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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第5話 神の棲まわぬ惑星
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Act 4

 施設のあちこちを見学させてもらった。

 レーションの加工場や食堂や信者たちの居住スペース、太陽電池で発電した電気を蓄電したりするエネルギー管理室などもあった。教祖さまのお部屋以外はどこだろうと気軽に立ち入れる、と案内してくれた女性信者は言った。

「教祖さまのお部屋にはなにがあるんですか?」

 とマーヤは聞いた。

「それはわかりません。掃除も教祖さまがなさるので、だれも入ったことがないのです」

「そうですか……」

 ひとしきり施設内を回り、そして今、畑に出ていた。信者たちの食料はほぼ自給されているという。この里で生産できないものは買わなければならないので、現金収入を得るために加工食品も作っている、という。

 マーヤもワシェンゴも、信者たちに教えてもらいながら初めての農作業に従事していた。水をやり、雑草をかりとり、実の具合をチェックする。

 メイド用ロボットのマーヤは指先を使う作業は苦もなくできたが、元は土木作業用として作られたワシェンゴは、パワーはあるが繊細さはなく、もっぱら新たな畑を耕していた。土を掘り返すことなら得意であった。

 ワシェンゴは採石場で働いていた。大気も水もない、岩だらけの小惑星だ。ワシェンゴと同じ型のロボットが大量に投入され、来る日も来る日も石を掘っていた。ワシェンゴのオーナーである企業はここで採れる石でもって多大な利益をあげていた。むろんただの石ではない。近郊の惑星で高級建築資材として人気があり、そのブームに乗って爆発的な需要があったのである。

 だが好景気はいつまでも続かなかった。建設ラッシュは予想以上に早く去り、多大な投資を回収できなくなったオーナー企業の経営状態はいっきに悪化した。懸命な業務改善もむなしく倒産、企業は解散し、LSHロボットたちはあちこちの中古市場にたたき売られた。

 場末の中古機械屋で、ワシェンゴはただ同然の値段で新たなオーナーに買われた。家族経営の土建屋で、決して豊かではなかったが、これまでの無人小惑星では皆無であった人間との密な接触に、ワシェンゴは衝撃を受けた。人間の家族、というものをここで初めて知った。父母と四人の子供たちの、親と子の絆や愛情は、そんなものと無縁だったワシェンゴの電子脳に、人間とはいかなるものかを刷り込ませた。ワシェンゴ、という名も八歳になる三男がつけてくれた。

 仕事は、父親と長男とともに現場に出て行う。人間との共同作業だ。無人小惑星の過酷な採石場ではたびたび事故が起き、仲間の破損や故障したLSHロボットがスクラップ処理場へと送られるというのを目にしてきたが、ここではそんな消耗品のような扱いを受けることなく、じゅうぶんではないにしろメンテナンスをしてくれた。平和な暮らしだった。

 ところがある日、事故が起きる。建物の解体作業をしているときだった。

 そこは老朽化したアパートで、いまにも倒壊してしまいそうな物件だった。

 ワシェンゴはアパートの内部に入り、持ち前のパワーで壁を壊していた。父子二人はバラバラにした廃材を外に運び出していた。作業は順調に進み、アパートは端からその形を失っていった。この調子だと二日とかからず解体を終えてしまいそうであった。作業する父子に笑顔が浮かぶ。ところが事故が唐突に起きた。壁が崩れ落ち、まだ残っていた梁が父子を直撃したのである。それをきっかけに倒壊は一気にアパート全体に広がり、ワシェンゴともども大量の瓦礫に埋まってしまった。

 LSHロボットであるワシェンゴは自力で這い出せたが父子は瓦礫の下だ。ワシェンゴは必死に救出したが二人とも命を落としてしまった。

 稼ぎ手を失った一家は土建屋を廃業し、ワシェンゴを手放した。またも中古屋に引き取られたワシェンゴだったが、買い手はいつまでもつかなかった。売れ残ったまま倉庫の片隅で、用途のよくわからないガラクタのような機械部品とともに何年も埃をかぶっていた。気づいたときには中古屋はとうの昔に夜逃げしており、ワシェンゴのオーナーはいなくなっていた。そののち、所有者のいない中古屋倉庫に、軍用宇宙船の特殊パーツを探しにきたアルンと出会ったのだった。人間の家族とともに過ごした記憶をもったまま――。回収機構に回収される寸前であった。


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