Act 3
信者たちの生活は質素で規則正しかった。
早朝、日の出とともに起き、礼拝堂に集まって教祖ハイマンとともに祈りを捧げる。
全員で食事をとり、そのあとは労働である。畑で農作業にあたる者、建物内の加工場で農作物をレーションに加工する者に別れる。製造されたレーションは貴重な現金収入源であった。
仕事を終えての食事の後から二度目のお祈りまでは自由時間。お祈りがすめば、就寝である。
自転周期が十五時間しかないためにこのようなサイクルなのだ。惑星クライトン・ベータでは一日の食事が二回で、それに合わせて人々は暮らし、それは教団内でも同じだ。
Z0G‐KKBは信者たちの生活を観察しながら数日間、アルンの出現を待っていた。
そこへ教祖ハイマンがやってきた。
「回収屋さん、LSHロボットがやってきたようですよ」
「なんですと?」
Z0G‐KKBは奮い立つ。ついに現れたか!
「信者になりたいそうな」
「それは嘘です。LSHロボットに神は必要ない。ここへ潜り込む口実に決まっています」
「神は必要かどうかではなく、存在しています。信じるかどうかなのです。これからそのLSHロボットに会いますが、同席しますか?」
「いえ、当方の目的はアルンたちの回収です。隠れて様子をうかがいます」
「そうですか。たた、わたしとしましては、入信したいと申す者を連れ去られてしまうのは不本意ですな。たとえLSHロボットであっても」
「申し訳ありません。これも職務ですのでご理解ください」
Z0G‐KKBは敬礼する。敬礼の姿勢のまま、立ち去るハイマンの背中を見送った。
作業服の青年の案内で、マーヤとワシェンゴはスフィア本部建物に入る。すでに連絡は入っていて、礼拝堂には教祖ハイマンが待っているはずであった。
まっすぐな廊下を進み、突き当たりのドアを開けると、立派な礼拝堂があった。素っ気ない外観の建物からは想像もできないほど立派な礼拝堂であった。ステンドグラスから差し込む光が、床や壁をさまざまな色に染めている。存在感たっぷりの巨大なパイプオルガンが壁の一画を占めていて、これが飾りではなく本物だとしたら、相当なカネがかかっていそうだと思われた。
一番奥に壮麗な祭壇が設けられ、その手前にひとりの男がいた。背丈は小ぶりだがふくよかな体型で、ゆったりとしたローブをまとった様は包容力のありそうな印象を与えた。建物の玄関に飾ってあった写真の男、教祖ハイマン――。
「教祖さま、入信したいというロボットをつれてまいりました」
ハイマンの前で青年はかしずく。
「ご苦労でした。もどってよいですよ」
「はい」
教祖の前では最敬礼の青年であった。意見ひとつ言うことなく立ち上がり、回れ右して歩み去る。あとは教祖さまがはからうのだ、という態度だ。
「マーヤといいます」
「ワシェンゴと申す」
LSHロボットは名乗る。
「スフィアの代表、ハイマンです。遠いところ、よく来てくださいました」
ハイマンは優しく微笑む。
「ちょうど良い。今日のお祈りでは二十五日に一度の神の声を聞く儀式をとり行います。神の奇跡を垣間見られるいい機会です」
「その儀式にわたしたちも参加できるのですか」
「もちろんです。LSHロボットであっても救われるでしょう」
「ああ、なんと慈悲深いのでしょう」
マーヤは心底感動した様子でその場にひざまずく。両手をあわせ、
「LSHロボットであるわたしたちさえ救済くださるなんて。ここへ来てよかった。真の神はこの惑星にいらしたのですね」
大袈裟すぎるほどの演技に、ワシェンゴは内心鼻白む。だがそんな気持ちはおくびにも出さず、マーヤ同様かしずいた。
「教祖さま、感謝します」
ハイマンとLSHロボット二体のやりとりを物陰からじっと見つめる目があった。
もちろん、回収業者の実行員、Z0G‐KKBだ。
――とんだ三文芝居だ。
と、回収屋は感じた。LSHロボットが、しかもあのワシェンゴが宗教に帰依するなどありえない。――そう思った。
しかしそう決めつけられない要素もあって、Z0G‐KKBは混乱する。
ワシェンゴといっしょにいるロボットだ。あれは、おそらく惑星ニーヴン・ゼータのスラム街の魔法術師のもとにいたメイド用LSHロボットではないのか。魔法術師は言い渋っていたが、下働きのメイドロボットを連れ去られてしまったと、あとになってわかった。型番は知らないが、その確率は高いと思われた。
そのロボットとワシェンゴがいっしょにいる――。これはどう考えられるだろう。
ワシェンゴの過去は、すでに調べがついていて情報があった。その波乱の経緯から総合的に判断して宗教に行き着いた可能性はないだろうか。人間になることをあきらめて。
Z0G‐KKBは、「LSHロボットを人間に変える」という魔法術師の存在に懐疑的であった。これまでそんな魔法術を使える術師の存在は確認されていなかったし、そんな強力な魔法術など実現不可能だろうと、他の魔法術師の魔法術と比較して判断できた。魔法術というのは物理現象の一形態である、という認識が一般的であり、LSHロボットを人間にするなどというのは、絵本のなかの夢物語にすぎない。多くの人間はそう思っていたし、Z0G‐KKBもその考え方に首肯していた。
ワシェンゴもついに現実を直視し、人間になるのをあきらめたのではないか。そのきっかけが、あのメイドロボットだ──そうも考えられた。アルンと袂を分かち、ここへやってきた。望みが絶たれ、紆余曲折を経て宗教に流れてきた――。そういうこともあり得るのではないか。
だが、もしそうであっても回収はするつもりだった。AIの予測どおりに後からアルンが現れたのなら望むところであるわけだし、しばらくは様子を見ていることにした。




