Act 5
ロベルトだ、間違いない。ゆったりと螺旋階段を降りてくる動作に、場慣れした様子がうかがえた。すでに何度かここへ来ているのかもしれない。マネーロンダリングをするのも今回が初めてではないだろう。大金を手に入れてからすぐにガジノに行かなかったのは、警察のチェックにひっかかるからだろう。ガジノ側も警察には協力する。清廉潔白であることをアピールしないと存続できないからだ。難癖をつけられて潰された賭博場など、過去、いくらでもある。
ロベルトがチップ交換場所に向かう。ここではまだ静観する。チップに交換されたマネーカードのチャージ額を、今度は口座に移すときがこのガジノでの本当の勝負だ。
大勢の客にまぎれてしまいそうなロベルトの姿を目で追って、ホセはゲームをやっていても気もそぞろである。勝っても負けても集中できない。ディーラーが不審な目を向けていても気がつかない。だが、イカサマを見抜く確かなディーラーの目は、ホセにそんな兆候がないこともわかっていた。わかっていたが、イカサマをしている者特有の匂いを嗅ぎ取ってもいた。自然、ホセの行動に注目する。
そうと知らないホセは負け続け、いつしかチップを使いはたしてしまう。スッテンテンになったため、気兼ねなくそのテーブルを離れ、ロベルトを追跡した。
ロベルトはルーレットのテーブルについていた。すでに数ゲームかしており、ロベルトの目の前には色とりどりのチップが積まれ、勝ち負けを繰り返しているように見えた。
高額の黒色や緑色のチップは決して賭けず、少額の赤色や黄色のチップを、しかも倍率の高い場所、一点狙いの36倍の場所においていた。当たることはままないし、当たればリターンは大きい。小額チップを使い果たしたらやめるつもりなのだろう。
チップもなく、ホセは手持ち無沙汰で眺めているしかない。ロベルトにしても、いつまでも遊んではいないだろう。
ディーラーが投げた白い玉が、回転するルーレットのなかで弾んでいるのを、そのテーブルにいる全員が注目する。赤25番に玉が入り、勝った負けたで悲喜こもごも。ディーラーが素早い動作で場に置かれたチップを回収・精算する。ロベルトの前から緑色のチップが消えていた。バスケットのなかが高額チップだけになって、ロベルトは席を立つ。
(いよいよか!)
ホセは緊張する。ロベルトがチップ交換カウンターに向かうのを見て、後を追う。人の間を抜け、彼我の距離をつめていく。ホセの目の前で、ロベルトがチップ交換カウンターに至った。今だ。
ホセは魔法アイテムを発動させた。魔法アイテムは、魔法陣を描いた木の板だった。魔法術師が魔法をここに封じ込め、普通の人間でも使えるようにした代物だ。練習した呪文を唱えると、魔方陣がかすかに光って反応する。それを見て魔法が無事発動したのを確認すると同時に、上着の内ポケットから二枚のマネーカードを取り出した。一枚は自分で、もう一枚はアントニオの分だ。
カウンターのなかの交換係に二枚のカードを差し出し、
「これにチャージしてくれ」
突然割って入ってきたホセにロベルトは沈黙している。交換係はロベルトのチップをなんの疑いもなくホセの二枚のマネーカードに換金していく。
「百二十三万MQRです」
事務的な声で明細レシートとともにカードを返してきた。
「ご利用、ありがとうございました」
ホセはカードを引ったくると、はやる気持ちを懸命に抑えながら、螺旋階段を上っていった。魔法の効果が切れる前に、すみやかに退場したかった。
出入り口に門番のごとく立っているスタッフの脇をすり抜け、カジノを後にした。あとはアントニオと合流すれば完了だ。ミッション・コンプリート! 叫び出したい気持ちでホセは宇宙港へと向かった。
アントニオのLSHロボットがこちらにやってくるのが通路の先に見えて、ホセは相好を崩した。こんなにもスムーズにコトが運ぶなど半ば信じられない思いであったが、手の中のマネーカードには間違いなく手に入れ損なった大金がチャージされているのだ。
早足になっていた歩みが駆け足になっていた。
アントニオにはなんて礼を言うべきか──。
ホセがそんなことを思ったとき、いきなり足がもつれた。あれ?──と感じたときにはもう前につんのめって倒れていた。それだけではない、体が動かないのだ。
かすむ視界のなかで、アントニオのLSHロボットが無表情で近づいてきた。




