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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第5話 神の棲まわぬ惑星
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Act 5

 休憩時間は畑仕事の手を休めて、各自思い思いの場所で地面に腰を下ろす。

「LSHロボットが入信するなんてなぁ……」

 初対面のときは疑っていた青年だったが、教祖の「入信を認める」のひとことで態度が変わった。

「数日前にもLSHロボットが来たんだが、そいつとちがって教祖さまが入信をお認めになったとなりゃ、話はべつだ」

「数日前にもLSHロボットが……とな?」

 ワシェンゴが聞いた。

 おうよ、と青年は応じた。

「なんでも回収屋だって話だ。御神体を狙う犯罪ロボットが来るから警備させてくれって。警察から委託でもされてんのかな。しかしLSHロボットを犯罪に使うなんてどうかしてる。すぐに足がつくのに」

 Z0G‐KKBか――。

 ワシェンゴは嫌な予感がした。もちろん、表情は変えない。

「そのLSHロボットは今どこにいるんですか?」

 マーヤが聞いた。もう二人がここにいることは知られているだろう。泳がせておくのか、ただちに回収に踏み切るか、どういう算段でいるのか気になるところであった。

 だが、さあな、と青年は肩をすくめる。

「本当に御神体が狙われてるのかどうか……。教団をかぎまわっているみたいで、あいつは鼻持ちならねぇ。今夜のお祈りは、二十五日に一度の神の奇跡が現れる日だ。これを見れば、御神体が盗まれるなんて思えなくなるだろうよ」

「神の奇跡が見られるなんて、いまからわくわくします」

 マーヤは青年に同調しているフリをする。

「そうだろうな。神はおれたちの祈りに応えてくださるのさ。泥棒なんか来ても神の奇跡によってひどい目に遭うだろう」

 青年は晴れ渡った青空のように上機嫌だった。



 畑でLSHロボットが働いているぞ、という噂が立って、ほかのところにいた信者たちが物珍しげに見に来る。世間一般ではごく普通の光景だったが、この里には他にLSHロボットはおらず、マーヤとワシェンゴは注目の的であった。

 クライトン・ベータの早い夕方が訪れ、お腹をすかせた信者たちが施設の食堂へと集まる。全員が同じメニューの夕食である。LSHロボットに食事の必要はなかったが、あの青年に誘われて食堂に入った。

 食堂には、この里で生活する出家信者全員がそろっていた。百五十人はいるだろうか。各自、夕食を乗せたトレーをもらい、長いテーブルの端から順にすわっていく。

 必要ないのでトレーはもらわなかったが、マーヤとワシェンゴも席についた。

 全員がテーブルについて用意が整うと、日直らしき女性信者が前に出てきて両手を合わせる。

「今日一日の安定と糧を我らにお与えくださった神に感謝いたします」

 そして日直が神を称える祝詞を唱えると、信者たちもそれにならう。ひとしきりの儀式がすんで、いっせいに食事が始まった。茹でた芋に根菜の入ったスープ、あとは堅そうなパンがひとつ。質素なメニューだ。量も少ない。外の畑を見るにつけ、食料は自給自足でまかなっているのかもしれなかったが、全体的にカロリーが足りない。それでも信者たちは文句ひとつ言わず、ありがたそうに食べている。食事は静かで修行僧のようであった。

 だが食事が終わると雑談が始まり、食堂は急に賑やかになった。

 マーヤとワシェンゴは大人気でたちまち人だかりができた。LSHロボットが入信するなぞこれまでになく、どんな気持ちなのかと聞きたがった。まだ懐疑的で近づかない者もいたが、おおむね好意的だった。

「食事のあとは、お祈りの時間までは自由だ。ここは一日が短くて、ほんの一時間ほどしかないがな」

 例の青年はすっかりマーヤとワシェンゴの世話係を引き受けていた。いちいち説明してくれる。

「ここにいるのはみんな家族みたいなもんだ。世俗から離れて欲を棄てると孤独からも解放される。これこそ神のご加護のもとに与えられる平穏で静かな人生さ」

「自由時間には、みなさんなにをされているんですか?」

 マーヤが聞く。

「雑談してる人が多いな。ここではネットに接続できないからな。ネットがないからこそ安心して暮らせるのさ。世俗は人間の思考速度より早く動いていくから精神が参ってしまう。ネットより神を信じ、神のもとで一体になることで未来永劫の幸福を得られるんだ」

 おれはな、と青年は語った。

「ここに来る前は遊び人だったんだ。バクチと酒に明け暮れて仕事も長続きしねぇ。仲間とつるんでバカなことばかりやってた。典型的な不良ってやつだな。おれもまだお子ちゃまで、なにもかもわかっちゃいなかった」

 自嘲の笑みを浮かべる。

「仲間に裏切られて打ちひしがれていたおれを救ってくれたのがスフィアだったんだ。ここには明日の不安もない。他者を蹴落とす必要もない。ここには真の平穏があるんだ」

 青年の話をマーヤといっしょに聞きながら、ワシェンゴはあの家族のことを思った。中古市場で拾ってくれた温かい一家。かれらはここへ来れば、幸せになったろうか――。

 しかしアルンからはべつの事実も聞いていた。

 スフィアの教祖ハイマンはかなりの資産をもっているらしい。信者には質素を押しつけ、裏では手広く儲けているらしい。信者に作らせているレーションには、健康食品と謳っているが、麻薬指定されてもおかしくない植物の抽出物が入っていて、それで売り上げをのばしているようなのだ。

 新興宗教という衣をかさに怪しげな活動に手を染める教祖は昔から絶えることなくいるものだな、とアルンは、彫像もそうやって手に入れたのだろうと言った。

 教祖の裏の顔を知ったら信者たちはどう思うだろう? ワシェンゴは陽気な青年が哀れに感じる。

「ちょっと充電してきてもよいか?」

 ワシェンゴは言った。

「ここへ来るまでにバッテリーを消耗してしまっていたので」

 ああ、それならエネルギー管理室に行けばいいよ、と青年は言ってくれた。

 マーヤを残し、ワシェンゴは食堂を出る、信者たちはマーヤに集まっていて、ワシェンゴには目もくれない。


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