Act 6
「どうもお疲れさまでした」
アルンはしゃがみこみ、ホセの手に握られていた二枚のマネーカードを簡単に取り上げた。
抵抗もできずにカードをとられたホセは、自分の身になにが起こったのかわからない。訴えるような目で、アルンを見ている。
「魔法術は万能じゃないんだよな」
アルンは砕けた口調で説明する。
「魔法術で使用されるエネルギーはどこかから補充されなければならない。規模の大きな魔法術であればあるほど必要なエネルギーも増大する。今回、あんたが使った魔法術のエネルギーは、あんたの体力で補っている。当分、立ち上がることはできないだろう」
「アルン、なにを親切に説明しているのよ」
背後から声がかかった。涼やかな女の声である。振り向くまでもない、ミコネフだ。
「さ、わたしの預けたカードをちょうだい」
胸元の開いた藤色のスーツを来たミコネフが手を伸ばしている。隙のない、有能な秘書のような雰囲気をかもし出して。
「ああ、そうだったな」
アルンはホセから取り上げたカードのうち、一枚を差し出す。淡桃色にリボンの意匠をあしらったマネーカード。
「今回はきみのおかげで大金を手に入れることができたよ。あの魔法アイテム、どこで探してきたんだ?」
ミコネフは手品師のようにさっと衣服のポケットにカードをしまい、小さく微笑む。
「それは聞かぬが花よ」
完璧な笑顔だった。もともとセクサロイドとして作られたミコネフは、製造年はアルンより古かったが大金をかけてメンテナンスとチューンナップを繰り返し、最新型にも負けない性能と容姿を獲得していた。アルンと共謀してカネを集めても、人間になろうという考えはなかった。ひたすら己自身の価値を高めることを追求する姿勢は一貫していた。その美貌でロベルトに取り入り、彼の行動を把握することができたのだ。そのうえでアルンに〝仕事〟をもちかけた。結果、まんまとロベルトのカネを横取りできたのだが。
「じゃ、わたしはこれで。また会いましょう」
ミコネフはきびすを返す。あっさりとした態度だった。
「ミコネフ」
アルンは呼び止めた。
歩みを止めるミコネフ。
「まだ考えなおす気はないのか?」
その背に問いかける。
数瞬の間があいた。
「ないわよ。いくら魔法術でも人間になれるわけはないし、わたしは夢を追わない現実主義者なの」
背中を向けたまま振り返らずにそう言い残すと、ミコネフは去っていった。
アルンは小さく肩をすくめると、倒れて動けないホセをおいて、仲間の待つ宇宙港へと向かった。
「おかえりなさい」
マーヤが迎えてくれた。
長岡天神丸の操舵室。
「やれやれ、待ちくたびれたぜ」
機関席でふんぞり返るゲイスンが文句を言う。
「おれたちの宇宙船だっていうのに、せまい物置に隠れてなきゃいけないなんてな」
「しょうがねぇじゃん、ホセに気取られないためだったんだから。おれの他にLSHロボットが船に乗っていたら怪しまれる。おかげで六十万MQRは手に入ったんだ、数時間ぐらい辛抱できたろ」
「マネーカードをチェックしよう」
主操縦席のワシェンゴが手をのばす。
「おうよ」
アルンは戦利品を差し出した。
ワシェンゴはそれをリーダーに読み込ませる。額面がディスプレイに表示される。
「なんじゃこれは!」
ゲイスンが悲鳴をあげた。
三十九MQR。なんど見ても、それしか入ってなかった。
「くそ、ミコネフにほとんどもってかれちまった!」
ゲイスンは悔しさを隠そうともしない。おそらくあの魔法アイテムは、ミコネフのピンク色のカードにチャージするよう設定されていたのだろう。
「なんてこったい、おれたちはあいつにダシに使われたんだ。だいたい今回の話、うますぎると思ったんだ。どうもおれはミコネフを信用できなかったんだ。以前にも獲物をかすめとられたこともあったろう? アルン、いいかげんミコネフと関わるのはやめようぜ」
ゲイスンの悪態は止まらない。
「たった三十九MQR。三十九万じゃなくて。バカにするのもたいがいにしろってんだ」
アルンはなにも弁解せず、もう一枚、マネーカードをワシェンゴにわたした。
「これは?」
「ホセの持っていたカードさ」
「いつのまに……」
ワシェンゴはカードを読みとらせる。一万MQR。
「意外とチャージってたな」
「フン! そんな額、今回の手間賃にもならねぇ……」
ゲイスンは怒りが治まらない。
「なぁ、アルン。今からでもミコネフをふん捕まえてカネをもらおうぜ。まだフロリクス9のどこかにいるはずだ」
「この広い宇宙基地のどこを捜す気だよ。それよりもたもたしてると、魔法術アイテムの効果が消滅して騒ぎになる。警察が動く前にここからずらかろう」
アルンは操舵室から出て行こうとする。
「ちょっと休憩してくる。宇宙船の出発準備をしといてくれ」
「けっ、もうやってるぜ」
ゲイスンは機関の発進プロセスを順番にすすめていた。毒づきながらも手は動いていた。
「出航許可がおり次第、アンドックしておくぞ、アルン」
ワシェンゴも言った。
「充電と冷却をじゅうぶんにして、次に備えよ」
「ああ、あとはまかせた」
素直にうなずくアルン。
「ねぇ、アルン──」
ぴょんとサブ席から飛び降りて、マーヤが駆け寄った。
「マネーカードの残高が少ないってこと、アルンは知ってたんじゃないの?」
振り向いたアルンはかぶりを振り、
「そんなことはないさ。まさかこんな見事にはめられるとはな」
「そう……。ミコネフが持ち逃げしたおカネが全部、改造費になるわけないって、アルンなら知ってると思ったんだけど……」
「さぁな。あいつがなにを考えているかなんて、おれにわかるわけないさ」
そう言って会話を切り上げると、アルンはドアを開け、操舵室を出ていった。




