Act 7
ストルガツキー星系・第五惑星、ストルガツキー・イプシロン。田園地帯が広がる南半球の大陸の東部海岸に位置するマクシム地方。
主星ストルガツキーが傾き、大地を朱く染め上げる。海風が潮の香を運んでいた。
津波が来ても被害を受けないよう小高い丘の上に作られた二階建ての建物に続く坂道を、ミコネフの運転するオートバイが登っていた。
建物の二階窓からそれを見つけた少女が階段を駆け下りる。
「みんな! ミコネフが来たよ!」
叫びながら玄関をでる。そのあとから、その知らせを聞いた子供たちが何人も飛び出してきた。
やがてオートバイが建物の玄関前に到着すると、子供たちは嬉々として集まってくる。ミコネフの肩より低い頭でとり囲まれた。
「おかえり、ミコネフ」「ミコネフ、あそぼ」「またお話きかせて」「おみやげ、なに?」
「ただいま。みんな元気そうね。院長さんはいるかしら?」
笑顔をふりまきながら問うと、
「いるよ!」
少年のひとりが答えた。
「じゃあ、さきにあいさつしなきゃね」
大きなリュックサックを背負ったミコネフは「ボリス小児病院」と表札のかかる玄関から建物に入っていった。
銀河のあちこちから転院してきた小児患者がここには大勢いた。地元の惑星はおろか、銀河のどこでも治療の難しい疾病にかかった子供たち専門の施設だった。一見病気には見えなくとも深刻な症状に悩まされていたりする幼児から、動けるだけマシというほど重い病状のローティーンまで、さまざまな子供たちが懸命に病魔と戦っていた。
部屋でミコネフを迎えた老齢の女性院長は、差し出されたマネーカードを受け取り、
「いつも本当にありがとうございます」
と、ミコネフの手を両手で堅く握りしめた。
「また予算が削られたんですって?」
ミコネフが指摘すると、院長はうつむき、
「はい、そうなんです。内戦の始まった惑星がいくつかあって、その対応に予算がまわされたんです」
各国の援助によって運営しているため、予算の配分が命綱だった。
「だからあなたからの寄付は本当にありがたいの」
「お役に立ててなによりです。子供たちへのおみやげも買ってきました」
背中からおろした大きなリュックサックをポンポンとたたく。
「それを期待している子もいるわ。ここはいいから、早く子供たちのところへ行って。みんな待ってるわ」
「そうね」
ドアの向こうに気配がする。部屋をでると、待ちきれない子供たちがミコネフをせきたてる。
どんなに医学が進んでも、人類の活動範囲が新たな病を運んできた。未知の惑星には未知のウイルスが潜み、人類との戦いは果てしなく続く。そんななかで一番に害を被るのは決まって抵抗力のない子供たちであった。
命の大切さを知るかれらは大人になっても決して愚かな内戦など起こさないだろうとミコネフは思う。それをたしかめたくてミコネフはずっとこの活動を続けている。アルンの誘いに乗ってもし人間になってしまったら、いつかは死んで支援が途絶えてしまう──いや、そうじゃない。
たぶん彼女は、純粋にいつまでも子供たちの笑顔と接したいのかもしれない。
「ねぇ、ミコネフ、また遠い国のお話してよ」
最初にミコネフを見つけて駆けつけてきた少女がリクエストする。
「わかったわ。じゃあ、プレールームに行って、お話しましょ」
ミコネフは子供たちを引き連れながら、廊下を歩く。
「今日のお話は……そうねぇ……うん、そうだわ、『魔法で大損した男』の話をしましょうか」




