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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第3話 灼熱地獄の漂流船
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Act 7

 恒星ブラッドベリの第一惑星は、巨大なガス天体であった。恒星からの距離が近いために激しく熱せられ、惑星表面の大気上層部の雲は荒れ狂っていた。あまりの熱さのため、このような恒星に近いガス惑星はホットジュピターと呼ばれる。恒星の光をさえぎるのが遠く系外から観測されるほど巨大なため、地球外惑星としてかなり早い時期からその存在が確認されていた。

 長岡天神丸は、今その近辺を航行していた。ガス惑星ブラッドベリ・アルファの強力な引力が宇宙船を引っ張っている。

「まもなく衛星軌道に入るぞ」

 ワシェンゴが告げる。

「この距離では、幽霊船がどこにいるかまだわかりませんね」

 光学式センサーでブラッドベリ・アルファの雲海を走査していたマーヤが、その結果を受けて言った。

「そうあせるなよ、もう少し接近してからだ」

「しかしアルン、ある程度アタリをつけてから衛星軌道に入らないと、幽霊船に接触できないぞ」

 ゲイスンの意見はもっともであった。ブラッドベリ・アルファの大気上層部に漂う幽霊船と接触するには、かなりの低軌道に入る必要がある。巨大なガス惑星のどこにいるかわからないでは、近づくことさえできない。

「まぁ、待てよ」

 アルンは端末を凝視している。

 今回の計画では、ブラッドベリ・アルファの大気上層部にいる難破した宇宙船に積み込まれているコンテナをサルベージする。事故によって漂流していた貨物船がブラッドベリ・アルファの引力に捕らえられ、大気圏上層部に閉じ込められていた。恒星の熱による上昇気流が貨物船の落下をくい止めて無人航行する〝幽霊船〟となっていたが、かといってサルベージするのは危険であった。低高度を周回する幽霊船は、わずか四時間ほどでブラッドベリ・アルファを一周してしまう。恒星からの強烈な電磁波を浴びて高熱にさらされた船体は、夜の側で冷める間もなくすぐに昼の側にでて加熱される。そうしている間に、船内温度は高温が維持され、コンテナに積まれていたザタリウムは無重力下で結晶化し、純度が極限にまで高くなっていた。その価値は通常の二十倍にまで膨らむ。

 もちろん欲しがる者はいくらでもいた。しかしながらサルベージするには危険が大きすぎた。有人宇宙船はもちろんのこと、無人作業船ですらその過酷な環境に耐えられない。そんなわけで、お宝はだれの手にも触れられることなくいつまでもメタンとアンモニアの雲のなかを飛び続けていた。

 そこに目をつけたアルンだったが、当然、危険は承知している。その危険を省みず挑戦する値打ちはあるとみた。ティプトリー・イプシロンのイーア市に立ち寄ったのも、そのための機材を調達するためであった。そして今、アルンたちはブラッドベリ・アルファにやってきた。

「よし、幽霊船の位置が特定したぞ」

 長い時間、端末で収集されてきたデータを黙って見続けていたアルンはやっと口を開いた。

「ブラッドベリ・アルファを観測していた無人機のデータをもらった」

「まてよ、観測機それはとっくに運用を終えてるんじゃなかったか?」

 ゲイスンが確認する。記憶が正しければ、数年前に近辺の惑星宇宙局が打ち上げた無人観測機だ。ホットジュピターの成り立ちを知る手がかりを得ようと運用が始まったが、内部機器の破損によりすでに放棄されているはずだった。

「故障はしてるが、幽霊船の位置ぐらいは探せるさ。セキュリティもなくなってるから、ハッキングは容易い」

「なるほどな……」

「ワシェンゴ、データを送る。そのコースで大気圏上層部上空に入ってくれ」

「わかった、やってみる。だが百キロほどのずれは発生するぞ」

「その程度なら許容範囲内だ」

「機動を開始する」

 ワシェンゴが告げると、長岡天神丸はエンジンを吹かして軌道を変更する。船体にGがかかった。

 ブラッドベリ・アルファの毒々しい雲が圧倒的な迫力で迫ってくる。大気圏に突入すると、周囲が明るくなった。真空の宇宙とちがい、恒星の光を大気が反射するためだ。

 荒れ狂う風が雲を複雑な形にして流す。それを下方に見ながら、長岡天神丸は目的の幽霊船を探す。

 突風にあおられて、ときどき船体が大きく揺れた。

 レーダーに反応。

「いたぞ、二時の方向。距離六百!」

 アルンの声が弾んだ。

「ゲイスン、あとは頼んだぞ。おれとワシェンゴは乗り移る準備をする」

 指令席から離れ、操舵室後方のドアから出て行くアルン。

「了解した」

 ゲイスンが、アルンに続いて出て行ったワシェンゴと入れ替わって操舵席についた。

「今回は、ゲイスンがバックアップなんですね?」

 マーヤが訊いた。いつもなら宇宙船の操船をワシェンゴが担当し、トレジャー回収はアルンとゲイスンが行う。

「まぁ、そういうときもあるさ。今回は射撃が必要かもってことで、おれが待機」

 ゲイスンはそれ以上は話さない。

 マーヤもそれ以上は尋ねなかった。アルンの考えたプランはすでに聞いていた。それぞれの役割分担に間違いはない──きっと。


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