Act 4
ホセはカジノの入り口を前に一度立ち止まる。そして今一度服装をチェックした。紳士淑女の社交場であるカジノは正装でないと入場できない。ラフな服装はもちろん、みすぼらしい貧乏人は入れず、入り口では遊べるだけのカネを所持しているかどうかまで確かめられる。
お供のLSHロボットも連れて入れない。アルンが自分ではカジノに行かず、ホセを代理に仕立てたのはこのためだった。
カジノの入り口でチェックを受けたホセだったが、無事に入場を果たした。
入場して息を飲んだ。天井の高い、広大なフロアいっぱいに賭博所は作られていた。大勢の男女が賭事に興じていた。あちらでルーレット、こちらでポーカー、向こうでブラックジャック、バカラと、さまざまなゲームで賑わっていた。ゲームテーブルの間を、人間の給仕係が飲み物をトレーにのせて客にサービスしている。
螺旋階段の上からそれを見渡すホセは、まるで夢の国にでも迷い込んだかのような錯覚に陥った。しばし呆然としていると、
「どうぞこちらへ」
蝶ネクタイをした案内係がホセをうながした。
螺旋階段を降りたところにチップの交換場所があった。カジノ入場者は、まずはここで現金をチップに替えるのだ。おそらくあとからやってくるロベルトもここであのカネをチップに替えるだろう。そして、ほんの少しカジノで遊ぶかもしれないが、ほぼ全額をべつの通貨に替えるはずだ。ガジノなんかで散財するほどロベルトは愚かではない。
ロベルトがそのカネをなんに使うかは知らない。だが裏世界の食い込むための資金だろうとホセは見当をつけていた。ロベルトにはいつか大きなことをしでかすような匂いを感じたのだ。それはチンピラとして、アウトローとかかわってきた経験から感じ取れる感覚だった。
ホセは、ここで遊ぶつもりはなかったが、入場してしまった以上、他の客とちがう振る舞いをしていたらガジノ側から目をつけられてしまうだろうから、それは避けたいと、少しだけゲームに参加することにした。イカサマをする客がいるかもしれないと、ガジノ側は常に目を光らせているのだ。不審な行動はしないように注意する。
受付カウンターの向こうには女性の係が立っていた。サービス業ではLSHロボットが携わるのが普通の感覚だったから、ホセには新鮮だった。こんなところにも、このカジノの性格が表れていた。
最低額をチップに交換してもらう。二千MQRがカードから引かれてしまった。小さなバスケットに入ったチップをもって、緊張しながら会場内に踏み込んでいった。
とりあえず、チップ交換場所から一番近いテーブルに陣取った。ダイス(サイコロ)ゲームのテーブルだった。テーブルにはサイコロの目を現した図が枠に囲まれており、参加者のチップが思い思いの場所に置かれている。シックボーという種類のゲームだ。
ルールは簡単だ。ディーラーが三つのダイスを振り、出た目が予想されたものと一致すると勝ちとなる。
三つのうち、一つだけ、あるいは二つだけの目を予想したり、合計を予想したり、その数字も偶数・奇数もしくはゲームの名前であるシックボー(大小)を当てたりする。配当の高いものを狙うなら出る目の組み合わせまで予想する。反対に配当は低いが当たる確率の高い賭け方もある。単純で初心者にもわかりやすく、それでいていろんな遊び方ができる人気のゲームだ。
ホセの目的は、あくまでロベルトのマネーカードを横取りすることだ。やつが来るまでに、ここで持ち金をすってしまって、ゲームに参加できずにうろうろと所在なげにうろつくわけにはいかない。できるだけねばって時間をかけようと、倍率の少ない──当たりやすいところに、さほど考えずに低額チップを一枚だけ置いた。テーブルを囲む客のすべてがベットすると、女性のディーラーが三つのダイスを機械にセットする。なかなかの美人だ。選ばれてここに配置されているのだろう。
放り投げられたダイスがテーブルに転がる。3、4、6が出た。「合計が偶数」に賭けていたチップが回収されてしまうが、ホセの視線はそこにはなく螺旋階段の上にあった。まだロベルトは来ていない。
「飲み物はいかかがですか」
給仕係が細長いシャンパングラスを乗せたトレーをさりげなく差し出してきた。スパークリングワインが細かな泡を立てている。邪魔だ、と思いながらもホセはそれを受け取る。が、飲んでも心ここにあらずで味もわからない。
ゲームは続く。しかしホセは集中できない。どこに賭けて勝敗がどうなったのかも上の空である。当然のことながらそんな状態では負けがこみだし、ホセのチップは増減を繰り返しながらも徐々に減っていった。
どれくらい時間がたったろうか。チラチラと螺旋階段上の出入り口を正面から見える位置でチェックしていると、ついに現れた。




