Act 8
ゲイスンの操船によって、長岡天神丸は漂流する貨物船と相対速度を合わせる。距離はおよそ百メートルを維持。
二台の高温環境用作業機に乗り込んだアルンとワシェンゴは、長岡天神丸の後部ハッチからデッキに歩み出た。すでに恒星ブラッドベリの直射を受け、外殻が高温にさらされている。雲間に漂流船が目視できた。
漂流船の全長は二五〇メートル。貨物船としては小さなサイズだが、これ以上の大きさだと上昇気流では高度を維持できず、とっくに墜落していたろう。
「行くぞ、ワシェンゴ」
「おうよ」
スラスターを作動させ、二台の作業機はデッキから飛び降りる。ブラッドベリ・アルファの重力により幽霊船へと接近、暴風のなかスラスターで方向を修正。数秒で到達した。安全のため、長岡天神丸は上昇して大気圏外に出る。
アルンは、事前に取り寄せていた貨物船の構造図を確認する。閉じていた貨物室ドアにカッターで穴をあけた。二人がかりで行い、わずか数分で作業機が通れるほどの穴があいた。
内部に侵入する。庫内の温度は三百℃にも達していた。真っ暗な貨物室内でライトを照らすと、床に固定されたいくつものコンテナが見えた。大きさはすべて同じで、トレーラーサイズ。
「このコンテナ、すべて中身はザタリウムなのか……」
「ああ、惑星マーティン・アルファの採掘場から掘り出して精製したインゴットさ」
それが高温と潮汐力によって、徐々に結晶化していき、純度が高いだけでなく、その原子配列のために宇宙船の推進剤の添加剤としての価値は驚くべきものがあった。
「このうち持ち出せるのは一つだけなんだな?」
ワシェンゴが念を押すと、アルンは肯定した。
「気持ちはわかるが、一つ持ち出すのが精一杯だ。欲をかきすぎると、意地悪じいさんを見るぜ。ひとつでもかなりの値打ちなんだから、それで手を打とうや」
「うむ、やむを得ん」
貨物船のエンジンはすでに使い物にならないため、修理して貨物船ごとサルベージする、という方法はかなり早い時点で断念した。そこでコンテナだけでもサルベージできないかと検討した結果、ひねり出したプランがこれであった。
アルンとワシェンゴは、コンテナを床のハンガーからはずし、次にロケット用の補助ブースターを四本、ワイヤーで取り付けた。重心を計算に入れて、ブースターの推力が偏らないような位置に固定。
「さて、ここまではいいとして──」
アルンはブースターの取り付けを確認する。
「あとは推進材だよな」
ブースターの燃料はカラだった。イーア市で調達する予定で、実際、発注まですませていた。ところが、燃料が届く前に発進してしまった。
推進材がなければブースターはなんの役にもたたず、サルベージ計画は頓挫する。しかしアルンには考えがあった。
「よし、ワシェンゴ。他のコンテナからザタリウムの結晶を拝借しようぜ」
「心得た」
目の玉が飛び出るほど高価なザタリウムの結晶を燃料の代わりに燃やしてしまうつもりだった。
どうせ運び出せないし、このままだといつかは貨物船の船体は破損して墜落する。無駄にしてしまうなら、ここで燃やしてしまっても同じだ。
アルンとワシェンゴは、手近なコンテナを開封した。両開きのドアが開くと、ライトに照らされ美しく輝く巨大な正二十面体があった。
「すごいな。これだけでも美術品として通用する価値があるだろうな」
「どれだけ砕いて使うんだ?」
美的感覚のないワシェンゴは実務的なことしか口にしない。人間になれば「美しい」という感覚が解るのだろうと、期待するところ大であった。
「ほんの少し、ブースター一基あたり百五十グラムでじゅうぶんだ。あまり多いとブースターが爆発してしまうからな」
「危険な物質なんだな」
「条件が合えば爆発するが、逆にいえば条件がそろわない限り危険はない」
会話しながらもアルンは手を休めない。ハンマーで慎重に叩き割った欠片の重さを吟味し、よし、と言ってとって返す。ブースターの燃料室に投入。
その間、ワシェンゴはペイロードドアを開けようとしていた。
「アルン、やはりだめだ。機構が壊れていて開かない」
通常ならブリッジからの操作で開閉できるが、非常用として手動のレバーがあり、今回はそれでドアを開けるつもりだった。だがそれができない、という。稼働部分は不具合を起こしやすい。アルンはそれも想定していた。長岡天神丸に通信。
「ゲイスン、聞こえるかぁ?」
「おっ、おれの出番か」
待っていました、とばかりに返答があった。
「急いでくれ。高温環境用作業機の耐熱限界時間が迫ってる」
「準備はできてるぜ。二、三発でカタをつけてやる」
「そいつは頼もしい」
「まぁ、任せときな」
通信は短かった。段取りはすでにできていた。
アルンとの通話を終えると、今度はマーヤとの通話。
「マーヤ、打ち合わせどおりに船を向けてくれ」
「はい」
船内の操船席についていたマーヤは船の姿勢を反転させる。船外デッキがブラッドベリ・アルファの側を向く。そのデッキにゲイスンがいた。出番が来ることに備え、しばらく前からそこで待機していたのだ。大型の長距離用レールガンをセットして。
装填弾は、破裂弾。
貨物船の船体は、それほど頑丈にできているわけではない。ましてや高温にさらされ、たえず潮汐力を受けている。したがって、かなり脆くなっているはずで、簡単に破壊できるだろうと踏んだ。たとえばレールガンで撃った破裂弾でも。
大気圏外の軌道で漂流貨物船との距離を一定に保つには微妙な操船技術が必要だったが、制御コンピューターの支援でなんとかマーヤでもこなしていた。ゲイスンは射撃に専念する。
デッキに据えた大型のレールガンもイーア市で仕入れたものだった。射撃姿勢をとるゲイスンは、それの引き金に指をかける。望遠スコープの照星に漂流貨物船を捉えた。
引き金を引いた。
破裂弾が音もなく射出される。
そして──。
漂流船のペイロードドアのヒンジに着弾と同時に弾けた。その衝撃でテニスコートほどのドアが分離する。大きな開口部ができあがった。
「どうだい、おれを腕前! 一発で仕留めてやったぜ」
ゲイスンは小さくガッツポーズをすると、次の段取りに移った。コンテナの回収である。




