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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第2話 ベイリー・デルタの奇跡の果実
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Act 7

 長岡天神丸が動き出す。

 レーダーにより、ロドリゲスの飛翔船の位置は容易にわかった。逃がすものか──。

「しっかし、マーヤがいてくれたおかげで助かったぜ」

 アルンは心底ホッとしていた。

 地上に降りたワシェンゴに代わって長岡天神丸の操船を任されていたマーヤは、アルンたちの混乱を船内の大型ディスプレイで見ていた。

「長岡天神丸のコンピューターにアクセスしてください、アプリを流します!」

 アルンとゲイスンにそう呼びかけた。

 二人の接続を確認すると、マーヤは即席のアプリを転送した。プログラムが実行され、アルンとゲイスンの電子眼が点滅し始める。

「ワシェンゴ、目の光っているほうが本物よ」

「かたじけない」

 大型化したワシェンゴは、そのパワーでコピーを駆逐すると、フォ・リフ・クローバが新たな攻撃に転じないうちに、アルンとゲイスンを確保し、背中のスラスターを吹かせて長岡天神丸に向かって上昇する。

 こうして、マーヤの機転でもって危機を脱したわけであるが……。

「ホッとしている場合じゃないぞ、アルン。おれたちはまだ目的を達しちゃいねぇんだ」

「言われずともわかってるさ、ゲイスン」

 そう責めるなよ、と言いたげなアルン。それでもゲイスンの愚痴は止まらない。

「ミコネフの姿が見えたとき、おれはすごくイヤな予感がしたんだよな。あいつはおれたちと志がちがってんだから。アルンはあまいぜ。なんであそこにミコネフがいたのかも、考えてみると妙だ。おれたちが来ることを知っていたということになる。ってことは、マーヤが収集した情報は、実はミコネフに誘導されてつかまされた可能性もあるぞ、というか、そうにちがいない。ロドリゲスがフォ・リフ・クローバの実のありかをつかんでいたと、どこかで嗅ぎつけて、おれたちを出汁につかったんだ。なんてこった」

「わたしのせいなの?」

 サブ席に戻ったマーヤが憮然とした顔をつくった。

 ゲイスンは機関席からマーヤを振り返り、

「ミコネフのほうが一枚上手だったということさ。あいつはしたたかだ。今ごろおれたちが追ってこられない場所に逃げ込んでいるに決まってるさ」

「ロドリゲスの飛翔船が見えてきたぞ」

 そのとき、再び船の舵を握っているワシェンゴが知らせる。

 前方窓から見える視界に、小さく黒い点が薄く広がる雲を背景に確認できた。青い夕日が、黄色い空を駆逐し、まもなく訪れる夜を迎える準備しているようだった。

 アルンは通信する。

「こちら、長岡天神丸。貴船、応答せられたし」

 すぐに返答があった。

「こちら、ロドリゲス」

「ミコネフを出してほしい」

「あのロボットなら、少し前にボートで出て行った……」

「どこへ向かったか、聞いていますか」

「さぁ、そこまでは」

「どうもありがとう。我々は独自にミコネフを追跡します。では、お元気で」

 アルンは通話を切った。ロドリゲスがなにかを言いかけたようだったが、それには気づかず。

「おれの思ったとおりだったな」

 ゲイスンはアルンを見やる。

「ワシェンゴ、針路南西に。赤道付近から大気圏を出る」

「ミコネフを追うのか?」

 ワシェンゴが確認する。

「当たり前じゃないか」

 息巻くアルンに対し、だがワシェンゴは静かに言った。

「ミコネフのことだ、きっとすぐには追いつけないよう、すでに空間跳躍をしているだろう。我としては先にアルンの修理を優先したい。このままにしておくと歩けなくなるぞ」

「気づいていたのか……」

 さっきの地上でのコピーとの格闘で、大腿部の骨格フレームが変形していた。外見そとからではわからないが、放置しておくとフレームの変形によってセンサーケーブルが圧迫され、信号が届かず誤作動を起こしかねない。

「ゲイスンもだ。電子眼の調整が必要だ。でないと、射撃に狂いが生じるぞ」

「ちくしょうめ」

「異論がないようなら、ティプトリー・イプシロンに向かう」

「ああ、わかったよ」

 アルンは天を仰いだ。

 長岡天神丸は加速する。夕闇がおりて地上を埋めつくす紫色も見えなくなるなか、上昇していく船体だけが陽光を受けてその姿を輝かせる。薄い大気を突き抜け、やがて真空の宇宙空間に出たとき、惑星ベイリー・デルタの地平線が孤を描いているのが見えた。

 さらに加速し、惑星重力を振り切ると、長岡天神丸は空間跳躍していった。

 その様子を、ベイリー・デルタを巡るいくつかの衛星の陰から見守る目があった。小さいために重力が弱すぎて岩石のようないびつな形の名もない衛星に、一隻の小型高速宇宙船が碇を下ろしていた。

 乗っているのはミコネフである。バルンフラワー号から乗ってきたボートでここまでたどりついたのだ。

「あらあら、せっかちなこと……」

 操舵室のシートに体を固定して、ミコネフはつぶやく。

「ま、いいわ。気持ちを切り替えて、次の仕事にうつりましょう」

 たくさんの受信メールからひとつを選ぶと、電話した。

「もしもし、いま、いいかしら? そう、ミコネフよ。こないだの話ですけど、情報が手に入ったわ。……わかったわ、そちらへ行ってもいいかしら? ……はい、ではのちほど」

 短く通話を終えると、船の発進準備にとりかかる。アルンたちとはまた別の方角に向けて──。


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