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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第3話 灼熱地獄の漂流船
16/61

Act 1

 惑星ティプトリー・イプシロン。ティプトリー星系の岩石型第五惑星は、テラフォーミングしなくとも居住可能な奇跡の星だった。恒星からの距離が適度で、液体の水が存在する「ハビタブル・ゾーン」を安定した軌道で公転する惑星であっても、大気組成が地球と異なるのが普通であるのに、ティプトリー・イプシロンは窒素、酸素の分圧が地球のそれとさほどかけ離れていない。なぜこれほどまで酸素の割合が高いのかは謎だったが、ともあれ、多くの人間が暮らしていた──LSHロボットとともに。

 当然、各社のLSHロボットを取り扱う販売店ベンダーやメンテナンスショップが存在している。アルンたちの目的もそこであった。



「きれいな街ね……」

 コンパクトカーの窓から車外に流れる街並みを眺めて、マーヤが口を開いた。ここ数年でできあがった街、イーア市は、完璧な設計の都市計画のもとで美しく区画整理され、全体の調和が見事であった。

 惑星ベイリー・デルタでフォ・リーフ・クローバと闘ったときに傷めた部品を交換してもらわなければならないアルンは、ついでにゲイスン、ワシェンゴのメンテナンスもしたかった。もちろん、マーヤも。

「わたしは親方さまに修理されたので、正規の製品ではありません。だからメンテナンスは断られるんじゃないですか?」

 マーヤは申しわけなさそうに、そう言った。

「心配にはおよばねぇよ。イーア市は、辺境宙域指折りの大都会だ。多少、訳ありのロボットだってメンテナンスに来る。十五年のメーカーの保証がすぎた古いモデルだろうとなんとか修理してくれるし、違法改造ロボットなんて珍しくもない。それに、その左腕──」

 マーヤの隣にすわるアルンは指摘した。

「そいつを修理なおしておかないと、人間になったとき左腕が不具なんてことになったら、喜びも半減するじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

 マーヤは声を震わせた。アルンの気遣いが、ないはずの心に染みるようだった。

「みんなそろって、幸せになろうぜ」

「ついたぞ」

 そこへ、運転していたワシェンゴが告げた。

 クルマは、ロボットの修理・改造やメンテナンスなどを請け負う店がいくつ軒を連ねる一角にやってきていた。右を見ても左を見ても、そういう看板が目に付く。ただ、なんだか雑多な感じで、マーヤは親方といたカームシティを思い起こした。

「ま、店構えは貧乏くさいが腕は確かだ」

 アルンが請け負うならだいじょうぶなのだろう。マーヤはそう思うことにした。

「お望みなら、左腕にガトリングガンを仕込むことだってしてくれるぜ」

 ガハハ、と笑うのはゲイスンだ。

「おまえが言うと、冗談に聞こえないぜ。ほら、マーヤが怯えてるじゃないか」

「ケッ、そいつはすまんこって」

 クルマが駐車場に入って停止する。ドアを開けておりたアルン、ゲイスン、ワシェンゴは迷うことなく一軒の建物へとそろって入っていった。そのあとに続くマーヤはその平屋建ての小汚い店を見分する。

 屋根の樋はやぶれ、合成樹脂の外壁にはあちこちひびが入り、ちょっと嵐が来たら吹き飛んでしまいそうだった。間口は狭くて奥は薄暗く、商売を営んでいるのかどうかわからないほど静かだった。

「ダナムさーん、いますかい?」

 アルンは店の奥に向かって声をかける。しばし待つが応答はない。が、絶対にいるはずだとの確信がアルンにはあって、さらに暗い奥へと踏み込んでゆく。室内は機械部品の箱がところせましと積み上げられており、不用意に触れれば崩れてきそうだった。加熱された樹脂の匂いが漂っている。

 突然、静寂を破るアラームが鳴り響き、古風な回転灯が薄暗かった室内をまぶしく照らす。

 アルンたちは平気な顔だが、マーヤは警戒する。なにが起きたのかとキョロキョロと見回しているうちに、うるさいと文句でも言われたかのように唐突にアラームがやんだ。と、同時に物陰からのっそりと、白いあご髭をはやした貧相な老人が、怪しげな雰囲気をまとって現れた。

 べー・ダナム。イーア市で長くロボットの修理やメンテナンスを営んでいる男である。出身も年齢もアルンは知らないが、国際資格は持っていたし、業界の組合にも加入していたから、得体の知れない業者ではない。老眼鏡の奥の目をこらし、訪問者を確認する。

「おお、アルンか。ゲイスンに……そっちの大きいのは、だれだったかの?」

「ワシェンゴである」

 気分を害することなく、名乗った。

「おお、そうじゃったな。ワチェンゴ」

「ワシェンゴである」

 気分を害することなく、訂正した。

 と、見知らぬロボットがいっしょにいるのが目に止まった。アルンの背後に隠れるように、遠慮がちに。

「もう一体いるな。どこでかっぱらってきた?」

「人聞きの悪いこと言うない。マーヤは本人の意思でおれたちといるんだ」

「マーヤか……」

 その名を記憶しようとするかのようにつぶやくと、急に口調が変わった。

「おい、マーヤとやら。アルンになにを吹き込まれたか知らんが、そいつはとんでない大泥棒だぞ。そんなやつについてないで、わしのところで働かないか? 今なら、サービスで左腕にガトリングガンを仕込んでやれるが、どうだ?」

 ゲイスンが、ガハハハ、と大口をあけて爆笑した。

 するとアルンは、不安そうなマーヤの気をそらすように、

「冗談はいいから、仕事の話だよ。メンテナンスと修理を頼みたい」

「そんなもん、ひとめ見ればわかるわい。おまえさん、今回はまたひどくやられたな。腰のフレームの在庫はないが、ま、なんとか都合して二日で直してやる。メンテナンスはついでだ」

 外見だけではわからないアルンの故障個所をズバリと言い当てたことからも、ダナムの技量がわかろうというもの。

「締めて8万5千MQRというところかな」

「けっこうするもんだな」

「いやなら他を当たりな」

「いやとは言ってないだろ。それで頼む」

「毎度あり」

 ニヤリと笑うダナム。なにか含むところのありそうな笑みが、単なる商売上の交渉がうまくいったことによるもの以外に意味があるような気がマーヤにはしたが、ただの気のせいであることを願った。


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