歩き方で現れた。
「今日は、二十五日に一度の神の奇跡の日です。神のお言葉を聞けるありがたきこの日に、入信を決意した二名のLSHロボットがいました。マーヤ、ワシェンゴ、前へ」
ハイマンのよく通る声が礼拝堂に響きわたる。その声に導かれるように、二体のロボットは進み出た。




