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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第3話 灼熱地獄の漂流船
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Act 9

 コンテナにワイヤーで取り付けられたブースターが始動する。アルンとワシェンゴが乗る作業機は、振り落とされないようそのコンテナにワイヤーで固定されていた。

「それいけ!」

 コンテナはブースターの振動を受けながら勢いよく貨物室ペイロードの開口部から宇宙空間へと飛び出した。排気雲を残しながら、あっという間に雲間を脱し、大気圏を突破。ほんの数秒で長岡天神丸の周回軌道をも越えた。

 ブースター逆噴射。上昇が停止したところで、ブースターの出力を止める。今度は落下が始まるが、そこへ急行してきた長岡天神丸。

 マーヤの操船で、コンテナとランデブー。デッキにいるゲイスンは、接近したコンテナをワイヤーで引き寄せる。原始的な方法だったが、これがもっとも確実なやり方だった。

「うまくいったぜ」

 高温環境用作業機を降りたアルンはゲイスンとハイタッチ。

 眼下に広がるブラッドベリ・アルファの雲間にはまだ漂流船が小さく見えていたが、ブースターの反動でその軌道はズレだし、やがて落下していくだろう──コンテナ内のザタリウム結晶とともに。

「もうここには用がない。ずらかるとするか」

 恒星ブラッドベリが頭上に圧倒的な視界を占めて光り輝いていた。その強烈な輻射を受けて、長岡天神丸の船体も明るく照らされ灼かれていた。あまり長居はできない。

 デッキから格納庫にコンテナを運び入れる。

 そこへ、マーヤから通信が入った。

「船が一隻、こちらに向かってきています!」

「わかった、間もなく操舵室に入る」

 アルンは返答する。落ち着いた声は、宇宙船の飛来を予想していたかのようだった。



 惑星マーティン・アルファのザタリウム採掘場……。アルンはそこに向かったのだろう、と推測したZ0G‐KKBであったが、そこへ向かっている途中で気が変わった。

 まてよ、と思ったのである。

 あのアルンが、そんな山師のようなことをするだろうか。他のやつらに混じって、出るか出ないか不確実な鉱石を泥にまみれて探すだろうか。アルンはそんな時間のかかることはしない──そう思ったのである。

 では、どこに行ったのか……。

 高温環境用作業機を使うような場所が、この近辺に他にあるというなら、そいつはどこだ……?

 調べてみた。

 そしてヒットしたのが、ブラッドベリ・アルファだった。数年前の事故によって、一隻の貨物船がその第一惑星であるホットジュピター、アルファの引力圏につかまり、以来、低軌道を周回し続けている。積み荷はザタリウムだが、この環境下において純度の高い結晶に成長している可能性が専門家から指摘されていた。しかしながらサルベージは困難で、過去に挑んだチームがあったがすべて失敗している。

 アルンなら狙うかもしれない。そして、アルンならやりとげるかもしれない。

 そう思うと、もうそれ以外にないような気がした。

 急行した。

 ブラッドベリ・アルファの分厚い雲の縞模様が、カメラを通してディスプレイに表示されている。わずか七日で主星のまわりを公転しているガス惑星は、その巨大さにもかかわらず十三時間ほどで自転していた。雲はとてつもない速さで流れ、常に荒れ狂っているはずだ。その雲の上層部に漂流する貨物船からザタリウムを回収するなど、正気とは思えない……。

 が──。

「船影を発見しました」

 船のコンピューターが鋭い声で告げた。自動的に船籍を照会する。

「長岡天神丸です」

 やはり来ていたか……。

 すでにアルンもこちらに気づいているだろう。

「長岡天神丸が急加速しました。二〇Gです」

「なにっ?」

 驚くべき加速だ。通常のエンジンではそこまでの加速は出せない。無理にパワーを上げすぎると爆発してしまう。そんな非常識な加速など、ありえない。

 急速に遠ざかっていく目標の追跡を、Z0G‐KKBはあきらめざるを得なかった。この宇宙船では追跡できない。



 ブースターの燃料が切れて加速は終了した。

「とりあえず逃げ切れたようだな」

 アルンは、センサーに追っ手の反応がないのを確認する。

「今の加速はリスクが高かったぞ」

 ワシェンゴは船内にダメージがないかどうか調べている。

 漂流船からコンテナを運び出したブースターには、まだ推進材として使ったザタリウムの高純度結晶が残っていた。

「一度ブースターの燃焼室に入れてしまっては、もう商品価値はない。最後まで使ってあげないと、もったいないじゃん」

 アルンは悪びれもしない。

「しかし、それを長岡天神丸のエンジンに使うとは、むちゃだよな」

 ゲイスンが、大急ぎでの作業を振り返った。高温作業機で、熱くなった結晶をブースターから取り出して、長岡天神丸の四つのエンジンの束ねる共有の添加剤投入口に放り込むという荒技は、エンジン設計者が聞いたら卒倒するかもしれない。

「ブースターなら短時間だけ壊れずに動いてくれればいいと割り切れるが、船のメインエンジンとなると、下手をすりゃ壊れて止まっちまう」

「巨大質量の天体が近すぎてワープできないからな。ああでもしなけりゃ捕まってしまう」

 捕まったらもうそれまでだ──。アルンの判断はわずかでも可能性のある方を選んだ。結果としてリスキーに見えても、そうせざるを得ない状況だといえた。

 まぁな、とゲイスンはうなずく。

「あの加速、おれたちがロボットで助かったぜ。人間だったら、内臓がつぶれていたかもな」

 すると──。

「人間はデメリットも多いですけど、それでも、やっぱり人間になりたいですか?」

 マーヤが率直な疑問をぶつけてきた。高温環境用作業機だって、あの環境下では、人間なら一時間と作業できないほど内部温度があがっていた。

 アルン、ゲイスン、ワシェンゴの三体はニヤリと笑った。戸惑うマーヤに向かって、アルンは代表して言った。

「たがらこそ、人間になりたいんだよ」

「?」

 その笑顔を見て、マーヤは首をかしげる。が、三人の思いがまだわからないものの、LSHロボットのまっすぐな気持ちは理解できた。だからそれを受けて、微笑み返す。きっといつか近いうちにLSHロボットだからこそ共感できるなにかがしっかり理解できるだろうと思い、今は聞かずにいた。

 船は跳躍シークエンスに入った。次の目的地への旅がもう始まっていた。


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