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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第3話 灼熱地獄の漂流船
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Act 6

 雪ノ原宇宙港の発着予定一覧情報に路面電車に揺られながらアクセスしたとき、Z0G‐KKBは愕然とした。長岡天神丸の名前の表示が刻一刻と一覧表の上へ上へと繰り上がっていくのだ。それはリフトオフが迫っているのを意味していた。迂闊であった。アルンたちはとっくに惑星ティプトリー・イプシロンを離れてしまっていると判断してしまったことが悔やまれる。

 果たして間に合うだろうか。

 発進後ではたとえ一秒遅れても手遅れなのだ。追いかけようとしても、Z0G‐KKBの宇宙船はまだ整備中であるし、予定より早くメンテナンスが終わっていたとしても、離床は申請順になるから、間違いなく待たされる。当然、追いつけない。

 じりじりするような路面電車の速度であった。無人運転仕様で運転席のない分、大きくとられた前方の窓から目指す雪ノ原宇宙港の管制塔が、煙突のように高く飛び出しているのが見えていた。その向こうに、白煙を残しながら上昇していく宇宙船がいままた一隻。

「あっ……」

 と、Z0G‐KKBは声をもらす。空に小さくなっていくそのシルエットは、まさしく長岡天神丸だ。

 ──遅かったか。

 空の彼方に消えていく船影を目で追うが、しかしそう悲観はしていない。宇宙港で取り逃がしてしまったとしても、今回はそれでしまいではないからである。イーア市でつかんだ手がかりがあるのだ。

 やつらの行き先は、惑星マーティン・アルファのザタリウム採掘現場だ。



「針路調整完了したぞ」

 ワシェンゴが操舵席から告げると、ティプトリー・イプシロンの重力圏を脱して第二宇宙速度に達した長岡天神丸の操舵室の明かりから赤色サインが消えた。ホッとする瞬間だ。

「目標到着まで空間跳躍一回で、七時間二〇分ってところだ」

「オーケイ、ワシェンゴ。ご苦労さん」

 指令席のアルンは手元のディスプレイで航路を確認する。

「一時間後、ティプトリー・イプシロンの跳躍禁止宙域を脱したら空間跳躍シーケンスに入ってくれ」

「了解だ」

 ワシェンゴが返答する。

「Z0G‐KKBはおれたちがイーア市(あそこ)にいたことに、気づいてるかな……?」

 機関席のゲイスンがつぶやいた。

「おそらく気づいているだろうな。宇宙港で待ち伏せされていたらどうしようかと思ったがな」

 アルンは答えた。あわててイーア市を発ったのは、それを危惧してのことだった。

「まさかおれたちがイーア市に滞在中だとは思わなかったろう。だが捜索はするだろうから、聞き込みの段階で早晩知られることになる。そうなったら宇宙港で張り込むに決まっている」

 Z0G‐KKBのやりそうなことは想像がついた。

 LSHロボットは単独での行動はできない。必ずオーナーがいて、その命令によって動く。だからどこでなにをするにもオーナーの了承があるという証明が要った。アルンたちは、アレックス・ベルモントという架空のオーナーをでっち上げて自由を獲得していたが、そろそろ自己のオーナー設定を変更する頃合いだろう、とアルンは思い始める。アシがつき始めている。とはいえ、架空のオーナーをでっち上げるのは骨が折れることもあってまだ取りかかれないでいた。

 この仕事が終わったら、とアルンは決めた。

「あの……LSHロボットの回収屋がずっと追ってきてるんですか?」

 サブ席のマーヤが不安そうに会話に割り込んできた。

「そういやまだきちんと話してなかったな」

 アルンは努めて明るく言った。

「回収機構から委託された回収業者のLSHロボットで、名前はロボットらしく、Z0G‐KKBという。野良ロボットの捕獲にはロボットが当たるのが通例になっているようだ。ずっとおれたちを追ってるぜ。おれたちを追ってばかりじゃないだろうが、銀河警察かどこかで情報を得たら、のこのこやってくるんだ。いったん尻尾をつかまれると、振り切るのが骨だわ」

「銀河警察って……わたしたちって、違法なことをしているの?」

「違法というか、法律がそうなっているから違法となってしまうんだ。おれたちは、存在そのものが違法だ」

 惑星によって法律が異なるため、違法とならないこともあったが、そこまでは言わない。

「だからこそ人間にならなきゃいけない」

「…………」

 アルンの口調には強い意志が込められていた。ゲイスンがニヤリと笑っていた。

「さぁ、では跳躍シーケンスが始まるまでスリープするぞ」

「了解した」

 ワシェンゴが端末を操作すると、操舵室の照明が落ちた。同時にアルンたちも活動を停止して、眠った。

 生命維持機能が不要な宇宙船内の環境は、それだけでずい分ハイパフォーマンスだが、さらに電力を節減することでより行動時間をのばし、いざというときのための電力を確保できた。それは人間にはないメリットであったが、しかしLSHロボットたちには眠る楽しみなど感じない。それもまた、いくら望んでも得られない人間であればこその感覚だった。夢のない眠りのなかで、電子脳は跳躍シーケンスまでの時間をただ待っているだけであった。


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