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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第3話 灼熱地獄の漂流船
17/61

Act 2

 辺境宙域一の大都会、惑星ティプトリー・イプシロンのイーア市に近い雪ノ原宇宙港には大小さまざまな宇宙船がやってくる。そのため離着床も広大で、見渡すかぎりの土地すべてが宇宙港の敷地であり、宇宙船の離着床であった。大気圏航行の可能な外洋宇宙船から、衛星軌道上の宇宙駅を往復する小型のはしけまで、さまざまな種類とサイズの宇宙船が駐船スポットに並んでいる光景は、圧巻の一語につきる。

 今もまた一隻の宇宙船が、管制塔の指示に従って降下してきていた。オレグ重工社製の普及型高速宇宙船だったが、回収業者の社名と意匠が施されていた。

 乗員はたった一名、いや、一体である。回収業者所属のLSHロボット、Z0G‐KKBである。担当は、広域の野良ロボットの回収。なかでも、アルン、ゲイスン、ワシェンゴの三体は、窃盗の容疑のかかった札付きLSHロボットで、Z0G‐KKBは長らくその三体の回収をするべく動いていた。もちろん、その三体ばかりにかかわってはいられない。今回、別の野良ロボットの回収案件を片付けて帰る途中に、宇宙船のメンテナンスが必要になったので立ち寄った。

 メンテナンスだけなら衛星軌道上のドックで事が足り、なにも地上にまで降りる必要はないが、Z0G‐KKBは回収屋であり、野良ロボットの情報を集めるためにはやはり地上まで足をのばすべきだと考えてのことであった。

 全長四〇メートルの、外洋型としてはひどく小さいオレグ重工社製普及型高速宇宙船は、指定された離着床に着陸した。もともとは恒星系内用の宇宙船として開発されたものだから、外洋宇宙船として運用するのは無理があったが、人間は運ばずロボット一体だけが操縦するので大袈裟な生命維持装置は必要なく、そのぶん小型の宇宙船でもじゅうぶんなのであった。

 管制塔とのやりとりのあと、Z0G‐KKBは宇宙船を降りる。広大な宇宙港を走り回っている自動運転のバスがやってきて、それに乗るとバスの中で入国管理が自動的に実施される。クリア。

 雪ノ原宇宙港の外には、イーア市の各地区に人を運ぶカラフルな路面電車が何台も発車を待っていた。凹凸のないスタイリッシュな車両は七割ほどの混み具合で、乗客は静かに座席についていた。立っているのは全部LSHロボットだ。

 Z0G‐KKBはそれには乗らず、宇宙港併設のメンテナンスコーナーへと回る。宇宙船の整備・修理を一手に引き受けているその建物に一歩入ったとたん、受付ロボットが近寄ってきた。LSHではない、人間の形をしていないロボットである。足の代わりに車輪が回り、顔の代わりにディスプレイが対応した。

「お客さま。ご予約はお済みでしょうか?」

「予約していた回収業者のZ0G‐KKBです。たったいま、予定誤差時間内に入港した」

 予約番号を告げると、受付ロボットは人間に応対するのと同じように言った。

「照会しました。ご利用、ありがとうございます。宇宙船の整備でございますね。お知らせいたしましたとおり、整備には一日かかります。お待たせいたしますが、どうぞご了承ください」

「承知しています。ところで聞きたいのだが、アルンというロボットが、最近ここへ来なかったかな?」

 可能性はひどく低いだろうと予想しつつ、質問してみた。

 受付ロボットは、相手が回収屋であるということで、個人情報を開示してしまう。

「はい、五時間十三分前にお越しになり、宇宙船の整備を依頼されました。すでに整備は終わっています」

「なにっ? たしかか?」

「はい、オーナー様は、アレックス・ベルモント様でございます」

 間違いない。アレックス・ベルモントは、アルンのオーナーとして登録された架空の人物だ。アルンのオーナー名はコロコロ変わったが、Z0G‐KKBは最新のその情報を得ていた。

 LSHロボットには必ずオーナーがいて、なんらかの事故が起きた場合の責任を明確にするため、その管理下の元で活動することが法令で定められていた。野良ロボットはありえなかった。だが、オーナーの死去にともなってLSHロボットが野良化するのを避けるためのキーが、なんらかの事情で解除され、自由に活動できてしまう例がたまにあった。しかしLSHロボットの活動はオーナーの庇護のもとにあることから、野良ではさまざまなサービスは受けられないため、電力を買うことさえままならず、すぐにその活動は停止する。が、アルンは架空のオーナーをでっちあげて活動を継続していた。オーナーといっても、クラウド上のパーソナルデータのみの存在だったが、LSHロボットの活動の保証に本人に会う必要もないことから、電子データさえあれば「存在」していることになるのであった。もちろん、架空の人間のパーソナルデータなどそう簡単に登録できるものではないが、アルンはそれをやり、しかも足がつかないよう定期的にオーナーを乗り換えてもいた。これだけでもじゅうぶんな違法行為である。そのうえアルンはあちこちで窃盗の容疑がかけられていた。

 闇市場で大金をつかんでいるとも聞く。その目的は、魔法術師に人間にしてもらうため、だとか──。

 なにをバカげたことを、とZ0G‐KKBは苦笑する。そんなおとぎ話のような魔法術が存在するものか──。

 魔法術はそこまで万能ではない。人間のような百三十年の寿命を求めようと無駄な足掻きをするアルンたちのことを、合理的な考えからほど遠いように思えてならない。

(あわれなピノッキオめ)

 Z0G‐KKBは受付ロボットからさらに情報を聞き出すと、メンテナンスコーナーを後にする。

 この都市まちにアルンがいた──。ひと足違いだったが、やつのこの地での目的がなにか知るにはここで調査すればすぐにわかるかもしれない。

 晴れ渡る空を見上げ、Z0G‐KKBは停車しているクリーム色の路面電車に向かって歩き出す。


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