Act 3
ディック・デルタの衛星軌道上には、大小無数の人工物が巡っていた。そのなかでフロリクス9は円筒型コロニーで最大の規模を誇り、内部にはさまざまな施設が完備され、さながらひとつの国の様相を呈していた。外宇宙との中継地としての機能を備え、何隻もの大型外洋宇宙船が係留されていた。その広大なドッキングポートのひとつに全長七〇メートルの、外洋としては小型の部類に入る高速宇宙船「長岡天神丸」が繋がれていた。
船を降りたアルンとホセがデッキに立つ。
「アントニオはいっしょじゃないのか?」
ホセは不安な目をして聞いた。つくづく肝っ玉の小さい男だなと、チンピラのままでいる理由をアルンは察した。
「アントニオは、ロベルトと同じ定期便に乗り込んで彼を監視しています。ロベルトの動向を常に知っておく必要がありますからね。作戦がうまくいったら、カジノを出てこの宇宙港で落ち合いましょう」
ホセは、アルンに言われたとおりに変装もした──髭をつけ、スキンヘッドにしてきた。年齢不詳の男ができあがっていた。遠目にはだれだかわからないだろう。服装も、普段の小汚い恰好から買ったばかりの糊のきいたシャツとジャケットを着せられていた。
「いつロベルトがカジノに入るかわかりません。出入り口で鉢合わせしないよう、早くカジノに入ってください」
アルンは急かした。アントニオがカジノに来ていないと知れてすべてが嘘だと気づかれたら、そこでこの計画は破綻する。アルンを不審に思って、なにもかも放り出してしまうかもしれない。少なくとも、もうアルンの指示には従わなくなるだろう。
「……わかったよ、行くよ。行けばいいんだろ」
不服そうだったが、ホセはきびすを返した。
「健闘を祈ります」
そう言ったアルンをジロリとひと睨みすると、ホセは大股でカジノのほうへと歩いていった。
それを見届けると、アルンはその場で電話をかける。数回の呼び出し音のあと、相手が出た。
「ホセがカジノに向かった。そっちはどうだ?」
「こっちは予定どおり、定期便に乗っているから、間もなく到着予定よ」
ミコネフだった。
LSHロボットのミコネフがロベルトの元で働きだしたのは、約二ヶ月前だった。大金を投じて自らのボディをカスタマイズし続けるミコネフの性能や容姿は大量生産されたどんなLSHロボットにも負けない魅力を周囲に発散させていた。それをフルに活用して、ロベルトに取り入ることに成功した。ミコネフのすべてに、ロベルトは満足した。
ロベルトの身の回りの世話をしながら、ミコネフはチャンスをうかがっていた。ロベルトは大金のチャージされたマネーカードについて多くは口にしなかったが、ガジノに行く、と聞き、ははん、と思った。そのことをアルンに知らせた。それに対して、アルンは作戦を立てたのだった。
「了解した。引き続きたのんだよ」
「まかせて」
アルンは通話を切る。お膳立てはできた。あとはホセ次第だった。




